表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/24

節約その5 〜掃除〜

「料理も作れるようになったし、大分『淑女たるもの』が身についてきたわね」

リリシアは書斎で読んでいた本を閉じながら呟く。


「次は……掃除……ね……」




***




「お嬢様!? なぜ箒をお持ちになられているのですか?」

カヤは言う。

「あー……えっとね、ただ、普通に掃除をしようと思って……」

「掃除!? それなら私が毎日しておりますが……」


「そうじゃなくて! あなたに負担をかけすぎるわけにはいかないもの。だってパパとママの部屋も、あなたがやっているのでしょう?」


リリシアの家は何故かメイドはカヤしか雇っていないし、コックも一人だし、護衛もリュウだけだった。後は庭師が1ヶ月に一回くらい来るのくらいだろうか。


(なんでたくさんお金を使うくせにそこは倹約しているのよ……)


「お嬢様……!」

カヤは感動している。

「とにかく! 何かわからないことがあったら聞きに行くから! どこにいると思う?」


「はい! 私はいつも、この掃除用具が揃っている、この用務屋か、自分の部屋におりますので! いなかったら、旦那様や奥様のお部屋にいると思います」


「わかったわ!」




***




「……よっと……」

何度も往復して掃除道具を持って行くのは面倒だからと欲張ってしまったリリシアは、雑巾とバケツとほうきとちり取りを持って、ふらふらと廊下を歩いていた。


(こんなことになるなら、しっかりに分割くらいにして運べばよかったわ……前が見えないし、危ないもの……)

すると、前から足音が聞こえた。


(誰!?)

父親ならばまた面倒が起きるからと別の人であることを願うリリシアをよそに、その足音は近づいてきた。


「……お持ちしましょうか、お嬢様」

(この声は……!)

「リュウ!」

荷物をそのまま下に置き、前を見る。そこにはやはりリュウがいた。


「はい、リュウです。……どうされたのですか?」

「あー、えっとね、掃除をしようと思って」


「掃除ですか!?」

「うん」

「…………わかりました。じゃあ、これは私が運んでおくので……お嬢様のお部屋まででよろしいでしょうか」


お嬢様が掃除をするという意味がわからない光景に少し困惑しつつも、お嬢様を批判してはいけないという気持ちが勝ったリュウは、そのまま立ち去ることにした。


「え! いいの? ありがとう!!」

「いえ……なので、お嬢様はお先にお部屋でお待ちください」

「あ、うん……」



***




「やってしまった……」

(リュウ一人に運ばせてしまったわ……。私も手伝えばよかったのに……。押しに弱いなぁ、私……)

すると、扉が開く。


「お待たせいたしました」

掃除用具全てを持ってきたリュウが言う。

「うん……ありがとう……ごめんね……」


「は、はぁ……」

リュウは当然のことをしたまでなのに、謝っているお嬢様を不思議そうに思う。


「あ、掃除ですよね。私も手伝いましょうか?」

「え? いいの?」

「はい。今日はもう鍛錬も終えておりますので。これから自室で何をしようかと考えていたところなのです」


「本当!? ありがとう!」

「はい。じゃあまずはどうされますか?」

「うーんとね、『上からやる』っていうのが基本らしいから、その方針で……壁をやりましょう!」


リリシアはリュウが持ってきた道具の中から、埃叩きを二つ取り出す。

「はい! リュウは扉を挟んで左の方の壁からお願い。私は右の方からやるわ!」

「ありがとうございます」




***



3時間後


「つっかれたわーーー!」

リリシアは寝転がる。


あの後、床や棚なども念入りに掃除をしたため、だいぶ疲れが溜まったようだった。


「流石にリュウも疲れたでしょう? 座っていいわよ」

ずっと立っているリュウに椅子に座るよう促す。

「ありがとうございます」


「……あっ! なんか、飲み物とか持ってきてあげる、少し待ってて!」

リリシアはそう言うと、部屋を飛び出して行った。



「……さて、お茶に合うものと言えば……なにかしら……うーん……」

リリシアは厨房の奥のコックの部屋をノックし、扉を開ける。


「……コックさん、少しいいかしら」

「はい? お嬢様。どうなされたのですか?」


「えっとね、お茶とお茶に合う食べ物ってないかしら?」

「……緑茶はありますね……」

コックは緑茶を作り始める。


「緑茶に合う食べ物……?」

リリシアはぐつぐつと煮える緑茶を見ながら首を捻る。


「そうですね……ナッツなど、どうでしょうか?」

「…………ナッツ? ナッツってあの、香ばしい豆みたいなやつ?」

「はい」

「え、あれ……緑茶に合うの?」

リリシアは言う。


「はい。これが意外と合うんですよ。試しにお一つどうぞ」

コックはリリシアにナッツと、煮えたての緑茶をコップに移して渡す。


「ありがとう……いただきます」

リリシアは半信半疑ながらもそのコンビを口に運ぶ。

『カリッ』


「……! 美味しい!!」

リリシアは顔を輝かせる。

「ですよね!」


「うん! ありがとう、コックさん! じゃあ持っていくわね」

リリシアは二人分、コップに緑茶を注ぎ、小皿にナッツを乗せた。


「ありがとう!」



***




「遅くなってごめんなさいね!」

リリシアは自分の部屋の扉をあける。

「ああ、いえ。大丈夫です」


「これ! 食べてみて!」

リリシアはテーブルにトレイを置く。

「……緑茶と……これはなんですか……?」


「…………え? ナッツよ? 知らないの……?」

リリシアは驚く。

「はい……申し訳ありせん」

「……いや、謝ることじゃないんだけど……」


リリシアには意外と感じたのだ。この世界に、彼女が当たり前に食べているものを知らない人がこんな身近にいたのだから。


「……っ! 食べてみて!」

リリシアは少し悲しくなったが、それを押し殺してリュウにナッツを差し出す。


「え!? お嬢様?」

「いいから!」

「は、はい……」


『カリッ』

「……! 美味しいです!」


「でしょ! 私のもあげるわ!」

(世間知らずをまた、痛感した。もっと、もっと、もっと人の心に寄り添って、優しい私になって……私は、死を回避する……!)

面白い!と思っていただけましたら、高評価、いいね、感想、ブクマ等よろしくお願いします!

次回更新は1週間以内には出します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