唯一の手掛かり
〜終わりと始まり〜
唯一の手掛かり
禁止区域 最深部付近
グイッグイッという奇妙な音がする。
春樹「……うっ」
不思議な浮遊感に違和感を覚えてか、意識が少しずつ回復する。ぼやけた目で前を見てみると葉っぱに包まれている状態だった。
春樹「えっと…どういう――」
状態?と考える前にすぐに先ほどの光景がフラッシュバックする。
店長「春樹!!!!」
体がビクッとなると、それと同時にバキッという嫌な音がした。そして不思議な浮遊感が急になくなる
春樹「えっ?」
そしてその音とともに下へと急激に落下が始まる。
春樹「う、うわああああああああ!!!!!」
それと同時にグキッという鈍い音がする。
春樹「う、ああ…」
着地をすると同時に左足が折れたようだ。
痛すぎて動けない。そして涙がどんどん溢れてくる。痛さだけじゃなかった。それも確かにあったけどそれと一緒に今まで思ってたこと、ずっと口にしなかったことを初めて口にする。
春樹「……なんで、なんでいつも…僕なの…」
家族は妹以外とうの昔からいない。親の顔なんて知らない。親戚は僕ではなくお金にしか興味がない。学校では家のこともあり友達なんて深い関係になれない。
ああ、もっときちんと学校にいきたかったなぁ友達と一緒に勉強して、学校が終わって遊んで、家に帰ったら親がいてホタルがいて、暖かい料理があって…もしそんなふうな生活ができたらどれだけ幸せなんだろう?他の人にはどう映るかな。ただの普通にしか見えないのかもしれない。でもその普通がどんなに幸せなのかは無いものにしか気づけないんだ。
春樹「…お父さん、お母さん、ホタル…」
小さい声で名前を呼んでも当然何も起きない。
ただただどんどん涙が出る。
僕はそもそもなんでここにきたんだ?あくまで小さい可能性だったはずだ。その小さい可能性のために店長達を失った。もしあのとき入り口で踏みとどまっていればこんなことにはならなかった。僕だ。全部僕が原因だ。結局僕は関わった全ての人を不幸にする。疫病神だ。もはや生きる価値なんてない。わかってるんだ。昔からそんなことはずっと、それでも…
春樹「…ホタル…ホタル…」
妹を探す。自分にとって残された唯一の繋がり。足が折れて動けなくても必死に地面にすがりついた状態でゆっくり、ゆっくりと前に進む。僕に出来ることなんてもうただそれだけだ。もしこの世界に僕と関わりのある人間が一人もいなければ僕は多分ここで諦め、そのまま孤独死していたんじゃないかと思う。でも店長達は命を懸けてまで僕をここまで連れてきてくれた。僕にまだ生きる理由をくれた。崖から落とされた時、一瞬だけ死を覚悟した。でもこうして生きている。ホタルを探すことができる。それを考えれば足が折れてるだけで済んでいるのは相当運がいいのかもしれない。もはや奇跡だ。
そこからは30分ぐらい時間をかけてちびちびと進んでようやく落下地点から200mぐらいへ移動した時に思わぬものを見つける。とても古びたカバンが落ちてある。
春樹「…これは」
間違いない。これはホタルのカバンだ。これがあるということは間違いなく近くにホタルがいる。中を開けると、何故か相当ボロボロになっている本が入ってあった。これは僕がホタルにプレゼントしたクリスマスプレゼントだ。その割りにはかなり年期が入っているが感じがとても気になったが、僕はdreamcometrueと書いてある本をカバンに戻し、それを持ち、左足の痛みを堪えて、折れてない方の右足でなんとか立ち上がると、
春樹「ホタルー!!!!」
と力いっぱい叫び、移動のスピードを上げていった。