表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろうラジオ大賞3 

最後の晩餐食堂 富士の樹海店

作者: 夜狩仁志

なろうラジオ大賞3 参加作品

テーマは「お味噌汁」


よければ、読んでいってください。

 和食屋の店内には、その店には似つかわしくないメイド服を着た少女が一人いた。


「今日も暇ですね~ 店長」

「ここが暇ってことは、いいことだ」


 店長と呼ばれた白衣を着た男は、低くそうつぶやいた。


 そこに突然、入り口の扉が開き、一人の男が入ってきた。

「はっ? こ、ここは?」

 そこには、くたびれたスーツを着た初老の男性がいた。


「あっ、いらっしゃーい」

 男に駆け寄る少女。


「私は確か富士の樹海に入り込んで……」

「ああ、そうさ。あんたは『最後の晩餐食堂』に入店したんだよ」

「最後の? 晩餐、食堂?」


「まあ、とりあえず、そこに座れよ」


 男は少女に促され、店長のいる前のカウンターに座らされる。


「お代はお金じゃないよ。おっさんの魂だよー」

「魂?」


「ここは自殺をしようとする者が最後に食事をとる場所さ」

「私は別に食事など……」


「さあ、何でも作ってやるよ。心にイメージしな」

「別に私は……」


 男は断るが、数分で料理が出来上がる。


「はいよ、できたぜ」


 それは何の変哲もない一杯のお味噌汁。


「こ、この味噌汁は……」 

 麦の香り。淡い色合い。そして豆腐とねぎのシンプルな具。

 それが何かを感じ取った男は口をつける。


 そして一口飲んだ後、

「なんで……なんで……こんな時に……」

 大粒の涙を流し、嗚咽を漏らし始める。


「うっわ、きったねーな、おっさん」


 ひとしきり声を上げ泣いた後、男は静かに語り始めた。


「これは間違いなく、お袋がよく作ってくれた味噌汁です」


「お袋には苦労をかけました。よく私をここまで育ててくれた。しかし私は仕事に追われ、そのうち年老いたお袋を邪険に扱うようになり……」


「しまいには、死に目にも会えず、葬式にだって……」


「それなのに、あんなに尽くしてきた会社にはあっさり裏切られ……」


 手にしたお椀の中の味噌汁はすっかり飲み干されていた。

 そこに男の流した涙が溜まっていく。


「で、どうするんだい、あんた? そのまま死ぬんなら、この店の奥の扉に。やり直すんなら、もと来た道を戻るんだな」


 男はスッと立ち上がり、

「戻ります。このまま奥に行ったら、お袋のいるところには行けそうにはないんで」

「そうかい」

「ご馳走様でした」


「じゃあな、おっさん。二度とくんなよ」

「ありがとう」


 そう言うと男は扉を開けて、来た道を戻っていった。


「あのおっさん、やってけんのかね」

「さあな。ダメならまたここに、やってくるだけさ」



 そう言うと店内は、次の来店者が来るまで静寂に包まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