節約その7 〜誕生日プレゼント〜
「どうでしたか? お気に召しましたか???」
シアンはにっこりしてレストランの外へ出る。
「あ……えっと……とってもおいしかったです」
「それはよかった! では、次はどちらに……」
「すみません! 今日は少し疲れてしまいましたので、また後日に致しませんか?」
リリシアはシアンの言葉を遮って言う。
「は、はい……お気に召していただけなかったようで残念です。では、失礼いたしますね」
シアンは去って行った。
「……帰るわよ、リュウ」
「はい……」
リリシアとリュウは馬車に乗る。
「……お嬢様、あの方が気に入らないのでしたら婚約を断ってもらうよう、私が旦那様に掛け合ってみましょうか?」
リュウは言う。
「……どうしたの? さっきまであんなに丁寧にもてなせって言ってたのに」
リリシアは笑う。
「あ、いや……なんと言いますか……あんなにやり辛そうなお嬢様は初めて見たので……。お食事にもほぼ手をつけておられなかったですし」
「ありがとう、リュウ。でも大丈夫よ。自分のことは自分でなんとかするわ」
「そう……ですか」
***
翌日
「リリシアちゃん! もう少しで君の誕生日だね!」
父親が言う。
「…………そういえばそうね」
(最近は、側から見てもちゃんとした人に見えるようになってきたわけだし、『淑女たるもの』を達成したと言っても過言ではないのではないかしら! ……となると、このまま行けば、流石に3年後に殺されることはなくなるのかしら……?)
「ごちそうさま。パパ、片付けるから食器はそこに置いておいて」
「わかったよ」
(でも、そういう保証があるわけでもないわ。油断せずにいよう)
リリシアは洗い物をしながら考える。
(少し悪いことをしたかとも思ったのだけれど、結局あのオリヴァー様は二股をすることで、クリスティーナ? も苦しめたわけだし、しょうがないわよね。少しは痛い目をしたかしら)
「あぁぁぁあ! オリヴァー様と結婚なんてごめんだわ! どうにかして破棄したい……」
リリシアはひらめいた。
(もしかして、前と同じ態度を取れば、勝手にオリヴァー様は婚約破棄してくれるのではないかしら!)
(でも、破棄されたら、パパが私に気を遣って、また浪費生活に戻ってしまうわ……)
「結局、オリヴァー様から逃れる方法はないのかしら……」
***
書斎の掃除をするリリシア。目の前には書斎で書類に目を通している父親が座っていた。
(こういう時だけは貴族っぽいのよね。パパ。ママが死んでしまった時から変わってしまったって、みんな口を揃えていうけれど……私はママに会った記憶なんてないし、どんな人だったんだろう?)
「あ、そうだ。リリシアちゃん」
「どうしたのパパ?」
「さっき言いそびれたんだが、誕生日、何が欲しいのか、考えておいてね」
「ええ。ありがとう」
(前の16歳の時の誕生日は洋服を洋服屋ごと買うとか、ありえないことをしていたわね……)
「あ!!パパ!」
「ん? どうしたんだい?」
「誕生日プレゼント! 廊下にたくさんある壺が欲しいわ。それで、なくなった分の壺を新しく購入しないことを条件で!」
(そうして、壺を売って、そのお金で寄付しよう!)
「そんなんでいいの!? 全然いいよ! むしろ今あげちゃうから、洗い物終わったらおいで〜」
「え? あ、ええ……」
思いのほかあっさりと承諾されて、リリシアは驚く。
***
「あ、きたね!」
父親が言う。隣には謎の黒い服の男がいた。
「……パパ、私、この壺全部売って、寄付するつもりなのだけれど……それでいいの?」
リリシアは少し申し訳なさそうに言う。
「……うん? むしろそうだろうと思って、そのつもりで話を進めていたよ? ほら、今、ざっとだけどお金を見積もってもらってたんだ」
「…………え?」
「いやぁ、リリシアちゃんのことだからこうするだろうなってね。パパも最近思ったんだよ。民衆は辛い思いをしていたんだと」
父親は言う。
「……っ!」
(変わったのは私だけじゃなかった! きっと、誰かが変わろうと努力すれば、周りも巻き込まれて、やがて大きなものへと繋がっていくのだわ……!)
「ラスカタ・ミール・オルラレア様、では、全て売却するということでよろしいですね?」
黒い服の男が言う。
その時、左にある一つのツボにリリシアの目は止まった。黄金の花が描かれている壺だ。
「……やっぱり嘘。これだけ、残しておくわ。私の部屋に置く……」
「了承しました。では、お嬢様のお部屋にお運びしておきましょう。あとで金品はラスカタ様にお渡しします。よろしいですね?」
「……ええ。ありがとう」
***
夜、調べ物をして、部屋に戻ると金色の花が描かれた、見事な壺が一つベットの横の小さい棚の上に置いてあった。
「……これくらいならいいわよね……?」
リリシアはつぶやいた。
次話も1週間以内には出します!