影鬼
「影踏みしようよ」
小学校2〜3年だろうか?知らない男の子だった。人懐っこい笑顔。
「ごめんね、早く家に帰らなきゃなんだ」
バイバイ、と手を振る。校庭では1度家に帰って戻ってきた男子がサッカーをしている。
今日は日直で日誌を書いていて遅くなってしまった。私はサッカーをしている男子の中に今日の日直の相棒を見つけて、グッと拳を握り込んだ。明日、絶対殴る。
「急ぐの?走るの?じゃあボクが鬼。追いかけるから、家まで走って逃げて」
男の子は楽しそうに笑う。影踏みすることを了承したわけでもないのに。その男の子から離れたかったので私は走った。
「じゃあ10数えたら追いかけるね」
いーち、にーい、さーん…間延びした声。私は5年生の中では足の速さは普通くらいだ。2〜3年生の子が追いつけるとは思えない。多分、諦めてくれるだろう。
夕日が眩しい。
「おねえちゃん、追いついたよ」
後ろから大人の声がした。息切れもせず、笑っている。
「ボクが影を踏んだら次の鬼はおねえちゃんね」
影は後ろに伸びている。男の子の手が背中に触れる。
「今からおねえちゃんが影鬼だよ」
男の子の影がにゅっと伸びた。違う、男の子の身長が伸びたんだ。違う、男の子が私になったんだ。じゃあ、私は?私は、誰?私は、影鬼。