節約その4 〜名付け〜
とても遅くなって申し訳ありません…
これからもよろしくお願いします
「食料、買ってきたわよー」
リリシアと護衛は厨房に入る。
「お疲れ様です、ありがとうございました〜」
相変わらずの中年腹をゆさゆさと揺らして、コックがよってくる。
「ね、護衛さん、人の名前はやっぱり、一生ものでしょ? じっくり考えて決めたいからさ。ちょっと一日くらい待ってくれないかしら?」
リリシアは笑顔で言う。
「! も、もちろんです! ありがとうございます!」
「あー、うん! じゃ、今日はありがとうね、またね〜」
護衛は一礼して、自室に戻っていった。
「さて、じゃあ夕ご飯、作るわね」
「なら手伝いましょう」
「ありがとう!」
***
「やっぱり美味しかったぞ〜、リリシアちゃんのご飯!」
「でっしょ〜! ちょっと自信あったんだよね〜! このロールキャベツ!!」
「ところでリリシアちゃんは食べないのかい?」
父親は言う。
「あー、えっとね、ちょっと用事あって、そっちで食べるからロールキャベツ持って行くね」
「そ、そう……?」
父親はしゅんとする。
「ごめん!」
リリシアは二つ分のロールキャベツの大皿を持って、食堂を出て行った。
***
『コンコン』扉をノックする音がする。
「失礼! ごめん、両手塞がってるんだよね、扉開けてくれないかしら」
扉越しにリリシアの声がして、護衛は扉を開ける。
「お嬢様……! どうなされたのですか?」
「あー、えっとね、今日買い物、手伝ってくれたでしょ? だから、ご飯、護衛さんの分も作ってきたの」
「俺なんかのためにですか!? …………あ、すみません……私なんかのために、ありがとうございます」
素で俺が出てしまったらしい護衛は少し照れている。
(かわいい!)
リリシアはロールキャベツの乗ったお盆を待ちながら、心の中でガッツポーズをした。
「うん。入っていい?」
「お持ちします。どうぞ、お入りください」
護衛はパッとお盆を持った。
「ありがとう」
リリシアの部屋からしたら、少し狭い木で出来きた素朴な部屋。奥にベッドと目の前に楕円形のテーブルがあるだけの簡素な作りとなっている。
(やっば……生活感が皆無だわ……ミニマリストの域を超えてると思うのだけれど……)
最近書籍で得た知識を心の中で乱用するリリシアである。
とりあえず、二つのロールキャベツを楕円形のテーブルの上におく。
「もしかしてご飯ってもう食べちゃった?」
リリシアは聞く。
「いいえ。鉄則として主人よりも先に使用人が食事をとってはいけない決まりがあります。なので、まだ食べておりません」
「そうなんだ……」
(やっぱり使用人って大変なのね……。昔は気分で夕ご飯の時間を変えたりしていたけれど……皆のためにも、今度からはきっちり定時に食べるようにしよう)
「今日はそんなことは気にしなくてもいいよ。普通に食べよ!」
「ですが……」
護衛はたじろぐ。
(……そんなに私と一緒に食事をするのが嫌なのかしら……)
意地になったリリシアは、
「お嬢様命令ですっ!」
と叫んだ。
「はっ、はい……!」
***
「それでは……いただきます」
護衛は躊躇いながらも一口、口に運ぶ。
(ふふふ……なんとか説得できたわ……)
「……! おいしいです!」
「ふふふ! でしょ!」
「はい。実は俺、トマトが好きなので……」
「そうなの?」
「はい。昔、スラム街で一日中走り回ったのにも関わらず、食事にありつけなかった日がありまして……最後の最後にトマトを一つ、見つけたんです」
「へぇ……」
(スラムって思っていた以上に過酷なのね……)
「それでトマトを食べた時、本当に美味しくて……感動したんです……」
護衛は笑顔で言う。
「トマトね、じゃあまた今度トマト料理作る時は護衛さんのところにも持ってくるわね!」
リリシアは笑う。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
護衛は目を輝かせる。
(そ、そんなにか……)
***
「…………おいしかったです。ありがとうございました」
護衛はいつのまにか、ロールキャベツを平らげている。
「ならよかったわ! もしも食堂に行けるなら、また今度ご飯、食べにきてね!」
リリシアもご飯を食べ終えた為、そのまま、皿を抱えて部屋を出て行った。
***
「ふう、2人分のお皿も洗ったし……」
リリシアはベッドに倒れ込む。
「今日は疲れたぁ〜」
(だいぶ『淑女たるもの』の行動が身についてきたわね……明日はもしも護衛さんの名前が決まって、時間感に余裕があったら、部屋の掃除もしてみたいわね……)
***
翌日
リリシアはいつもより1時間早く起きると、真っ直ぐに書斎に向かった。
「男の子……名前……」
本棚から名前についての記述がある本を探す。
「……あった! 『名前辞典』!」
早速手に取り、床に座り本を開く。
「男の子の名前一覧……『オリヴァー』………………やなことを思い出したわ………………」
リリシアは落ち込む。
「えー、気を取り直して、『ハリー』『ジョージ』『ジャック』……どれもありきたりすぎて、新鮮味にかけるわね……」
すると、昨日、本をしまった時に入らなくて取り出したままだった図鑑があるのに気づいた。
「あ、しまい忘れていたわ……」
手に取って少し観てみる。すると、一枚のページの花に目が止まった。
「……この花、金色で綺麗ね。なんていう名前なのかしら……」
その時、リリシアは閃いた。
(金色……! 護衛さんの目も綺麗な金色だわ! このお花から名前を取ると言うのはどうかしら!)
「えっと……この花の名前は……『リュウキンカ』ね」
(……なんというか、男の子の名前……ではないような気がするわ……)
「……あ、じゃあ、『キンカ』を取って『リュウ』にしちゃおうかしら……!」
すぐにリリシアはすぐに護衛の部屋を訪ねた。
『コンコン』
「はい」
護衛は扉を開ける。
「! お嬢様。どうなされましたか?」
「いやー、えっとね、貴方のお名前を考えてきたの!」
***
リリシアは椅子に腰を下ろす。
「それじゃあ、発表するわね……?」
「はい」
「護衛さん、あなたのお名前は“リュウ”なんてどうでしょう!!」
「リュウ……ですか……?」
「うん! 貴方の瞳と同じ金色のお花があってね、それがリュウキンカっていうの。で、そのままだと女の子っぽいから、『リュウ』で……どう?」
リリシアは少し不安げに言う。
「……はい。とても嬉しいです。ありがとうございます、お嬢様」
リュウは微笑む。
「よっ、よかった〜……」
実は気に入ってくれるか不安だったリリシアはほっとした。
リュウは本当に嬉しそうだ。
「うん! それだけだから、またねリュウ!」
リリシアは出て行こうとする。
「あっ、お待ちください、お嬢様」
リュウはリリシアの服の袖を引っ張る。
「え!? あ、うん……なにかしら?」
「あ、いえ、その……本当にありがとうございます」
リュウは笑う。
「ええ!」
リリシアも笑顔で言った。
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