1噂の異世界転生をしたようですが、さては私は悪役令嬢ですね?詰んだ。
たぶん、たぶんだよ?
多分なんだけどさ……
……ここ、異世界じゃね?
「……まぁじかぁー」
鏡の前でずるずると床に座り込んだ私は、呆然と天を仰ぐ。
「なんでこうなるの!?」
思い切り叫んだら、びっくりしたメイドが飛んできた。でも説明が面倒なので、とりあえず手慣れた気絶をかましておいた。気絶は淑女の嗜みです。
「いやぁ……びじょぉ〜」
目が覚めて、もう一度鏡の前に立つ。まじまじと見入ってしまう。己が美しすぎて。
「何これ、作画誰?神絵師確定では?」
鏡に映るのはめちゃくちゃな美女だ。私とは思えん。ビジュアルさいつよ。
ぼんっ!きゅっ!ぼんっ!と肉感的な魅惑のぼでぃに、プルプルのぽってり分厚い真っ赤な唇。
病的ではないけど少女憧れの真っ白な肌に、アメジスト色の濡れた瞳と目尻の色っぽい泣きぼくろ。
そしてとどめは、黄金に輝く艶々の髪だ。見事にくるくると綺麗に縦ロールを決めている。寝てたのに一糸乱れぬ縦ロール。
清楚とか初心とかピュアとか、そういうワードとは程遠い、やけに大人びた少女。
それが鏡の中に映るワタシ、マリアンナ、十一歳だ。
……いやいやふざけんな。こんな十一歳いるかよ。十一歳でなんでこんなに胸あんの?は?男向けエロゲやエロ漫画の小学生女児じゃねぇんだからな?
「……ってそうじゃない」
つい現実逃避気味に己の胸を凝視していた私は、もう一度冷静に鏡を覗き込んだ。問題は。
「……いやぁ、見事だわ。見事な……悪役令嬢スタイルだわ…」
これ知ってる。
よくネット小説で見た典型的なやつだ。
「私、よりにもよって悪役令嬢転生しちゃったのか……」
流行り物好きとは言え辛いものがある。
前世も若い美空でなぜか死んだのに。まさかまた死ぬの?さっき前世を思い出してショック受けたばかりなのに。
「侯爵令嬢で、このお色気ぼでぃに縦ロール……確実に悪役令嬢でしょ。モブとは思えん」
美しすぎる己の美貌を凝視しながら、私は必死に脳をフル回転させて状況を整理した。
私は建国以来続く名家ザヴォイ侯爵家の娘だ。
自分で言うのもなんだが、才色兼備でマナーも完璧、魔力も最高レベルであるため少し自信家で傲慢、完璧主義であり、自分にも他人に厳しいタイプだ。
社交界ではパーフェクト・レディと呼ばれている。とてもダサい。
兄と弟の三兄弟でみんな年子だ。母様すげぇ。
兄は白金髪に銀縁眼鏡がトレードマークのクール美形、弟は濃い金髪に垂れ目の可愛い系男子。
どちらも系統の違う超美形でキャラ被りなし。
絶対攻略対象だろって作画の二人だ。
ちなみに記憶が戻る前の私はかなりのブラコンで、女性へのジャッジが厳しい私が「私より優れた女性でないとダメですわ!」とか言うせいで二人ともまだ婚約者はいない。やべぇ。既にフラグが立ちまくっている。こんなのたぶん絶対悪役令嬢じゃん???
ちなみに、近々王太子様のお茶会に招かれることが決まっている。そこで王太子様の婚約者に内定したりとかしたら確定だ。
そして何が一番問題って。
「……これ、なんのマンガ?もしくはゲーム?」
全然見覚えがないのだ。
この顔も名前も、国名も家名も、通う予定のデライ王立魔法学校とかって名前も。
全く記憶にない。
つまり、ストーリーも起こるイベントも、何も分からないのだ。
回避のしようがない。
「うわぁあ!まじか!」
悪役令嬢と思われる私が平凡な幸せを掴むのは、ただでさえ至難の業だ。
それなのになんのヒントもないとは。
「完全に詰んだ……!」
うめきながら私は頭を掻きむしった。
「やばすぎでしょ!私のセカンドライフ!?」