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第22話  発見された遺体

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 普段から下働きのメイドと同じ時間に起き出し、井戸で水を汲んで顔を洗い、厨房の隅で簡単な朝食を済ませていた私が、朝はモーニングティーから始まり、アレクシア様が急遽用意してくださったというデイドレスを着て、豪華な朝食に舌鼓を打つ。


 貴族らしい朝を迎えたことなんて、今までほとんどなかった私が、

「ああ!朝から卵が食べられる幸せよ!」

 馬車の中でうっとりとした声をあげていると、目の前に座っているアレックス様が胡乱な眼差しで私の方を見た。


 アレックス様は無表情がデフォルトの男らしいのだけれど、下町で遭遇した私は意外に彼の表情がくるくる変わることを知っている。貴族は感情を表に出したら失格!みたいな所があるのかな?大変だな、貴族ってさ。


「今まで朝は何を食べていたんだ?」

「硬くなったパンを砕いて、白湯で溶かして食べていましたね」

「お前が硬いパンを白湯で溶かして食べている間、フレデリークは何を食べていたんだ?」

「公爵家よりかは地味かもしれないですけど、私にとっては普通に豪華なものを食べていましたよ」

「そりゃ、硬いパンを白湯に溶かしたものと比べれば、行軍中の配給食だって豪華に見えるだろうな」


 行軍中の兵士が食べるものの方が豪華なのか、朝から干し肉とか出るのかな?


「とにかく、私の保護下となったからには食に困らせるようなことはしない」

「それじゃあ、私、今日の夜ご飯は豚肉が食べてみたいです」

「何故?」

「食べたことがないから」


 アレックス様が大きなため息を吐き出しているうちに、馬車は城門を抜けて王宮の敷地内を進んでいく。


 今、私たちが乗っている馬車は公爵家の紋章が入った豪華なものではなくて、漆黒に塗られた小振りの小さな馬車だった。一頭立ての馬車は二人でゆったりと乗るような広さで、ベロアのシートは果てしなく柔らかい。


 王宮の横をすり抜けるようにして走り続ける馬車はやがて森の中に入り、ぐるりと迂回するようにして回っていくと小さな教会の前に出た。


 馬車が教会の前で停車したため、アレックス様のエスコートを受けて馬車を降りる。

 小ぶりな主聖堂の後が香部屋となっているようだったけれど、主聖堂と香部屋の間には、地下へと通じる石階段が続いている。


 通常、主聖堂の下には納骨堂(クリプタ)や王家を祀る霊廟などがあるもので、主聖堂で祈る人々の下には権力者の遺体が安置されているのだと、街の小さな教会の祭司様が教えてくれたことがあるわけさ。


 伯爵家の家人として教会を訪れたことはないけれど、炊き出し目的で通ったことがある私は、教会=食べ物を与えてくれる所というイメージを持っている。


「こちらだ」

 薄暗い地下を導かれるまま進み、一つの小聖堂へと案内されると、出迎えたのが医師のベイル様だった為、思わず声を上げてしまった。

「あれー?ベイル様だぁ!」


 ベイル様は嘉廣国で何年も修行されたお医者様なのだけれど、調香に興味を持っていた関係で私の作るポプリにも興味を持ってくれたんだよね。患者さんにも匂い袋が有効だっていうので沢山買ってくれるので、私にとっては上得意のお客様でもあるわけだ。


「おやおや、公爵邸に移動して伯爵令嬢としての身分を取り戻したものだと思っていたんだけど、中身は相変わらずな感じだね?」


 朝からドレスを着ているというのに、お出かけだからって、またドレスを着替えさせられたんだよね。ボロボロのお仕着せ一択だった私としては、待遇が激変したなーと実感する。


 ベイル医師が形の良い眉をクイッと上げながら嫌味っぽく言い出すので、

「今ね、アレクシア様からマナーの特訓を受けているわけ。だけどさ、ずっとマナーを気にしていたら肩が凝るじゃない?」

 と、答えて笑うと、アレックス様が、

「肩が凝るわりには、その木の棒は背中に入れたままなのだな?」

 と、言い出したので、私はベイル医師に木の棒を背中に入れて姿勢の矯正をしているのだと説明した。


「うわあ、本当だ、本当に木の棒を入れているよ」


 ベイル医師は私の背中をそっと触りながら呆れた声をあげているけど、アレックス様は後を向いて肩を震わせている。アレックス様にとって私の愛する木の棒はツボなんだな。


「まあ、そのなんだ、綺麗なドレスを着てみても、君が相変わらずだということはよく分かった」


 動揺を隠すように咳払いをすると、ベイル医師はカルテを手に取りながら、布に覆われた塊の方へと移動する。


 壁も床も天井も石で囲まれた小聖堂の中央には長テーブルのようなものが置かれており、そこに、おそらく人なのだろうものが寝かされている。麻布で覆われているので中身は見えないけれど、噂の焼死体なんだろうな。


 それにしても、一応、私は女性のはずなんだけど、二人は躊躇なく麻の布を剥ぎ取ると、ああだこうだと私見を互いに言い出した。


 昨夜、ヴァーメルダム伯爵邸に忍び込んだ誰か(警備についていた公爵家の私兵が二人ほど拘束したらしいんだけど、毒を煽って死んだらしい。侵入者はおそらく4名程度、何を思って侵入し、火をかけたのかは分かっていない)は、厨房に置かれた油を撒いて火をつけた。


 厨房から広がった火は天井を焼き、2階にある伯爵の私室や夫妻の寝室などを焼いていったらしい。警備の兵士が消火活動に当たってくれたお陰で、屋敷は半焼程度で鎮火したんだけど、厨房横の食糧庫の下から半分焼けた状態の男の遺体が発見された。


 男は死後数日は経っているようで、生焼けとなった内臓の状態から毒を飲んだ事による死亡が確認されているとのことだ。


 上から火に炙られるような形となった遺体は、髪の毛は全て燃えているし、頭から肩にかけては真っ黒な消し炭に塗れた状態となっているんだけど、

「間違いなく、護衛として雇われていたデルク・ルッセンでしょうね」

 消し炭を見下ろしながら私が答えると、

「やっぱりそういうことになるよね〜」

 と言ってベイル医師は顔を顰め、アレックス様は無表情のままドアの方へ視線を向けた。



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