覚悟
〜終わりと始まり〜
覚悟
〜禁止区域〜最深部
春樹「ホタル!!!!」
くそ、折れた左足をかばいながらであるにせよあれからかなりの距離を進んだのにまったく見つからない。なんでだ。まったくホタルの痕跡がない。どこかで道を間違えた?でもどこで?大きな別れ道なんてなかったし、ほぼ大きな一本道だ。
春樹「というかどこまで続いてるんだろう?この道」
いくら自分が左足を折れた状態でちょこちょこに進んでいるにせよそれでも結構な距離を進んだ。それなのに奥がまったく見えない。しかしそれからもう少し進むと奇妙な音がした。僕はその音に警戒する。ホタルかも?という淡い期待はすぐに裏切られる。
化け物「ぐぎゅるる!」
春樹「…!?」
どうやらさっきの化け物がどうやってか下まで降りたらしい。しかしそんなことはどうでもよかった。僕の目はそれよりもその化け物が口に加えているものをずっと見ていた。
春樹「…て、店長…?」
その化け物が口にくわえていたのは血だらけで力なく冷たい目をしている店長だった。
しばらく時が止まった。いやあの時別れた時点で覚悟はしていたつもりだった。ただそれでも心の底は橘先輩の言った言葉にすがりたがっていた。本当は生きているんじゃないかとなんの根拠もない期待をしていた。だってそうだよ、人が死ぬところなんてを見ることなんて人生で一度も経験がない。物心ついた時がにはお父さんもお母さんを僕からしたら初めからいなかったから。想像なんてできるわけがない。とてももう知っている人に見えなかった。それぐらい店長の目は生気がなく、冷たかった。もう本当に死んだんだ。店長は、そして今ここにはいないけど橘先輩もどこかで…
そして僕は電池が切れたようにその場にビタッと止まると後ろに尻もちをついた。そして自分も死ぬんだと悟った。しかし地面に落ちたその瞬間ショルダーバックからなにかが落ちた音がした。僕はそれを力なく見るとそれは警棒だった。橘先輩が最後に入れてくれたものだ。それを見ると何故か店長の声がした。
店長(諦めんな!!)
もう死んでいるはずなのに声が聞こえる。間違いなく錯覚だけど店長ならそう言うんだろうなぁとなぜか苦笑いをしてしまう。そして警棒を拾うと折れている左足を庇いながら再び立つ。二人の言うとおりだ。3日以上店長達が死ぬほど探してくれて、そして命を掛けてまでここまできて現にようやくさっきホタルの唯一の証拠を見つけたんだ。店長達が命と引き換えしてまで僕にくれたものだ。なのにここまできて諦めるなんて絶対ありえない。僕は相手を出来る限り睨んで警棒をぐいっと出し、真っ直ぐに向き合う。使い方はわからないけど、僕は一応右利きなので、両手で持ちつつ、右側に持っていく。
化け物「あれ?…もう逃げないの?」
春樹「……」
正直言葉を交わしている余裕はない。僕は全力で頭を回転させる。
さっきあの化け物の口が開いた時に見た牙をみる限り噛まれたら終わりだ。間違いなく食いちぎられる。そのこともあり、理想は相手の攻撃を受けることなく交わして一撃を入れることだ。そしてそこから何度も打って決着をつける。だが実際問題自分に相手をかわすのなんて無理だ。今までろくにスポーツなんてしたくてもできなかった。正直当てるのも困難だろう。だから――
と僕は覚悟を決めると
春樹「うおあああ!!!」
僕は正面から堂々と敵に対峙する。。
それに化け物は少し意表を突かれたようだが、すぐに目をギロリと光らせると僕に向けてすごいスピードで迫ってくる。その差は一瞬でゼロになり化け物は勢いよく僕の腕に噛みつく。
春樹「ぐあああ」
牙が食い込む。血もたくさん出た。しかし――
春樹「いた!でも、よかったこれなら…当てられる」
僕はそう笑うと化け物が少し怯えたのを感じる。でももう遅い。
予想通りわざと差し出した僕の反対の腕に食いついてくれた。利き腕さえ残っていれば、当てられる!そして
春樹(狙うなら、目!!)
僕は警棒を突き立てると、化け物の左目めがけて警棒を突き立て、すぐにふりおろす。
化け物「くきゅう!!」
目に直撃すると化け物は僕の腕から口を放し、僕からしたら距離をとる。
春樹「くああ!!」
本当に痛い。でもここだ。勝負はここで決まる。僕はすぐに態勢を整え、敵をめがけて真っ直ぐに走る左足の折れた痛みなど気にしない。ここで殺らないと殺られるのは自分だ。不思議とそういう確信のようなものがあった。
僕は今まで運動をしてこなかった。だからこれといって運動神経がいいほうじゃない。でも唯一の取り柄くらいはある。今までどんな状況になろうとも、何度だって逃げたくなったって、一度も逃げなかった。何度だって叩かれても蹴られても、ずっとずっと我慢してきたんだ。
春樹「だから、この我慢と根性だけは絶対に誰にも負けない!!!!」
そして左腕と折れた左足の痛みを一瞬だけ忘れ、この一発だけ、と痛いのを気にもせず足を踏ん張り、両腕を思いっ切り振り上げる。折れた左足のビギッと痛む。でも関係ない。これでで最後!
化け物は急に左目が使いものにならなくなったことでバランス感覚が不安定なようだ。ここだ!!僕はそこを狙い、全力で警棒をふりおろす。当たれ!!
春樹「うわあああ!!!!!」
ボゴ!!!!という鈍い音とともに、化け物はぐわぇという異音を出すとともに倒れる。
春樹「…や、やった…?」
見てる限り動いてはいないようだ。どうやらなんとかなったらしい。ホッと心の底から安堵するも、忘れていた左腕の痛さと右足の痛さ、そして疲労に僕も倒れた。しかししばらくするとすぐに動き出す。正直ここで立ち上がる気力はないが地べたを這いつくばっても前へと少しづつ進んでいく。
春樹「ほ、ホタル…ホタル…」
今にも消え入りそうな声で妹の名前を呼ぶ。