口無と水嶋
0:2016年9月21日、病院の個室
口無:(M)個室のドアを開けると、鼻チューブを付けたハル……水嶋春が、季節外れの春の歌を口ずさんでいた。
口無:(M)黒々とした髪と黄色く染まった痩せ細った顔を、葉が枯れて落ちた木と煌々と輝く月が見える外へと、向けている。
口無:ハル……?
水嶋:あっ、コウ!待ってたよ(胸に抱えていたラッピングされた箱を渡す)
口無:ハル。今日は2016年9月21日だよ……僕の誕生日でもないし、付き合った記念日とも関係ない、何でもない日のはずなんだけど。
口無:むしろ、退院祝いに僕がプレゼントを持ってきたくらいなのに
水嶋:俺にもあるの?
口無:もちろん……はい
水嶋:ありがとう
口無:(M)ハルから受け取った後、僕は静かに、ハルの膝にプレゼントを置く。
口無:(M)脇に置いてあるパイプ椅子に座ってからラッピングを解き、箱を慎重に開けた……中には、金色に光る十字架のペンダントが入っていた。
水嶋:わぁ、俺の欲しかったやつ!銀色に光るケルベロスのブレスレット、かっこいい。ふふっ、似合う?
口無:うん、とても似合ってる。やっぱり、ハルはどんなものでも合うから、良いよね。でも、こんなに素敵なものを僕が付けたら(もったいない)
水嶋:(かぶせて)大丈夫、コウは可愛いんだから……俺が魔法をかけてあげる(優しく微笑む)
口無:(M)僕は、ハルの笑顔に引き寄せられるようにハルへと近づいていくと、ハルの手は、僕の首の後ろへと回る。くすぐったくて、思わず目を閉じた。
水嶋:(リップ音)
口無:(M)びっくりして目を開けたら、ハルはキラキラな瞳を僕に向けていた。
水嶋:ほら、より可愛くなった
口無:あ、うん……あ、ありがとう
水嶋:ふふっ、どういたしまして
口無:(M)ここで、時間が止まればいいのに。
水嶋:(軽く笑う)コウ……俺、とっても幸せなんだ
口無:なんで?
水嶋:(無視して)だってね、コウとつながってるから。あとね、気持ちも……ね?
口無:……うん
水嶋:はなればなれになっても、いつも一緒だから
口無:(M)僕の胸に当てていたはずのハルの手が、今度は僕の頭を撫でる。このまま、帰れなくなってしまえばいい。ハルとずっといられるなら、死んでもいいんだ。
水嶋:ねぇ、コウ……愛してるよ
口無:(M)ああ、溶けてしまいそうだ。身体も心も、熱くてたまらないよ。
水嶋:コウ、コウ、コウ……
口無:(M)ハルに、名前を呼ばれるたびに僕は本当に溶けてしまったのか、まばゆい光に包まれるように目の前が白くなっていった。