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学校  作者: 微睡臚列
1/10

書き出し

ここは学校のようだ・・・・。

薄暗く、しかし、まだ影がある。

夕方のオレンジが引き潮の様にサーと引いていっている。


もう直ぐ夜になる。そんな時間に私の意識は始まった。

私は平凡なサラリーマンだ・・だった。

とこに着き、眠りに落ちる瞬間の境を覚えていない様に、なぜ此処に?いつから此処に?居るのか?まったく頭に記憶されていない。


カランとした風が囲われた四角い筒を流れている。

認識を失いふたたび意識を取り戻す瞬間と言うのは、たいていは床に倒れているか、縛り上げられているときだろう。昔見た映画がそうだった。

しかし、私の自覚は立ったままだ。ついさっきまで何か?・・・歩いていたか?走っていたか?それまでの私からいきなり今の私に切り替えられた様に続けられている・・・。


見覚えの無い校舎だ?私の住んでいる近所と言うことはなさそうだ。

とりあえず此処を出て交番か何かで場所を聞かないと。

私は階段を降りる。

踊り場は明るいが、階段は影の中だ。

フロアーを示す数字は剥ぎ取られ、何度踊り場に着いてもFとしか書かれていない。

下に降りるにつれ時間がたったのかそれとも、地下に行っているのか暗さが増してきた。


何フロアー降りただろうか?ほとんどの学校は四階建てが主流だろう。

しかし4と言う数字などはとうに過ぎている。

階段はさらに下に続いていたが今居る階で玄関を探すことにした。

階段を出た直ぐには、ガラス棚があり、拙い絵や彫刻が陳列されていた。

その横にある二枚扉には『美術室』と標札がついている。

私は壁にかかるポスターの一つに目が行った。黒い背景に三人の親子が泣いている。中央には煙りがたっているタバコ、その上に大きく×印が赤で書かれている。

私は自分のズボンのポケットを軽く叩く。

胸ポケットにその順番が来るとそこで手を止めた。

ポリエチレンが握られる音が響く。

タバコに火をつけ、三度ふかした。

ここでタバコを吸うのは少々不謹慎だと思ったが、気づいてしまうとそれをとめられなかった。

それから三つ階を降りた。

その階で初めて見つけた窓は真っ黒だった。

歩み寄って見ると厚そうな鉄の板で外側から塞がれているのが解る。微かな光さえ漏れ出ていない。

さっきの階段からの明かりが届く所まで届き、そこ以外は暗い。

廊下の向こう側が微かに光っている事に私は気づく。

少し早足でその光に向かう。


階段だ。


私は階段の下を見る。

此処よりいっそう暗さを増している。上の踊り場の窓は何の覆いもされていない。

私は踊り場まであがり少し高い所にある窓を開けた。燃え尽きようとしているタバコを放り捨てた。


  うあー


誰かの叫び声が校舎に響く。一度響いただけで、様子を伺う様に動きを止めた男の耳にはすぐ静寂が戻る。

どうやら音の割れ方からして此処よりだいぶ下の階から上がって来た声のようだ。

早く出口を見つけないと。

此処は異様だ・・・・。

そこから又三つ上の階へと上がり探索することにした。あの叫び声と暗さが私の探査の順番を決めた。


いくら探しても外へ出られる所は見当たらない。それもそうだ此処は一階よりも上の階である。わざわざ転落するような扉を作る筈も無い・・・。


6-3


そう書かれた教室の一番後ろの席に私は座って悩んでいた。

これ以上、下の階へ行くべきか否か?。

あの悲鳴が示すのは私も又、同じ悲鳴に出くわす事を意味している・・・。


不意に教室の隅にある掃除箱が勢い良く開いた。


!!


私は腕組みを解きそちらを見る。

蝶番で止められているグレーの長方形がきいきいと振れ、止まった。


私の心臓は握られたかのように鼓動を打つ。


・・・・


老人だ。


しかも、服と呼ぶにはあまりにも、汚くぼろぼろのをまとい小刻みに震えている。


「お前、なんでワシの隠れ場所が解った?」


目を見開く老人が近づいてくる。


「いや、何のことだか私には・・・」


私は首を横に振り、あせりながら言う。


「なんじゃぁ・・・そんなとこに座って腕組みなんぞしおるから、わしゃてっきり・・・」


老人は、私の隣の椅子を引き座った。


「すいません・・・」


私は、良くわからなかったが頭を下げる。


「いや、あやまらんでいい。脅かして悪かったの」


「おじいさん、此処はどこなんですか?」


「あんた?素面しらふでここに居んのかい?」


「素面?」


「ワシにも解らん。ただ解っているのは此処からは出られないって事だけだ。ワシがここに来たのは、あんたより大分若かった。二十歳になった頃だったかな・・・色々とあってな、もう一度チャンスをくれー!て願ったんじゃ。そうして気づいたら此処にいた」


