口無と燈野(2)
燈野:無理しちゃダメだからね
口無:(M)創作洋食料理店『トレーネ』の正規の従業員は、現在3人……僕とトウノ店長、そして、ここのオーナーの甥であるもう1人だけ。
口無:(M)それに、トウノ店長は、調理師免許は持っていないから、料理人は僕とあと1人のみ。まぁ、昔はもう1人、いたんだけど。
口無:(M)だから、倒れられたら、店が成り立たなくて困ると、いうことだろう。トウノ店長の単なる口癖だ。
口無:大丈夫ですよ、好きでやってますから
燈野:それなら良いんだけど……ハイペースに作ってくれるから
口無:(M)週に3回、いやほぼ、毎日試作品を作っている。給料の半分は、料理研究に当ててるから、無理もない。まぁ、それしかやることがないから。
口無:迷惑ですか?
燈野:ううん、全然じゃないよ。むしろ、嬉しい……コウちゃんにもソラヤくんにも、自由にやってほしいと、思っているからさ
口無:(M)ニンジン、ピーマン、じゃがいもの配分が、均一になるようにすくって、豚肉の上から、滝のようにかける。
口無:(M)カッコつけて言っていたから、ちらっと顔を見てみると、トウノ店長の顔は、真っ赤に染まっていた。
口無:恥ずかしいなら、カッコつけなくていいっすよ
燈野:だって……だってぼく、店長だもん!
口無:(M)ちょっと、いじるのが楽しいのは、嘘じゃないんだ。
口無:では、試食をお願いします
燈野:はい、いただきます
口無:(M)フォークを強く握ったのを見て、緊張が走る。トウノ店長は一番上の肉に、フォークを突き刺す。そして、野菜ソースに絡めていく……まではいいんだけど。
口無:(M)ピーマンが付くたびに、皿に擦り付けたり、フォークの先で取って、脇に寄せたりしているから、もしかして。
口無:……店長
燈野:(悪いことをしているところが見つかった子どものように)はいぃ!
口無:ニンジン、ピーマン、じゃがいもと野菜は彩り、栄養バランスを考えて、サイコロにいたしました。
口無:手の指のように、どれも切り離すことはできないのですが……いかがいたしましょう?(手のひらを見せ、ピーマンをさす左の人差し指を右手で掴み、もぎ取るように強く引っ張る)
燈野:わかった、わかったから!ピーマンもちゃんと食べるから、そんなことしないで!!
口無:(M)トウノ店長は、ピーマンを多めに絡めて、から、肉を口に運んだ。実際の僕は、痛くも痒くもなかったから、ただの子ども騙しだったんだけど……トウノ店長はいい人なんだな。
口無:(M)なんなら、手なんてなくなってしまってもいいのに。もう僕には、生きる資格がないんだから。
燈野:食べれた……美味しい!野菜の甘味と醤油マヨネーズの酸味がマッチして、豚肉の旨味、引き立たせているね。これはイケるよ
口無:(M)僕はやっと、胸を撫で下ろすことが、出来た。これだから、料理はやめられない。大切な人を失ってでも……なんて、言えたらいいのにな。