どうやらちびっこエルフが訪問してきたらしい
エルフの成長は人間よりも少し早い。
この世界に生を受けて4年が経過した。俺は既にある程度話すことができるようになり、母の手を煩わせることはなくなった。
「ちょっと、エフィ!!勝手にお母さんより早く起きないで!!」
最初は母からこんなことを言われたが、今は違う。
「エフィちゃん!!今日のお弁当は何かしら!!」
「モーリボアの生姜焼き」
こんな風に今では俺がこの家の料理番だ。
母は料理上手だった。しかし、朝から仕事に行かなければならないので、俺の分の料理を作るとなると負担が大きい。俺も料理はできるし、自由に体も動くので日頃の感謝を込めて朝ごはんやお弁当、夕食をつくっている。
「ああ!!こんな幸せでいいのかしら!!職場のみんなに毎日息子の手作りお弁当作ってもらってますって言ったら確実に殺されちゃう!!」
毎日こんなに喜んでもらえるので俺としては嬉しくて仕方ない。前世じゃ、料理なんてできなかったからな。ずっと料理系動画を見て涎を垂らしていただけだった。足があるって最高だ。
「それじゃ、行ってくるわね!いい子にしているのよ!!くれぐれも外に出ないように!!」
「わかってる。いってらっしゃい」
母が玄関から出ていった。と思ったら、すぐに戻ってきた。
「いってらっしゃいの儀式を忘れていたわね」
「毎日やらなくても……」
「ダメよ。エルフ秘伝の儀式なの。忘れたら大変だわ」
「え?何が大変なの?」
「死ぬわ……私が」
「えぇ!?」
「いいから右の耳をこっちに向けて」
「えー、これ恥ずかしいんだよなぁ」
「我儘いわないの。さあ」
俺は右耳の先を母に向ける。
「風の精霊よ。愛しい我が子にユグドラシルの御加護を与えたまえ」
母はそういって右耳を甘く噛む。毎回歯形がつくくらい噛んでくる。エルフ耳は繊細じゃなかったのか!!
「それじゃ、本当に行ってくるわ」
「ああ、行ってらっしゃい」
玄関まで見送り、鍵をかける。
「さて、何して暇をつぶそうかな」
ソファーに腰を掛けおもむろにテレビをつける。
天気予報を見ると、今日明日は晴れていてそれからずっと雨らしい。
「天気がよかろうが悪かろうが俺には関係ないか」
母から外で遊ぶのはまだ早いと言われ、部屋で魔法を使って遊んだり、家事を手伝ったりすることばかりだ。
「たまには外で遊びたいな」
――ピンポーン
「あれ?インターホンが鳴ってるな。母か?」
俺はリビングにあった椅子を運んで上に乗り、少し届かなかったインターホンを見おろした。
「誰も映っていないじゃないか」
誰かの悪戯か?だが、誰が?俺には心当たりがないぞ。
「あ、あの!!エフィ……エフィさんはいる……ますか!!」
インターホンから声が聞こえてきた。俺に用があるらしい。
「エフィならいます。俺です。今は母が留守なので、母に何か用でしたら伝えておきますが」
「ち、ちがうわ!!あ、あなたに用があるの!!」
「そうですか。要件をどうぞ」
「よ、ようけん……?」
どうやら相手は俺の想像より幼い子らしい。もしかしてインターホンに映っていないのは俺と同じように身長が低いからか。
「あー、ごめん。何か俺に用があるのか?」
「うっ……ち、ちがうわよ!!」
ちがうのか。やはり悪戯で間違いないか。
「ちがうけど……エ、エフィ……さんがひまなら相手にしてあげるわ。そう!!かんだいなわたしに感謝してくださいまちて!!」
「…………」
――なるほどな。もしや、俺は人生の岐路に立たされているのかもしれない。
これは、そう。 デートのお誘いッ!!
前世では、体験することのできなかった未知の領域!!
