笑顔の魔法
〜終わりと始まり〜
笑顔の魔法
アレックス家
僕達はあれからアレックスの家に戻り、しばらくこうして向き合っていた。アレックスは多分僕が落ち着くのを待ってくれてたんだと思う。そうしてしばらくすると
アレックス「どうだ、少しは落ち着いたか?」
春樹「はい…あのアレックスさん…」
アレックス「ん、なんだ?」
春樹「あの…すみませんでした」
アレックス「すみませんって何が?」
春樹「えっと言われたことと違うことしちゃって…えっと、ただあんなことするつもりはなかったんですそれは…本当です」
アレックス「…」
アレックス「昔何かあったのか?」
春樹「いえ、僕の素性は昨日話した通りです。ただ自分にもわからないんですけど始めはアレックスさんが魔法を使ってるところをイメージしたんですけどそれが、途中でなぜか変わって…」
アレックス「何が見えたんだ?」
春樹「なんかすごく燃えてて、家が…ただ知らない家で何かはまったくわからなかったんですけど」
アレックス「…そうか」
春樹「や、やっぱり才能がないからなのかな…」
アレックス「あ?才能?」
春樹「昔からそうなんです、昔から何をやろうにも上手くいかないことが多くて、もし出来たとしても周りよりもとっても時間がかかるんです。僕が失敗しても学校の先生はいつも、失敗は誰にでもあるとか最初からできる人なんていないっていうけれど現実は違って、最初からできる人っていうのはきちんといて他の人達もできないまでも筋が良くて見込みがある人達が多くいました。僕にはそれが、とても羨ましかった。」
小学校2年生くらいのお話でこの頃はまだまともに学校に通っていた方だと思う。とはいっても店長の仕事を始める前のことだけど僕らの小学校では縄跳びとかけ算の九九ができるかが当時はとても重要だった。かけ算の九九も縄跳びも僕にはとても難しいものだったけどチャレンジシートがあったので夢中になって僕たちは取り組んだ。このチャレンジシートは例えば縄跳びだと普通に跳んで10回跳べたらとか、ランクが上がっていくと二重跳びが十回とべたらとか、とにかくそういった各ノルマを達成するごとにいろんなお仕事のかっこいいシールだったりかわいいシールが貼ってもらえた。九九も同じでまずきちんと言えるようになれば今度はスピードが上がりつまずくことなくスラスラと読めるようにならないといけなかった。僕も始めの方はみんなと同じでついていっていたけれど縄跳びが普通に跳べるようになって、九九も読めるようになってからが問題だった。難易度が上がるとそこから先がまったくできなかった。縄跳びだと二重跳びが十回出来ず、九九だと6の段から何度やってもどこがでつまずいてしまい、結局ダメだった。特に九九の6の段が出来れば警察官のシールだったのでとても欲しくて頑張りすぎて家に帰るのが遅くなってしまい、おじさんとおばさんの家に帰ってこっぴどく怒られた後も2階の自分だけの部屋(荷物置き場だが)で何度も練習した。そして何度も何度も挑戦したけど…結局ダメだった。でもみんなは何事もないようにどんどん進んでいき、ああ、自分には無理なんだろうな、と思わずにはいられなかった。そして何より挑戦して失敗する度に大丈夫だよ、次は出来ると言ってくれる先生の顔もあまり笑顔が作りきれてなくて、ああ、こいつまだここなのか、っていわれてる気がして、いくら教わっても成果がでないのも申し訳なく思って
春樹「努力して、努力して、長い時間をかけてやっとできるようになってもみんなはもう次のことをやってる」
春樹「だからあんまり教わるとアレックスさんにも―――」
といってアレックスさんの方を向いた時だった。
春樹「えっ…?」
そこには妖精がたくさんとびまわっていた。とても自由に
アレックス「なあ、春樹」
春樹「は、はい」
初めて名前を呼ばれた。
アレックス「正直お前が何を言ってるのかあんまりわかんなかったが、でもよぉ、才能がどうのって話な、じゃあもしお前に才能がなかったらそれは、魔法を使っちゃあだめなのか?」
春樹「…えっと…それは…」
アレックス「お前は、どうやら自分のことより先に相手のことを考えるみてぇだな」
アレックス「ったく、お前みたいなガキが何を一丁前に気ぃ遣ってんだよ。まあなんだ、もっと自分にわがままでもいいんじゃねーの?」
春樹「…わがまま」
アレックス「大人じゃねーんだ、こうするべきとかじゃなく、お前がどうしたいか言ってみろ」
春樹「僕は…」
春樹「――みたい」
春樹「僕も、アレックスさんみたいに魔法を使ってみたい」
アレックス「…そうか」
アレックスさんは僕の言葉を聞くとニィと笑い
アレックス「ようし、んじゃあ今やるか?」
春樹「ええ!!今ですか!?」
アレックス「思い立ったら吉日ってな、なあに、俺がとっておきのコツを教えてやるよ」
春樹「コツですか?」
アレックス「ああ、といってもまあコツも人それぞれだからお前に当てはまるかはわからんがな」
アレックス「まずはさっきの"ライト"をもう一度やってみろ」
春樹「でももし…」
アレックス「なあに、もし火事になったらお前に修理を手伝ってもらうだけだ」
春樹「修理って…」
アレックス「あぁ?さてはお前俺一人にさせるつもりか?」
僕はその言葉を聞くとと一度ポカンとなり、ぷっと吹き出し笑ってしまった。本気で笑ったのはいつ以来だったっけ?なんにせよ、アレックスさんにそう言われると不思議と力が出てくる。
アレックス「いいか、春樹、確かに魔法は使い方を間違えると危ない、人を傷つける。でも正しく使えば人を幸せにする事だって出来る。だから決して魔法を怖がるな、お前から歩み寄ってやるんだ。楽しめ、魔法は常にお前と共にある。」
僕は空間に手を添えて両手を包みこむようにする。そして目をつむり、
魔法と一緒に遊ぶ感覚で!怖がなくていい、僕から優しく―――
歩み寄れ!!
そうすると手のひらあたりにふと違和感を感じた。なんだろう?
するとアレックスさんが
アレックス「春樹、目を開けてみろ」
と言うのでゆっくりと開けると
そこには眩しくも優しく、そして何より綺麗な炎があった。
春樹「えっえ?」
ちょっと整理がつかなかった。でも手に確かに感覚がある。本当に不思議な感覚だ。これが…
春樹「…魔法」
ポンと手が頭の上に乗る。見てみるとアレックスさんの手だった。アレックスさんはニィと笑い
アレックス「なんだ、やれば出来るじゃねーかコノヤロウ」
と言った。僕にとってはその手だけが唯一の証拠のようなもので気づくと
春樹「…へへ」
と笑っていた。
初めて使った魔法は僕にとってとても神秘的で宝石のように輝いて見えた。そしてこの日を境に僕の世界は変わったんだ。