「此処は何階立ての建物なんですか?」


「あんた?そんな事よう聞けるな・・・窓の外を見てみ」


もちろん、一階ではないのだから空が見える。只そう思っていた私は窓を覗き込んで驚いた。


遥か下を覆っている雲から自分のいる建物だけがニョキット聳え。上にも下にも遥かに階がある。

あとは真っ青で巨大な空間と太陽があるだけ・・・。


私の中で色々な疑問がせめぎ合う。


「あんたもなんか願掛けしてきたんじゃろ?」


「それが・・・覚えてないんです」


「初めの、ねーちゃんのも覚えてないんか?」


「ねーちゃん?いえまったく」


「そうか・・・そりゃ他んのよかぶんが悪いな。まっ、こっち来て座れ」


私は青空から目を離し老人の隣に座った。


「ワシん時はな出口の無いおかしな教室みたいな所でな半端じゃ無く綺麗なねーちゃんが此処について説明してくれたよ」


・・・・・


「皆地さんいいですか?」


皆地はきょろきょろとしていた目線を声のする方に向ける。

女だ。

皆地の記憶の中の女性で例えるのなら・・・『淫乱女教師に目を付けられた僕』 と言う皆地お気に入りのアダルトビデオに出てくる女にほぼそっくりだ。容姿を詳しく言うのなら、黒い膝上までのタイトスカート、セットのスーツ、髪の毛は肩までの茶髪で額の中央から、二つに割り、薄桃色の眼鏡をかけた巨乳だ。


「あなたの願いは聞き届けられました。ああ、くれぐれも間違いの無いように、チャンスをくれと言う願いです。もっと単刀直入に願っていれば良かったですね~」


女は笑う。


「あなたのチャンスは二度あります。その二つをみのらせてはじめてあなたの望む明日が来るでしょう」


「1つ目は、学校で出口を見つけてもらいます。ここ良く聞いといてくださいねー。出口を知っている人間が一人だけいます。いいですかー皆地さん?誰もがその人を狙っていますよー。此処でのチャンスを掴めるのはたった一人です。その人は学校の最下層に幽閉されています。下のほうには、コワーイモンスターや得たいの知れないもんがいっぱいあります。気をつけてくださいね」


「もう一つは、現世に戻ってからのあなたの此処に来る事になった間違えを正すチャンスです。これは、今のあなたには容易でしょう?」


皆地の話に私は反射的に声を出す。


「現世?」


「ああ、あのねーちゃんはそう言ってたな」


「てことは・・・此処はあの世なんですか?」


「さーな、それは、言ってなかった。あんたが本当にでてえなら下にいきな」


「でも、もう、その人は掴まったのではないですか?」


「いや、そりゃ無い。あのねーちゃんこうも言ってた」



「いいですかー皆地さん。もし、誰かがあなたよりも先に出口を見つけると校内にいる人間は皆、“掃除”されます。そして、この学校と備品、空間その他もろもろは爾来じらいに移行されます。なお、ここで願い叶わなかった人間は輪廻から外れ、思考だけを残したまま何も無い虚空でその一部となっていただきます。一人で、頭の中だけで、おしゃべりするのは、寂しいですよー」


「では、健闘を祈ります」


・・・・・・・



「ワシはまだ居なくなってはいない。他にも何人も人間を見てきた。出口知ってる人間は捕まってるかもしんねー。でもまだ誰もたどりつけていないって事だ。ワシが来てから数百年な」


「数百年?」


「ああ、此処では人間の命は相当長い。正確に測った訳じゃないがな、ほれ」


皆地はそう言って、ぼろぼろのメモ帳を渡した。

そこにはびっしりと棒線は引かれていた。


「ここでも、日が上って落ちる。24時間かは知らんがな。初めの内はこんなに経っちまうとは思っとらんかったから1ページ一ヶ月の棒線が引かれている。しかし、途中から1ページ一年分に変わっちまった」


