どうやら悪霊に憑りつかれたらしい
生まれて数日、俺の生活に変化はなくいつも通りの毎日を過ごしていた。
『ある……の…………あーるーじーどーの。聞こえていますか?』
「…………」
『ふー』
「ひゃふああーーーー!?」
うっすら寝ていたら耳に吐息のようなものが当たる。
『起きましたね。今、私はあなたの耳に直接語りかけています』
何!?気持ち悪!!吐息止めろ!!
『気持ち悪とは何ですか!!偉大な風魔法を馬鹿にしているのですか!!』
だって実際そうだから。
『慣れてください』
嫌だ。俺は寝る。
『ふー』
「ふひゃああ」
『主殿。風の大精霊シューシュの力、思い知ったでしょうか』
ふんすふんすと鼻息が俺の鼓膜を震わせる。最悪だ。どうやら悪霊に憑りつかれてしまったようだ。
『私としてはあなたが屈服するまで吐息をかけ続けてもいいのですが』
シューシュはすごい!!精霊なんて初めて見た!!それだけでもすごいのに大精霊なんて!!素敵!!
『素敵だなんてそんな。結婚しましょうか、主殿』
遠慮します。ところでシューシュさんはなぜ俺に声をかけたんだ?大精霊なんだよね?なぜこんなところに?
『遠慮と質問は程々に。さんはやめてください。ちなみに、なぜここにというのは恥ずかしいので内緒です。話しかけた理由ですが……それは主殿が暇そうにしていたからです!!』
主殿って俺のこと?生まれてはじめて言われたわ。生まれたばかりだけど。
けど確かに、暇といえば暇だけど特にやれることもないだけだし。
『そこで私が話し相手になろうと思い至ったわけです』
へえ、話し相手ねえ。あ、じゃあ魔法を教えてほしい!!火魔法とか使ってみたい!!これはマラゾーマじゃない。マラだ。みたいなやつ!!
『下ネタですか?』
違うわ!!
『そうですか。ですが、火魔法はダメです。あれは野蛮人が使う魔法です。森に住まうエルフとして生を受けたなら風魔法しか使ってはいけません』
え?けどさっきエリオラさんの娘が水魔法に適性があるって……
『よそはよそ。うちはうちでしょう?あまり我儘いわないでください』
うわ。小学生の子どもがねだってきたときに母が言いがちなセリフ1位のやつだ(偏見)。
ま、いいや。じゃあ風魔法でいいからカッコいい魔法を教えてください。
『態度が気に食わないですが、いいでしょう。と、言いたいところですが今は無理です』
え?なんで?
『あなたは生まれたばかりでまだ魔力量や、魔力制御が全然です。このまま、派手な魔法を使うと最悪死にますから教えられません』
あーなるほど。確かにそれはまずいな。時間がたてば使えるようになるのか?
『そうですね、なるといえばなりますが、幼子のときから訓練していけばすぐに使えるようになりますよ』
訓練!!いいね!楽しくなってきた!!で、それはどういう?
『体の周りに一定の強さの風を渦巻かせるのです。弱い風でいいですから均等に風の強さと向きを合わせるのが大事です』
風を渦巻かせる?ど、どうやって?コツとかある?
『肌に触れる風の感覚を深く深く感じ取るのです。風とはなにか。それを理解することこそ風魔法の第一歩なのですから』
全然自信が湧いてこない。流石に無理でしょ。
『無理ではありません。……大丈夫。私は風の大精霊シューシュ。風魔法については世界一ですよ。胸を貸してあげますから、ついてきてください』
……わかった。せっかく魔法がある世界なんだ。使えるようにならないと勿体ないか。
オッケーだ。信じるよ。シューシュ。
『ええ。信じてください。主殿を選んだ私を』
(そして……愛してください。主殿が選んだ風を)