口無と燈野(4)
0:創作洋食料理店『トレーネ』の廊下
燈野:今日の食材たちも、生き生きとしていたよ。嬉しい!って声も聞こえてきた
口無:今日は豚の気持ちになったんですか?
燈野:ううん、あえてピーマンの気持ちになってみたんだ
口無:ピーマン……ですか?
燈野:そう、ピーマン。子どもが苦手な……僕も苦手なね?
口無:そうでしたか、すいません
燈野:大丈夫だよ。ピーマンの肉詰めって、ピーマンに肉詰めか、肉詰めピーマンじゃないかって、思われているピーマンだけど
燈野:そのピーマンを、小さくサイコロ状にした上で、子どもが、好きなマヨネーズと醤油で炒めるという気遣い
燈野:それを彩りの一つと、豚肉を包み込むソースにするなんて……ぼく、今まで残してきたピーマンに、申し訳なくなったよ
口無:(M)苦手なモノを好きになるのが、大変なのは、よくわかっているつもりだけど、一工夫で変わることが知れて、とても嬉しかった。
口無:(M)『口無……お前は食材の声が聞こえるんだな』と、調理師学校の先生に、初めて褒められたのを思い出す。
水嶋:『コウはすごいよ、俺にないモノを持ってる』
口無:(M)ハルも、よく褒めてくれていたな。もちろん、トウノ店長も、すごく褒めてくれる……こんな僕なのに。でも、さっきの言葉が、一番心に染みる。
口無:(M)ただ、今日はいつもより、すごいみたいだ。
燈野:コウちゃんはすごいね。どんな食材でも、良いところを引き出してくれる。
燈野:料理って、生き物の命を奪うことだと思っていたけど、コウちゃんは、その命にちゃんと敬意を示して、生きた証を残したり、より生かしてくれるよね
口無:そんな、大それたことしてませんよ
燈野:いや、してる。コウちゃんは、大した料理人だよ……トレーネに必要なね……?
口無:あ、ありがとうございます
燈野:これからもよろしく……口無シェフ!
口無:(噴き出し笑い)
燈野:もう!真面目に言ってるのに!!
口無:(M)いつもの雰囲気に、戻った……こっちの方がいいな。
0:創作洋食料理店『トレーネ』の裏口
燈野:今日の試作品、新メニューに採用しても大丈夫だよ。あとで、レシピと材料費がわかる紙を、出してくれればいいから(店のカギをかける)
口無:ありがとうございます!明日の朝一に、提出いたします
燈野:もう!無理しないでねって、言ったばかりだよ?もっと良くなるように、練ってから出しても、大丈夫だからさ……良い子だから、わかるよね?
水嶋:『真面目なのは、コウの良いところだけど、ブレーキがないから、ダメなんだよ。だから、俺がいるんだから……ね?』
口無:(M)ねぇ、ハル。僕はやっぱり、ブレーキがないみたいなんだ。だから、止めに来てよ。早く、今すぐ。