最深部
〜終わりと始まり〜
最深部
〜禁止区域〜
店長「おい、ただでさえ、森の中で暗いっつーのにまだ暗くなんのかよ」
橘先輩「おい、春樹、大丈夫か?」
春樹「は、はい、…わっ!」
そう答えるがすぐに足元でドスッという音が聞こえる。何か平べったくて固いものを一瞬踏んだ。
店長「どうした!!?」
春樹「あ、いえ、少し何か踏んだみたいですけど…大丈夫です、すみません」
橘先輩「暗いからな、足元気をつけろよ」
春樹「はい」
確認したかったけど、なんせこの暗さだ。とてもできない。それにしても何だったんだろう?何か平べったくて結構厚いものだったような気がしたけど。僕はその感触が気になったが、すぐに考えを切り替える。今は少なくともこの暗い中だ。とても考え事をしてる暇などないはずだ。僕は頭を切り替えて周りを再度見渡すが、本当に暗い。そして何より静かだ。禁止区域に入る前から静かではあったのだが、それでも虫の音ぐらいはしていた。しかしこの禁最深部?、正確にはそれに繋がっているだろうと思われる空洞の中の通路に入ってからはそういった音が一切しない。不気味なくらいに…
ただ、それでも前に歩く信頼できる大人の背中だけが何よりの頼りだった。
それからしばらくすると狭い空洞の中からようやく広い場所へと抜ける。見た目だけなら最深部前とあまり変わらない場所だった。
店長「…ここが立入禁止区域ってやつか?あんま入り口と変わんねーな」
橘先輩「確かに、昔から色々言われてるから、てっきりどんなとこかと思ってだけど、ただ噂がひとり歩きしてただけみたいだな」
春樹「……」
僕らはどんどん奥へと進んでいく。
店長「ホタルがちゃーん!!」
橘先輩「おーい、誰かいねーか」
店長「ほら春樹!、お前が探さなくてどうすんだ!」
春樹「は、はい…」
そう言われるが、僕はさっき入り口に入ってからの違和感のようなものについてずっと考えていた。まるで空間そのものが変わったというかまったく知らない世界に足を踏み入れたような感覚に、ただただ気味が悪かった。そのことが気がかりでふとした拍子に後ろを見る。すると衝撃の事実に気づく。
春樹「えっ…?」
橘先輩「おい、どうした春樹,お前さっきから大丈夫か?」
春樹「…先輩、ヤバ――」
店長「おい、あそこ見ろ!!」
店長がそう言うと僕はそのことを一瞬気がとられた。
店長「犬がいる。おい、こんなところに犬がいるぞ。小さくてかわいいなおい!よしよし、いい子だ」
犬は僕達を見つけるとカワイイ顔で寄ってくる。その犬を店長は撫で出した。
店長「飼い主はどうした?はぐれたのか?おっと、よしよしわかったから」
犬「くぅーん」
と何か言いたそうにいう。それに店長が うん?どうしたと耳をすませるように顔を近づけると――
犬「いただきまぁーす」とちいさい子供にはのような声でしゃべりだし、かなり大きな口を開け、犬のものとは思えない血だらけの尖った歯で店長の顔以上に口を開け、店長の顔を食べようとする。
店長「えっ?」
一瞬だった。理解が追いついていない店長を横からポン、と少し押した。何故そうしたのかは上手く言えない。でももしかしたら今までの育った環境からか何に対しても警戒から入るようになっていた癖のようなものがよかったのかもしれない。その犬?は尋常じゃないくらいの速さで店長がいたはずの空間を噛むと静かだった禁止区域にありえなく鈍い音が鳴り響いた。
すると店長が悲鳴の声をあげる。
店長「う、うわああああああああ!!!」
橘先輩「に、逃げろ、早く!!」
と僕らは元の出口の方へいくがそこで待っていたのは最悪の現実だった。
橘先輩「は!?、出口は?」
店長「で、で、出口、なんで?確かにここにあったはずなのに!」
そう、確かに出口はここにあった。そう思っていた。さっき後ろを振り返るまでは…
出口が完全に消えていた。まさかだった。いつ消えたのかも気にする余裕もなかったが確かなのはそこにあったものがなくなったということと、気がつけば崖まで追い込まれたという事実だけだ。
そして…
橘先輩「ひっ!」