私はメモ帳を返しながら聞く。


「なぜ、皆地さんは下に向かわないんですか?」


「そりゃ、初めは躍起になって降りたさ。仲間も何人かいた。みんな強そうなやつばかりだった・・・でもな下に行けば行くほど、仲間の数が減っていった。もうみんなボロ雑巾みたいな体で、鬼になってたよ。でも、本物の鬼にはかなわなかった。まるで指人形で遊んでるみたく殺された・・・みんなな。俺は怖くて堪らなかった。そして逃げて来たんだよ・・・・やるべきことから・・・・。それが入って直ぐの頃だ・・・・それ以来俺は下には行けなくなっちまった。足が震えて階段がまともに降りれねーんだよ。上る方はこんなに容易たやすいのに」


「何階まで行ったんですか?」


「上のほうは殆ど数字が書いてねーだろ?でも、ある階から落書きみたいな字で書かれ始めるんだよ。それが確か・・・39階だったな同じ文字で下に「頑張って」なんて書いてある。本当に馬鹿にしてるぜ。俺が見たのは7って数字までだ」


「あんた、どうすんだ?いくんか?」


「ええ、なぜ此処に来たのかは解りませんがこんな所早く出たいですからね」


「おもしれー理由だな」


「そういえば、なんでこんな上の階で隠れていたんですか?」


「あー。昔はあいつ等ある程度の階よりは絶対上には来なかった。でも此処最近上層まで上がってきやがる。しかも人間に化けてるやつらがさ。だから隠れてたんだよ」


「よし解った。集まって下行こうって連中と引き合わせてやるよ」


「ありがとうございます」


老人は教室を出て、歩く。

階段を下におり始めた。


「下ですか?」


「ああ、たった一つ下だから安しな。あんた、肩貸してくれるか?」


私は皆地の肩を支えた。廊下の歩き方とは違い下へ向かう階段になると、まるで足に怪我をした人の様に危なっかしく段を進んだ。支えていなければ転げて落ちてしまいかねない程だ。


そうして、階段を降り廊下を進んでいく。扉を一つ開け体育館に着いた。

見る限りでは誰もいない。気配も無い。

皆地は体育館を横切りステージ裏の裾に入っていく。

暗幕が幾つも垂れ下がり、それを書き分け皆地についていく。

・・・・・

・・・・・

・・・・・・

「誰だあんた?」


・・・・・・

・・・・・

低い男の声が耳元で乱暴に尋ねる。

喉にナイフが光っているのに気づいたのは声がした後だ。


・・・・・・・

・・・・・・・

言いようが無い・・・その質問には答えようが無い。


「大丈夫じゃ、人間じゃよ」


皆地のその声でナイフは外された。


眉の太い屈強な男がそこには立っていた。


「皆地さん久しぶりじゃないか。何にも付けられてはいないですか?」


「ああ」


そう言って男に案内され体育館裏の倉庫に私たちはついた。


そこには女も男も合わせ二十人程がいた。服装は皆バラバラで、それぞれの日常からいきなり切り取られた人間たちがウロウロ歩いていたり、小刻みに体を揺らしていたり、特に焦点を合わせる物の無い一色の壁をジッと見つめたりしている。


さっきのナイフの男が突然声を出す。


「伊勢さん、皆地さんがきました」


見張り役だったのだろうか?男はまた直ぐに暗幕の中に入っていった。


背の高い短髪の男が近づいてくる。


「伊勢です。あなたは?」


・・・・


「すいません、記憶が少し無いみたいなんですサラリーマンをしていたのは覚えているんですが・・・」


「そうか・・・それは・・・たまにそういう人が居るんだよ。でも直ぐに思い出すさ、なんせ、ここに来た目的だからね」



皆地が出る。


「こいつも仲間に加えてくれんかのう?」


「かまいませんよ。ちょうど明日決行ですからね。人手が欲しい」


「まあ、こっち来て少し説明するから」


「じゃ、頑張れよ」


皆地はそう言って戻っていった。


伊勢は体育マットが丸めてある上に座り、私はその対面に座った。


「簡単な決まりがあるから聞いてくれ。まず一番大事なとこだ。もし目標を見つけたらその時は仲間も敵として考えろ。行けるのはたった一人だからな、見つけるまでは裏切りは無しだ。よくも悪くも早くこんなの終わらせたいからな。それだけは絶対厳守だ、いいな?」


