【#2】緊急告知!
ライブはその熱量を保ったまま中盤を迎え、この日2回目、MCの時間を迎えた。舞台袖で展開を見守っていた「星P」と呼ばれた女性は、せわしなく舞台袖を右往左往している。駆け寄ってきた別のスタッフにドリンクを渡されると、「星P」はそれを一気に飲み干した。
「ぷあーっ……」
「緊張しすぎですよ、星P」
「だって、こんな人前で喋るなんて経験ないもの」
「誰だってそうですよ。でも星P、いつもカメラ越しに全世界を目の前に話してるじゃないですか」
「いやぁー、まぁ、そうなんだけどさ……」
その「星P」はスタッフに諭されていたが、それでも緊張の色を隠そうとはしなかった。すると、別のスタッフが手招きをした。それを見つけた「星P」の顔色が、サッと変わる。緊張が極度に達したのか、歩く姿もどこかぎこちない。
「……星P、リラックスしてください。手のひらに人という字を書こうが、おまじないを唱えようが、やり方はお任せしますから」
再びスタッフに言われ、「星P」は苦笑いしてスタンバイを始めた。
MCは、リーダーのタクロウがコーナーを仕切って進めている。
「今日、こうしてツアーファイナルを迎えることができたのも、もちろんファンのみんな、スタッフ、いろいろな人たちの協力があってこそです。そんな中でも、この人……彼女の協力やサポートがなければ、オレたちS.O.S.は成立もしていなかったし、今日いまこの瞬間はなかったと思っています」
タクロウの言葉に、会場からは拍手が起こる。
「今日は、そんなオレたちの大事な仲間から、皆さんに大事なお知らせがあるということで、ここで特別ゲスト……いや、ゲストって言い方はおかしいなぁ、ジェイ?」
「うーん、なんだろう、オレたちのお母さんって感じかなぁ?」
「おいおいおいジェイ、さすがに『お母さん』は怒られんじゃね?」
ジェイの天然発言に、思わずケントが突っ込む。シモンが続けた。
「そろそろ呼んだほうがいいんじゃないか? 今頃裏でガッチガチになってると思うぜ、なぁタイガ?」
「そうそう、早く呼ばねえと、緊張でぶっ倒れちまうぞアイツ!」
メンバーたちが次々に口にすると、タクロウが苦笑いを浮かべながら再び話し始めた。
「そうだな、そろそろお迎えするとしましょうかね。オレたちS.O.S.の生みの親、プロデューサーでもあり、常に行動を共にする頼れるマネージャー……Come On!」
再びステージに通常の2割増しほどのスモークが勢いよく噴射され、煙の中からひとりの人影がフラフラと現れた。
「……え?」
「ちょいちょいちょい、星P!」
「おいおいおいおい、しっかりしろよ!」
その人影に、メンバーが口々にツッコミを入れる。
「あわわわわわわわわわ」
ステージにガチガチに緊張した様子で現れたのは、舞台袖で固まっていた「星P」その人だった。タクロウが慌てた様子で「星P」の紹介を始める。
「えっ……えー……慣れないステージでガッチガチに緊張してるけど……オレたちの頼れるパートナーだ。星PことS.O.S.のプロデューサー、星咲蘭!」
「こっ……こここここ、こんばんは!」
ガチガチが一切解けないまま挨拶を始めた「星P」こと星咲蘭に、観客から失笑が起きた。
「なぁ星Pしっかりしろよ、お客さんに笑われてるぞ?」
そういうと、タクロウは苦笑しながら舞台裏のスタッフに何かを指示した。スタッフが慌ててドリンクを持って走ってくると、タクロウに手渡して戻っていった。
「まったく、ほら星P。ドリンク飲んでちょっと落ち着けよ」
蘭はタクロウの手からドリンクをふんだくると、グビグビと音を立てて一気に飲み干した。観客からは再び笑いが起こる。
「はぁ~……はい! ごめんなさい、皆さん! 緊張しちゃって……メトロドームにお越しのファンの皆さん、そしてライブ配信をご覧の皆さん、こんばんは! S.O.S.のプロデューサーを務める星咲蘭です」
会場からは拍手が起こる。蘭はS.O.S.のプロデューサーであり「24時間365日メンバーに帯同し、メンバーの姿を全世界に発信し続ける」というコンセプトを打ち出した張本人で、自らがカメラを絶えずメンバーに向け続けている。そのため、メンバーだけでなくファンの間でも「星P」の愛称で親しまれている。
蘭は、軽く咳払いすると改めて話し始めた。
「今日は、このライブの場を借りて一つ告知させていただきたいと思います。スクリーンをご覧ください……どうぞ!」
蘭がそう言うと同時に、会場が暗転する。観客からどよめきが聞こえたその時、メンバーたちの後方に設置された大型ビジョンの画面が切り替わる。
『緊 急 告 知 !』
ドォン! という大きな効果音と共にビジョンに大きくその4文字が映し出され、会場からは歓声とも、悲鳴ともつかぬ声があちらこちらから上がり始める。
『なんだなんだ!?』
『なに? メンバー増員? 海外ツアー? 何が起きるの?』
『KOEEEEEE!』
ライブ画像にも、期待と不安が交錯したコメントが並んでいる。すると、画面の文字がゆっくりと消え、新たな文字が映し出される。
『S.O.S.は、募集します――』
<To be continued.>