口無とビルト
0:カラガラスーパー出入口
口無:思ったより、買っちゃったな
口無:(M)特別安かったわけじゃない。でも、チャバとハルのために何かをするのは久しぶりだから、ちょっと奮発した。
口無:(M)あれも作りたいとかハルが好きだった食べ物を久々に見つけたとかがたくさん重なって、結局両手にビニール袋を持つはめになった。
口無:(M)まぁ、幸い。左手の方が軽いから、いいけど。
口無:雨が降らないうちに帰るか
口無:(M)出入口の自動ドアを通り、また大通りへと歩いていく。
相原:(M)スーパーの自動ドアから少し離れたところに立ち、チャリンとチェーンの中心についている十字架を見つめる。
相原:(M)黒十字って言うらしく、ドイツで使われてるやつってミューデが言ってたけど、俺はよくわかってない。
相原:(M)でも、これはカッコいいから嫌ではないけどな。
相原:(M)ふと、自動ドアから1人の男性(女性)が鞄と買い物袋を持って出てきた。
相原:(M)俺はスマホを開いて写真を見た後、その男性の顔を見る……うん、あの男がターゲットだ。
相原:(M)彼は俺の前を通り過ぎて、スタスタと道路を歩いていく。俺はスーツの襟を正して彼女の20m後ろを歩き始めた。
0:若花商店街
口無:(M)道っていうのは不思議だと、商店街の方へと入って行くたびに思う。にぎやかな大通りから、静かで温かい小さい道になる。
口無:(M)今はシャッターがほとんど閉まってしまったけど、ぽつりぽつりと灯る街灯の中を歩いて行く方がやっぱり落ち着くから、こっちを通るようにしている。
相原:(M)口無香来、31歳。創作洋食料理店『トレーネ』の料理人……そんなデータを思い出しながら、シャッター商店街の道を歩いていく。
相原:(M)彼は相変わらず、スタスタと前を歩いていく……買い物袋2つって多いな。
相原:これから作るより、弁当の方が楽だろうに
相原:(M)思わず声が出て、慌てて口を押さえた。彼はフッと振り向いたのが見えて、潰れた店と店の間に隠れる。
口無:(M)チャバと僕、そしてハルといた日々を思い出すように、春が
好きだった春の歌を口ずさむ。
口無:(M)私のスニーカーの足音とビニールの揺れる音が聞こえる……でも、聞き慣れない革靴の足音と声が聞こえて振り返る。
口無:だれ、ですか……?
口無:(M)誰もいなかったけど、一応声を上げる。
口無:(M)昔は地獄耳だったのに、ハルがいなくなってから感覚が鈍くなったのか、ちょっとしか聞こえなかった。
口無:……気のせいか
相原:(M)そっと覗くと、彼女はまた歩き始めていた。俺は静かに息を吐いて、また歩き出した。
相原:(M)危なっ……今までこんなことなかったのにな。ワックスで固めた前髪を優しく撫でて、気持ちを切り替える。
相原:(M)あっ、そうそう……この関係で、彼の店で昼ごはんを食べたんだけど、めちゃくちゃうまかった。
相原:(M)俺が頼んだのはオムライスだった……玉子の上にケチャップがかかってるのが来て、普通のだって思った。
相原:(M)でも、甘かった。
相原:(M)ペラッと玉子をめくると、そこにはつやつやの白いごはんとちょうどいい厚さのベーコンが混ざったものが見えて、ほんのりレモンとバターの香りがした。
相原:(M)さらに、玉子にケチャップをバーッて伸ばしてから、スプーンですくって食べたら……クリーミーな甘さがこんにちは。
相原:(M)玉子にチーズがとろけてた。またその甘さがケチャップとバターライスに合ってもう……