どうやらちびっこエルフは大人になりたいらしい
「怖いか?このピーマンが」
震えるメラニーをよそに、俺は積み重なっているピーマンから1個手に取って洗う。
「ピーマンは生が一番美味い」
俺は水が滴るピーマンに齧りつく。
「ああ……この苦みがいいんだよ」
ピーマンのパリッとした触感と瑞々しい苦みが口の中に駆け巡る。
「ま、お子さまにはわからないだろうけどな」
メラニーは信じられないという表情を浮かべて俺を見る。
「な、何かの間違いですわ!!ピーマンなんて食べ物じゃありませんの!!」
「そうか……お前は知らないんだな。ピーマンには大人になれる成分があることを」
「お。大人になれるセーブン?」
「ああ、これを食べれば誰だって立派な大人になれるんだぜ」
俺は知っている。お前が大人に憧れていることを。
いやまぁ、語尾にブレブレな「ですわ」とかつける子どもエルフはきっとこの世界では少数派だろ。
「立派な大人になれる!?…………いや、それは嘘ですわ。きっと私をだましてますの。紙ヒコーキと同じように」
「それは悪かったって。けどな、大人になれるってのは本当だ。メラニー、お前はオトナなエルフになるには何が大切だと思う?」
メラニーはしばらく考え込み、結論が出たのかパッと顔を上げた。
「身長ですわ!!」
「……そうだな。子どもらしい答えだが、それは正しくないし、ある意味では正しい。例えばだが、お前は今の身長でこれから生きていくことになったとしたら、大人になれないのか?」
「い、今の身長で……ですわ?……わかりませんわ。けど、見た目が子どもと変わらないなら……」
「そうだな。外出するとき子ども扱いされることもあるかもしれないな」
「それは嫌ですわ!!立派な大人は夜中一人で出歩いたとしても何も言われませんわ!!」
「そうか。…………そういえばこんな話を知っているか?照り輝くエルフの御伽噺を」
「当たり前ですの。光輝くような髪のエルフが世界を平和に導くお話ですわ」
「その光輝く髪のエルフは子どもか?」
「大人ですわ!!冗談も大概にしてくださいまし!!」
「だが身長についてなんて一言も言及してないだろ。唯一の特徴として、照り輝く髪をもつといわれているだけだ。なのにそのエルフをメラニーはオトナだと判断した。これはなぜか」
「なぜって……光輝く髪はエルフの金髪を指しているからですわ」
「俺らだって金髪じゃないか」
「違いますわよ!!わたしたちは黄髪ですわ!!金髪はオトナのエルフですわ!!」
「そうか。じゃあこのピーマンを食べ続けると金髪になれるとしたら?」
「嘘ですわ!!」
「いや、本当だ。このピーマンにはエルフにのみ効果がある成分が含まれている。これを食べ続けると立派な金髪のエルフになれること間違いなしだ」
「う、嘘ですわ」
「はあ。俺が本当のことを言ってたらどうする?お前の母も俺の母も立派な金髪だが、それがピーマンによって齎されたものだとしたら、お前は一生黄髪だぞ」
「い、一生黄髪!?でも確かに身長が高い人でも黄髪は見かけることがありますわ。……その、みんな暗い顔をしていましたわ」
「それが、ピーマンを避け続けた弊害だ。ピーマンを食べなければお前の言う大人にはなれない」
「そ、そんな……どうすれば」
「安心しろ。今日から食べればいい。毎日の積み重ねが俺たちに金髪を齎すんだ」
「……わかりましたわ。これも立派な大人になるための準備。わたしは……やりますわ!!」
「いい心意気だ。腕によりをかけて作ってやるよ」
「おいおい。食べてすぐ寝るなよ」
「…………」
ソファーに座る俺の太ももには丸くなって寝ているメラニーの頭が乗っている。
「初めは少なめに入れたが、全部食べられるなんて偉いじゃないか」
机の上には青椒肉絲が乗っていた皿が置いてある。
皿洗いをしないといけないが、頭をどかすこともできないので、テレビの電源を消してこのままくつろぐ。
「大人になる……か」
大学生で死んだ俺は大人になったかといわれると多分だが否である。
大人になるとは、そう簡単なものではないのだ。
子どもが大人になるために「身長」が必要というと、それは間違いだという人がいる。子どもはなんて浅はかなんだと思う人もいるだろう。
だが、俺は子どもの理論が間違っているとは思わない。身長は大人として見られるために大切な要素なのだ。
「子どもが大人になるには風貌が必要だが、大人が大人になるには別の何かが必要なんだろうな」
『主殿。急に何を言ってるのですか?』
背後からシューシュが現れた。音もなく現れるのでいつもビックリしてしまう。
『いつもの魔法練習のお時間ですよ』
「今日は何をするんだ」
俺は毎日決まった時間にシューシュに魔法を教えてもらっている。まだまだ基礎らしいが、これをこなせれば母にバレることなく外出できるらしい。異世界に来て外出禁止なんてもったいなさすぎる。
『今日は微風です。そよ風を体の周囲に発生させてください』
「え?それだけか」
『はい。それだけのことを彼女が起きるまでです』
「メラニー、起きてくれ」
『だ、駄目ですよ!!鬼ですかあなたは!!』
メラニーの眠りは深かったらしく未だ起きてない。
「チッ」
『じゃあ、頑張ってくださいね』
そういってシューシュは消えていった。
「んあ?」
「お目覚めのようだな。眠り姫」
限界に近かった俺は微風を止め、ソファーにもたれかかる。
「…………!?ご、ごめんなさい!!寝てしまって」
「大丈夫だ。良く寝れたみたいでよかった」
メラニーは俺の太ももから頭を起こし、ソファーに腰を掛けなおす。
「気持ちいい風でしたわ。エフィの魔法?」
「そうだ」
「またお願いしても?」
「駄目だ。あと2時間くらいで母が帰ってくるし、魔力もあまりない」
「そう。……じゃあ、私は帰りますわ。今日は、その……ありゅ…………ありがとう……です……ゎ」
「おう。また来いよ」
「ま、また来ていいんですの?」
メラニーは目を見開いて俺を見る。
「そりゃそうだろ。俺はいつも暇だしな。今日みたいにお前が来てくれると助かる」
「そう……なんですの?」
「ああ、久しぶりに楽しかったよ」
「そう……そうなんですの」
メラニーは、「ズン!!」という鼻をすすったような音とともに走り出し、玄関のドアに手をかける。
「大人なレディはクールに去りますわ!!」
「お、おう!また明日な!風邪ひくなよ!」
忙しない奴だな。
俺は静かになった部屋のソファーに腰を掛けて、テレビをつける。
「明日は晴れみたいだな」
エフィ「このピーマンなんて名前?」
母「ピーマンはピーマンでしょ」
エフィ「ピーマとかピーマソじゃなくて?」
母「???」