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白死病  作者: 紋 魅ル苦
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エピローグ――旅立ち

 あれ以来、俺の見える世界は真っ白になった。

 さっきまで「漫画のペン入れ」なんてふざけて言ったが、その黒い枠も消えてしまった。


 どう言えばもっとわかりやすいかな……。

 光が一切通らない、真っ暗な部屋の中にいると思ってよ。

 それが俺の場合、真っ暗ではなく真っ白なわけなんだ。

 

 光が一切通らない真っ暗な部屋で、皆は目印もなく、自信を持って歩けるかい?



 足や体に物が当たらないように、俺は両手を前に突き出して、手探りで机まで歩き椅子に腰かけた。

 もちろん母さんの手助けは必要だけど、まぁ慣れてしまえばなんとか普段の生活はできる……。


 ……けど……もう疲れた……。



 俺は黒の世界に行こうと思う。

 視神経に反射された光が入ると、俺の脳は勝手に白と判断してしまう。

 

 だから……その視神経をつぶす。


 机の引き出しから鉛筆を2本取り出し、俺は椅子から立ち上がった。

 その2本の鉛筆を手で触り、尖っている先端の位置を確認する。


 俺は左右の手で1本ずつ鉛筆を持ち、尖っている先端を目に向けた。

 


「俺は怖くなんかない! 行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ」



 俺の記憶だと数歩先に壁がある。

 その壁に向かって、俺は走った――。



「……検診の時間ですよ」

「あ、はい……」


 俺は今、入院をしている。

 鉛筆は俺の目をつぶした。だけど脳までは届かなかった。

 おかげで生きているし、会話もできる。


 俺の見える世界は、「色鮮やかな世界」から「白」、そして最後に「黒」になった。

 けど、俺はまったく後悔していない。

 考えてみれば、人間は黒の世界が1番身近じゃないか。

 目を閉じたら誰にでもその世界は平等にやってくる。


「体温も特に問題ないですね」

「ありがとうございます」

「次は午後の検診で来ますね」

「はい、お願いします」

 俺の病室は俺を含めると6人いる。

 その看護師も忙しいのだろう。あっという間に別の患者の方へ行ってしまった。


 俺はベットで横になりながら、ぼーっと看護師と患者の会話や、テレビから流れる音声を聞いていた。すると、「バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」と、テレビから喜ぶ声が流れてきた。

 その内容が気になり俺は耳を澄ます。


「当選、おめでとうございます」

「ありがとうございます。当選できたのは皆様のおかげです」

「単刀直入でお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ええ。どうぞ」

「最初に行いたいことを教えてください」


「……そうですね。やはり私は元厚生労働省の職員だったので、その経験を活かし、苦しんでいる患者様のために何かできればと考えています。そこでまず、まだ我が国が使用できない薬を早急に承認させ、使用できるようにさせます。例えば……脳神経白視病の患者様に対しては、すぐにでも対処可能だと思っています……」


「ふふふッ」

 俺は思わず笑ってしまった。


「……おせぇんだよ」


 

 右の方から鳥のさえずりが聞こえてくる。

 多分、今日は良い天気なのだろう。


 

 すーっと記憶を呼び起こす。

 

 目の前に広がる、色鮮やかだった景色を……。


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