私は何も言わず頷く。



「あと、人間に化けてるやつらも居るから気をつけろ。あいつ等見た目は人間そっくりだけどしゃべり方がカタコトなんだよ。そこで見分ければいい。明日、降りてくから」


私は頷く。20人も居るのに、此処は静かだ。誰一人会話をしていない。

それぞれの武器を丹念に手入れしている。その殆どが包丁や小さなナイフなどでこの学校にあったもののようだ。

私も何か探してこなければいけなさそうだ。


「伊勢さん」


私は、小さく伊勢を呼ぶ。


「どうした?」


「私も武器を探してきます」


「そうか・・・解った。俺も一緒に行こう」

 

伊勢と一緒に暗幕を潜る。

用具倉庫と違い体育館は誰も居ない。

日も大分かげり、薄く前の伊勢の背中がわかる程度の光だけがある。

私はきょろきょろと辺りの気配をうかがう。

伊勢は落ち着き、すたすたと私をおいていく勢いだ。


「伊勢さん」


私の声は小声になる。


「どうした?」


「どこに向かっているんですか?」


「調理室だけど」


「包丁ですか?」


「んん」


会話はそこで途切れ伊勢にひたすら着いていいく。


・・・・

・・・

いくつか階段を下りた。すでに真っ暗になり光の差が無くなっていたのでそれほど恐怖心は無かった。

伊勢は扉を開け部屋の中に入って何処かの引き出しを引いた。

すると頼りない明かりが点いた。

伊勢は懐中電灯を見つけたらしい。


「持ってくるのを忘れちゃったからね。さどれがいい?ってどれも一緒か」


そう言って伊勢があけた調理台の引き出しには包丁が何本も入っていた。

私は木製の柄が付いている包丁を一つ手に取った。


「じゃ、これで」


「よしっ、じゃ、戻ってもう寝よう。明日はかなり体力を使うからな」


うー   うー   うー   うー   うー  うー


伊勢の照らしている僅かの空間以外の暗闇の何処かで音がした。いや、声だ。呼吸の反復の吐き出す方に低く唸るように、でも何処か嬉しそうな声帯の振るえが分かる。一つの方向と言うわけではない。しかし、その音を出す肉は一つの物からであることは分かる。息を吸う方の間隔を置いて続く。

伊勢は調理室の全体に懐中電灯の光の円を向けるが。声は確かな構想物以外の全ての場所から聞え、暗闇と言う物体その物からするような?そんな感覚だ。私の心臓は酷く強く打つ。血液の粒がその粗度をゲル状の物を搾り出す時に感じる感覚に似た音で耳に届かせるジュルン、ジュルンと鼓動がうるさい。


「行くぞ」


伊勢が私に指示し私たちは調理室を出た。どうやらその音の主は調理室を動かない様子だ。私たちが調理室から遠ざかるにつれ呼吸をしない方の暗闇に溶け小さくなっていき聞えなくなった。私たちは体育倉庫に着いた。私の心臓は未だに脈を強く打っている。


「伊勢さんあれは?」


「俺にもわからない、全く得たいが知れないよ。見張りも居るから此処は大丈夫なはずだ。寝ろ」


伊勢はそう言って何もかけずに横になった。

大丈夫な物か。きっと、そんな確証は伊勢の中の何処にも無いだろう。只私を安心させ寝かせる為の言葉だ。あの声が私達を着けて来て居たら?人間の見張りなど何の役にも立たないだろう。しかし、得体の知れない物の生態など分かるはずもなく、伊勢は取り合えづ出来る事をしている。薄っぺらい・・・明日の行動に、これと言った作戦は無いし、相手にする物の弱点すら説明されていない。本当に大丈夫だろうか?この集団には実際が無い。取り合えず下に進もうとたったそれだけしかない。それを知ると伊勢率いる集団の明日しようとしている事が酷く幼稚な子供の鬼ごっこの様な物に思えて仕方が無かった。それに登場する鬼役もきっと情け無い容貌の怪獣だろうと私は頭の中であてがった。それと真剣に戦うスーツのサラリーマンや制服を着た高校生・・・これじゃ丸で仮装パーテーでは無いか?私はそんな事で静かに笑いながら眠りに付いた・・・。

・・・・

・・・・・・

・・・・・・・

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