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第36話  愛しています

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「愛してまーす!アレックス様を本当の本当に愛しているんです!」


 死刑場という趣味の悪い名前が付けられた場所で、マルーシュカが叫ぶその言葉を聞いた時に、アレックスは雷が直撃したような衝撃を受けたのだった。


 マルーシュカが手に持つ木の棒も、コミカルにリズムを刻んでしまう変な癖も、アレクは心の底から愛していた。そこら辺に落ちているものと同じようにしか見えない木の棒を手にして、光を発生させた衝撃で宙を飛んだマウエルリカを抱き止めたのは、彼女の幼馴染だったアレクサンドロに他ならない。


 何処の国も戦、戦に明け暮れ、多くの人が死にゆく中で、人々を救う彼女の力は光そのものだった。聖女の守り人として常に行動を共にしたアレクサンドロは、手酷い裏切りに遭い、彼女を救い出すまでに多くの時間を要することになったのだ。


 遠く、遠く、遥か遠くへと逃げ出して、誰も住まない森の中の泉の畔に一軒の家を建てた。彼女はその後、神の御許へと行ってしまったけれど、来世こそは一緒になろうと約束したことを忘れやしない。


 今世で心を動かさなかったのは、君との約束を守るため。周りの人間がどれだけ美しい令嬢を連れて来たとしても、君以外は欲しくない。


「ああ、マル、思い出して良かった。俺の愛するマル、今度は絶対に君を死なせはしない。絶対に、絶対に約束する」


 公爵家の兵士たちに制圧された娼館の入り口から外へ出たアレックスは、マルーシュカを抱えたまま馬車に乗り込み、彼女の頬に頬擦りをしながら涙を流した。


 アレックスは聖女の守り人、今世でもその役割を担う権利を得たことに対して、この世にある全ての神々に感謝せずにはいられないのだった。


 そうして今も片時も離れたくなくて、膝の上に座る彼女の柔らかい体を抱きしめる。そうして彼女が生きていることを確認しては、ほっと安堵のため息を吐き出すのだった。



 誘拐されたアレックスが公爵邸に戻って来ると聞いて、居ても立っても居られずに頭上にシャンデリアが飾られるエントランスホールで待ち構えていたアレクシアは、大事そうにマルーシュカを抱えて屋敷へと戻ってきた息子を出迎えて、

「何故、裸なの?」

 と、声を上げずにはいられなかった。


 見れば、彼の着ている衣服はボロボロのままで、上半身裸の上に外套をかけているだけの状態だった。


「お嬢様をお預かり致しましょうか?」


 ヴァーメルダム伯爵家から逃げて来たという執事のヨハンネスが、堪らずといった様子で声をかけて来ると、アレックスはマルーシュカを愛おしげに見下ろしながら首を横に振った。


 アレックスが愛おしげにマルちゃんを見るですって!


 アレクシア公爵夫人の驚きは最高地点にまで達していたが、アレックスに抱きかかえられた状態のマルーシュカはぐったりとした状態で目を瞑っている。


「聖女の調整役か、今の時代まで残っていたんだな」


 ヨハンネスを一瞥したアレックスは小声でそう呟くと、アレクシアに向かって言い出した。

「母上、マルーシュカの着替えを侍女に任せた後は、この執事がマルーシュカの様子を見守ることでしょう。私は彼女を部屋に運んだ後は、早急に進めなくてはならないことがあるのです」


 公爵家にもたらされた情報によると、リンドルフ王国へ密かに入国していた教皇カルレリア三世は、あろうことか違法の高級娼館に潜り込み、子供相手に痴態を繰り広げていたところを拘束されることになったらしい。


 丁度、王国には、聖女の涙を捜索するためにガブリエル枢機卿が入国していた為、早急の対処をすることになるだろうが、揉めることはまず間違いないとアレクシアは考えた。


「聖宗会のシンパを抑えに行くのね?今、公爵邸に残っている私兵だけでは間に合わないでしょうから、王家に援軍を頼んだ方が良いかしら?」


「母上、何故私が聖宗会のシンパどもを抑えに行かねばならないのですか?」

「それは王都の治安を守るため・・」

「はあっ・・母上、そうじゃないんですよ」


 大きなため息を吐き出したアレックスは、真摯な瞳となって訴えた。


「母上、早急にマルーシュカと私の婚姻を進めなければなりません。マルーシュカは間違いなく聖女の力を発揮したのです、うかうかしていたら枢機卿に連れ去られることになってしまいますよ」


「ええ?マルちゃんが聖女?」

「母上、いつでも何処でも私が婚約婚姻が出来るようにと、届出書を何枚も持っているのは知っているのです。今すぐ、早急に、用意してください!」

「は・・はい!結婚ね!アレックスが結婚するのね!」

「そうです!!」


 一瞬動きを停止させたアレクシアは、ハッと我に返ると、息子の気が変わってしまったら大変だということで、即座に侍女に届出書を持って来るように命じたのだった。


 色々と情報が多すぎて、アレクシアの頭の中は、全く整理が出来ていない状態ではあるけれど、

「結婚?息子が遂に結婚!」

 二十七歳にもなって結婚の『け』の字もなかったアレックスが、自ら早急に結婚をすると言い出したのだ。聖女とか聖女の力とか全く理解できないけれど、そもそもマルーシュカは聖女の末裔ではあったのだ。


「今すぐ旦那様に帰って来て貰わなくては!誰か!誰か!今すぐ旦那様を呼び戻して頂戴!」


 今まで悩みに悩んでも決して解消されることがなかった小公子の結婚問題が、今、ようやく解消されようとしているのだ。


「早く!早く!当主のサインが無ければ婚約届も婚姻届も出すことが出来ないわよ!」


 修羅場がまだ続いている現場から、急遽、呼び戻されることになった公爵は、

「アレックスがマルーシュカ嬢と即座に今すぐ結婚する?やっぱり愛だな!愛!」

 と言って、ガハハハと笑い声を上げたという。



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