「いいいいいい」
「??」
「……いやだめだ」
「なんで!?」
「お母さんから家に居るように言われている。これは破ることはできない」
「す、すこしだけ!!すこしだけならいいでしょ!!」
「少しでもだめだ。……けどまあ、このまま帰らせるのもあれだし。家で遊ぶくらいならいいか。」
「ほんと!?やった!!」
伸ばした手がインターホンからチラリと見えた。
ドアを開け、ちびっこエルフをソファに迎え入れた。
「俺はエフィだ。よろしく」
「わたしはメラニー!!よろしくしてあげる!!」
「ああ、よろしくな。メラニー。そういえばどうして俺の名前を知ってたんだ?」
「そんなことはどうでもいいの!!早くあそびましょう!!」
「あ、ああ。そうだな。で、何して遊ぶんだ?」
いけないいけない。面白くない質問でレディの機嫌を損ねるところだった。
「わたしは……あなたが考えて。わたし、わかんない」
ほう。これは試されてるな。ならば……
「紙ヒコーキはどうだ」
「紙ヒコーキ?ふーん。いいじゃない。わたし自信あるわ」
メラニーがニッコリ笑った。よかった正解を引いたようだ。
「じゃあどちらが長い時間飛べたか勝負しようか」
「時間?距離じゃなくて?」
「おいおい、メラニー。この家の壁から壁なんて簡単すぎて勝負にならないだろ?もしかして、できないのか?」
俺は両腕を広げ、首をかしげて挑発する。
「わ、わたしだってそれくらいは余裕よ!!今に見てなさい!!」
メラニーはすぐさま俺が用意した紙でヒコーキを作り、飛ばした。
「へえ、見事なもんだな」
想定より結構飛んでいたので、素直にほめる。
「へへん!!わたしはせかいでイチバン紙ヒコーキが上手なの!!あいてがわるかったわね!!」
胸をそらしドヤ顔するちびっこエルフ。
すごい、確かにすごいが……
「それじゃあ、世界で2番目だぜ」
俺は紙を手に取り、前世に学んだ折り方で紙飛行機を作り上げた。
「いっけええええええええ」
言葉とは裏腹にゆっくりと紙飛行機を投げる。
「浮遊」
投げられた紙ヒコーキに魔法をかける。
紙ヒコーキは空中でゆっくり等速直線運動をしているような軌道を描き、壁にぶつかって墜落した。
この勝負は滞空時間が長いほうが勝ち。つまり……
「え……負けた?わたしが?」
メラニーは床にぺたんと膝をつく。
「そうだ」
俺は未だ現実を受け入れられていない少女を見下ろして笑う。
「確かに相手が悪かったな」
「…………ひきょうとは…………言わないわ。けど次はわたしが勝つのは決まっていましてよ」
「めっちゃ言いたそうだな。ま、しばらくやろうか。コツとか教えるよ」
「テキにシオをおくるとはヨユーですわね。ま、まあ教えてもらうのも悪くないですわ」
「おっけー。じゃ、もっとこっちよってくれ」
「こうですわ?」
「そうだ。俺が後ろから補助するから、最初は好きに投げてくれ」
「いきますわよ。せいっ」
メラニーが疲れてきたのか、紙飛行機がだんだん飛ばなくなってきた。
「すこし疲れましたわ」
「そうだな。昼時だし、もう帰るか?」
「まだすこしやり足りないですわ。午後も後ろから支えてくださいまし」
「俺は母が帰るまで大丈夫だが、親とかご飯は大丈夫か?」
「大丈夫ですわ……といいたいところですが、家にお弁当を置いてきてしまいましたの」
「そうか。取りに行ったあと戻ってくればいい」
「嫌ですわ……あのお弁当、わたしの嫌いなピーマンばかりですの。ピーマンじゃご飯は食べれませんわ」
メラニーはピーマンが嫌いらしい。俺も嫌いな時期があったな。それでもお父さんの料理で克服したし、今では生が一番うまいとさえ思っているが。
「そっか……じゃあメラニーのお母さんには悪いが、俺たちでお昼ご飯を作ってみるか」
「わたしたちでですの!?やりたいですわ!!」
まあ、メラニーの嫌いなピーマンが主役だがな。
――これが後に動画サイトを賑わせる”elf's kitchen《エルフズ キッチン》”その始まりである。
俺は冷蔵庫に入れてある野菜をキッチンに運ぶ。
メラニーは運ばれていく野菜を見て、案の定震えていた。
「ピーマンばかりですわああああああああああああああ」