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【#3】激アツ!  妹分オーディション

 メンバーたちも、真剣な表情で画面を見つめている。ファンからの悲鳴がさらに大きくなる。すると画面は、彼らが所属する事務所の会議室と思われる映像に変わった。人のいない会議室に現れ、椅子に腰かけたのは蘭の姿だ。



『星P、お疲れ様です。今日は何を?』


 カメラを構えるスタッフに向けて、蘭が一瞬の間をおいて語りはじめた。


「そろそろさ、また作ろうと思うんだよね」


「え? 何をです?」


「何をって、グループに決まってるでしょ」


 新しいグループを作る、という蘭の発言に会場からはどよめきが起こる。蘭は続けた。


「この一年でS.O.S.はこんなにも皆さんに愛されるグループになった。彼らの活躍で、今やっているBESTARビスタも、随分認知されるサービスになったと思うの」


『BESTAR』とは蘭が中心になって開発した、メンバーたちの姿を常時追うことのできる動画配信アプリで、それぞれのアイドルたちへの応援メッセージや、スターアイコンでお気に入りのメンバーへのポイントを送れるシステムだ。ユーザーは、スターアイコンを購入し、それぞれのアイドルにスターを送ることで、アイドルへの愛情が数値化されてゆく。さながら「アイドル育成システム」といえようか。S.O.S.の成功で、他の事務所でも同様のサービスを開始し、追随するアイドルも増えている。蘭は、手元のコーヒーをぐっと啜る。


「あっちちち!」


 猫舌の蘭は、予想以上のコーヒーの熱さに手にしていたカップを危うく落としそうになった。


「星P……しっかりしてくださいよ」


 ディレクターに窘められ、蘭はばつの悪そうな表情を浮かべると咳払いをして続けた。


「えへん! BESTARのシステムが確立したから、このシステムをもとに、さらに新しいアイドルを発掘していこうと思ってる」


『さらに新しいアイドルを発掘していこうと思ってる』というセリフがリフレインされると、会場からは歓声が上がった。さらにディレクターが続ける。


「おぉ! ちなみにどういったアイドルを?」


「それを聞いちゃいますか……じゃあ、発表しますよ」


 勿体ぶった言い方で蘭は姿勢を正したが、手元のコーヒーをまたうっかり啜ってしまい、小声で悲鳴を上げた。咳払いをして、蘭が目前のカメラを見つめる。



「このたび、スワンプロダクションでは、S.O.S.の妹分ユニットを募集するオーディションを開催します!」



 会場から歓声ともどよめきともつかぬ、大きな声が上がる。S.O.S.のメンバーが、それに追随するようにドーム内の観客、ライブの視聴者へ問いかける。


「聞いたかい? オレたちの妹たちを募集することになったんだ。激アツじゃねえか?」


 オオオオオォ!


 タイガの言葉に、会場からは再び歓声があがる。蘭の語りが再び始まった。


「――なぜいまオーディションを?」


 ディレクターの問いかけに、蘭はスマホを手に答える。


「BESTARって、最初はS.O.S.のために開発したサービスだから女子高生から若いOLぐらいのユーザーが多いんだけど……これ」


 蘭は、ディスプレイをタッチしてBESTARを操作している。手元のケーブルをスマホにつなぐと、大きくモニターにグラフが表示される。


「わたしはてっきりS.O.S.のファンの子たちだから、自分自身をアピールしたい願望のある子って少ないと思ってたんだけどね。リサーチしてみたら、自分たちもアイドルになってみたいっていう子がかなり多かったんだよね。あと、BESTARを通じてなら、日本中はおろか、世界中からオーディションに参加できるし。ほい、ちょっと自分のスマホでBESTAR開いてみてくれる?」


 そう言われたスタッフが、BESTARのアイコンをタップしてアプリを開くと、


「あっ!」


 画面には、「AUDITION」のメニューが表示されている。


「いつの間にこれを?」


 驚いたスタッフが問うと、蘭はしてやったりという顔で答えた。


「最初からあったんだよ、機能としては」


「そうなんですか?」


「うん。ただ、どのぐらいの反響があるかを見て、それから改修も含めてリリースすることにはなったんだけど」


「ほぉ…!」


 スタッフが感心した表情でBESTARの画面を眺めていると、蘭はカメラにグッと近づいて続けた。


「そういうことで、アイドルになりたい!という女子のみなさん、今日このライブを終えた瞬間からオーディション特設ページがオープンします。アプリの『AUDITION』ボタンからですよー。S.O.S.と同じステージを目指して、オーディションへの参加お待ちしてますね」


 そういって、蘭はウインクをしてインタビューを締めくくった。



 ライブ終了後から、オーディション特設ページへのアクセスは過去例を見ないスピードで増え続けた。日本国内だけでなく海外各国からもアクセスが相次ぎ、特設サイトを管理するサーバーがパンクするというハプニングにも見舞われた。いずれにせよ、運営である蘭の予想を良い方向へと裏切る形で反響は広がっていった。


 そして、年も明けてオーディションへのエントリー開始の前日、応募者のBESTARアプリにはこのようなメッセージが表示された。


『S.O.S.妹分オーディション参加者に告ぐ! 本日18時よりオーディションの詳細が明らかになる特別番組を放送!オーディション参加者は絶対に見逃すな――』


 この日、全国の飲食店やスーパーマーケットではアルバイトの欠勤が相次ぎ、オフィスでは提示ぴったりに退社する女性社員が目立った――かは定かではないが、番組の放送開始10分前には、番組を視聴待機しているユーザーは数十万人に膨れ上がっていた。



<To be contiued.>

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