前を見るともっと最悪の事態だった。さっき一匹だけだと思っていた犬、化け物が前に40匹以上もいた。
店長「な、なんなんだ、なんなんだよここ!!?」
そう怒るように言うと先頭にいる先ほどの化け物と思われるものがかわいい顔をして少しずつ、少しずつと寄ってくる。
店長「や、やめろ、くるな!!」
いくら言ってもどんどん後ろへ追い詰めらる
すると化け物が
化け物「なんなんだってって?、禁止区域だよぉ?」
といい、その場で口を大きく開け、牙が見える。そしてその奥には敵がまだ増えていっているようだった。
店長「はは、だめだこりゃ…」
店長は諦めたのか、しりもちをついた。
化け物「やめてよぉー、僕が先にみつけたんだょ。手出さないでね…」
化け物は後ろの仲間にそう指示する。
橘先輩「い、嫌だ、死にたくない」
化け物は襲いかかってくる。そして店長の腕を食いちぎろうとするところを狙い、ショルダーバッグに入れていた警棒で下手ながらもひっぱたこうとするが見事に当たらない。
化け物「ぐぎゅ!!?」
しかし偶然の中の偶然だがそれが化け物の口の中に縦に入り、入り口が警棒で挟まる形になった。化け物は必死にのたうち回った。
この警棒はお父さんの形見だった。使い方はよくわからかったけどいつも鞄の中にお守りとして入れてあった。
店長「は、春樹!?」
春樹「に、逃げましょう…早く」
店長「……!」
春樹「……お願い!…もう、これ以上は…絶対に…死なないで」
正直膝も手もがガクガクと震えていた。
警棒で挟まれて、痛みにのたうち回っていた敵もすぐに起き上がり、明らかに敵意を丸出しにした目でこちらを睨んでくる。
…怖い、あんなのに噛まれたらどうなるんだろうと色々な恐怖が頭をよぎる
店長「……くそ!」
店長はそう言うと
店長「うおおおお!!」
居間にも僕に向かって来ようとする化け物に横からタックルするように首元を押さえつける。そしてそのまま取り押さえるような形で捕まえる。そして首を締めて、相手が噛めないような体制をとる。
春樹「て、店長?」
その様子に敵の群れ、仲間の連中もこれはまずいと動き出してくる。
店長「おい、薫!!」
橘先輩「な、なんだよ?」
店長「春樹を後ろに落とせ!!」
橘先輩「う、後ろって…お前正気か!?」
後ろに足場はない。完全な崖だ。
店長「ここにいるよかまだ助かる可能性がある!!」
橘先輩「……でも」
店長「薫!!!」
目を合わせる二人、一瞬の出来事だった。
橘先輩「……わかったよ、しょうがねーな」
橘先輩は苦笑すると、なにを察したのか覚悟を決めた顔で先程落ちた警棒を拾い、僕のところへ走ってきた。
そして僕のショルダーバッグに警棒をいれながらそう言うと僕を担いで
橘先輩「悪いが時間がねぇ…理不尽なことして本当にすまねぇ!でもここにいればまず間違いなく命はねぇよ…もう確率の話だ。それでもここが森である以上下に何かしらのクッションになるものなり、なにかあればまだ助かる可能性がある。もし生きてるんであればかなり痛いかもしれねーけどな…そこは絶対なんとか我慢しろ、なぁにお前運がいい。だからなんでもいいから生き残ってくれ…」崖の前まできて言った。
春樹「え…?ちょっと待ってください、先輩?ねぇちょっと離してください!嘘ですよね?ちょっと…」
僕は出来る限り息に溜めをつくり、怒鳴るように
春樹「人の話を聞いてくださいよ!!!」
橘先輩「うるせぇ!!!」
橘先輩「てめえ前にも言ったろ!!もっと大人を頼れ!あと目的を履き違えんな!お前は妹のためにここにきたんだろ!?」
春樹「それは…!」
橘先輩「それにな…お前…まさか俺達が死ぬとでも思ってんのか?この後で全力で走って逃げるんだよ!生きるための選択だ!そこに今お前がいたら邪魔なんだよ!!」
嘘だ…それぐらいわかる!!
春樹「先輩!!!」
橘先輩「春樹!!!」
選択は一つ間を置くと…泣きそうな笑顔で
橘先輩「……ごめんなぁ」
そう言うと先輩は俺を放り投げるように下に投げ飛ばした。すると僕は
春樹「ああああああああああああ!!!!!」
と森の奥へ泣き叫ぶように落ちていった。
そして…また一人になる