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10/13

魔法の効かない異常性愛者は恐い

 

 翌朝早くに目が覚めたオレは、庭でジェシカが起き出してくるのを待っていた。オレが先に金魚にエサをやるとご機嫌を損ねるから。


 大人たちは夕食の後も居間で寛いで夜更かししたのだろう、お酒でも飲んだのかもしれない、まだ屋敷はしんと静まり返っている。


 今まで知っていたことと、新しくわかったことをまとめてみた。


 オレが生まれる前、ビブリオ国とシャナン国の間で五年戦争があった。


 ウェセックス公爵はここのエクストル国防軍を援軍として指揮し戦った。

 敵同士でどうしてそんなことになるのかわからないが、公爵は魔女の一人を孕ませてオレができた。


 戦争は勝利して国境線は守られたが、ビブリオでは戦後、魔女の手先の修道会が内乱を起こそうとしていた。

 ユリアさまが毒を舐めなきゃならないという事件はあったようだが収束。

 修道会を何とか解散させて関係者はリハビリ中、今ではもう大丈夫。

 彼らから、オレがしゃべってたらしい魔女言語が解析された。


 オレは、魔女である実の母親に会いたいのだろうか?

 ジェシカが好きだから、この国が好きだから、母親のことは知らなくてもいいと言い切れるだろうか?

 それとも、母親のことをちゃんと知ってから、オレはどちらの陣営につくか決めるべきだろうか?


 エクストル国防軍の指揮など、生半可な気持ちでできることじゃない。

 国を守るなら、帰属意識も愛国心も100パーセントであるべきだ。


 ビブリオの戦場跡地やオレが居たというアユタリの山小屋に行ってみて、いったい何があったのか調べてみてからでも遅くない。


 確かに、父公爵の提案は間違っていない。

 今のうちに、知っておくべきことは知り、自分の立場を決める必要がある。


 恋にうつつを抜かしてる場合じゃないってか。


 そんなことをつらつら考えていて、後ろに人の気配があることに気付けなかった。


「ルーナス君、おはよう」


 ノルテックス公爵のにこにこ顔に迎えられてしまった。


「おはようございます、昨夜は遅かったのでは?」


「ジジイは朝が早くてね。少々の夜更かしじゃ変わらない」


 こっちは心を読まれたかとギクリとしたのに、ジジイは笑顔のまま。


「少し話ができないかなって思って」


 オレの返事を待たずに敷地の向こうの湖の方向に歩き出されてしまい、オレは、ついていくしかないかと足を進めた。


 庭木を縫って景色を眺めながら、楽しそうなジジイは一言も口を開こうとしない。


 ジジイというほど年寄りじゃないのはわかっている、61歳だと昨夜聞いたが、オレの祖父に当たる先王の弟なんだから大叔父、ジジイの一種だろう。


 鴨のつがいが遊ぶ岸辺でやっと歩みを止め、その当人が振り返る。


「僕の頭を撫でてみてくれないか? 魔法で」


「はあ?!」


 ヘンタイか? どうも昨日からずうっと、にやにや眺められている。

 少年愛なのか? ショタじゃなきゃ、青年を愛でるっていうアレか?


 年齢の近い同性愛ならそういう人もいるんだと思えるが、いくらなんでも歳が離れすぎだろう?


「はたいてくれてもいい。やってみてくれ」


 気味が悪いながらも、ジジイのごま塩頭の髪を逆立てる魔法をかけてみたが、髪の毛の一本も動かなかった。


「僕の念波が読めるかい?」


 念波?

 この人からそんなもの、感じたことがない。

 オレからしたら、魔力ゼロの、何とも冴えないジジイでしかない。


「……、何か発してますか?」


「ダメだな、僕も君の心の声は聞こえない。ルーナス君は『魔力王者』なんて呼ばれてるらしいが、その程度か……」


 ゾッとした。


 こんなジジイにオレの魔力が凌がれてるのか?


 実は、母上にオレの魔法は効かない。

 父公爵がいうに、母上は真っ白い魔法のベールで保護されていて、魔力が届かないのだとか。

 母上が手を繋ぐなり、背中に触らせてくれるなりしたときだけ、魔力を伝えることができる。


 目の前にいるノルテックス公爵も同じような体質なのか。


「君はビブリオに留学するんだろうね。僕のところに来たら、魔法をはぎ取られて裸同然の、心と身体の特別訓練になるから」


 薄気味悪いこと言うんじゃねぇ。

 生温かい目線に体中が総毛だつ。じりじりと後ろに退がってしまっていた。


「もしお母さんの手がかりがつかめて会えるようなことになったら、僕も会いたいと伝えてくれ」


「冗談じゃない!」


 そう叫んだ途端、やっと飛べた。瞬間移動で自室に戻っていた。

 ハアハアとまだ肩で息をしている。


 16年近く生きてきて、相手をこれほど恐ろしいと思ったことはない。

 部屋に置いてあるオレンジジュースをゴボッと飲んで、グラスをガチャッとテーブルに戻した。


(何なんだ、あのジジイ)


 思いが勝手に念波になったのだろう、ウェセックス公爵から返事が来た。


(魔力吸い取られたか?)


(そうかも……)


(オレが夕焼け、お前が月だとすると、あの人はブラックホールだ。他人の魔力をどんどん吸い込む)


(キモい)


(悪い人じゃない。普段は変装して『悪魔祓い師』をしている。本人に魔法は効かないし、人がかかった悪い魔法も吸い取れる)


(魔女の関係者じゃないのか? オレの母親に会いたいとか言ってたぞ?)


(あの人特有の物言いだな。魔女の魔力も吸い取れるかどうか知りたいんだろ。それより午後、3人で馬の遠乗りに出ないか?)


(3人ってノルテックス公爵と?)


(違うよ。アクツムとだ)


(わかった)



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― 新着の感想 ―
[良い点] おおお、これは! あのレイプで手来てしまった子なのですね……。それが異母妹と言えども恋をしてしまった……。 これはどうなる? ハッピーが見えないですが、どうまとめるか期待大!
[一言] >敵同士でどうしてそんなことになるのかわからないが  考えよう! 答えは割とわかりやすい!
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