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白死病  作者: 紋 魅ル苦
3/4

第二話――崩壊

「頭がいてェ!!」

 俺は急な激痛で目が覚めた。

 頭が割れそうだ。それに胸がムカムカする。


 うっ――


 床に戻してしまった……。


「亮、どうしたの!?」

 俺の悲鳴を聞いて、母さんが部屋にやって来た。

「頭が割れそうに痛いんだ……。吐いちゃった……」


「ちょっとすぐに救急車を呼ぶわね!」と、母さんが俺の部屋の電気をつけてくれた。

 

 しかしその時だった。


「ウワァ――ッ!!」


 俺は叫び声を上げた。

 部屋中が真っ白だった。

 母さんの顔も……。


 唯一の救いは……黒色だけはまだ変わっていなかった。


 真っ白な液体から黒い瞳だけが生えている人間……俺の母さんは「どうしたの! 大丈夫?」と、心配して背中をさすってくれた。


「大丈夫……大丈夫……」

 母さんを心配させたくない。

「救急車を呼ぶからね」と、母さんが部屋から出て行くとき、俺は「呼ばないで」と声をかけた。


 なぜって?


 黒い髪の毛と、黒い瞳だけの人間。そんな人間なんてこれ以上見たくない。


 母さんは「どうして?!」と俺に何度も聞いてきたが、俺はそれ以上何も答えなかった。



 ――それから数日が経ち、だんだんと慣れてきた。

 俺の見えるこの世界は、漫画のペン入れだと思えばいい。つまり真っ白な紙の上に、黒い枠だけが書かれた世界。

 笑っちゃうだろ?


 こんな状況だから、気持ちが不安定になったり体調が悪くなったりするときもある。そんな時はカーテンを閉めて電気を消し、光が入らない状態にした。またまぶたを閉じて眠ることにした。

 目を閉じると……黒の世界が広がって落ち着くんだ。

 とりあえず光の反射が目に入らない状態を作り出せば、なんとか乗り切れそうだ。


 「白銀の世界、感動だッ!」っていうフレーズを耳にしたことあるが、俺の状況になっても言えるかよ……。

 

 俺はこの病気にかかるまで、目に見える「色」なんて気に留めたことがなかった。そしてこういう状況になって初めて、色のある世界の有り難さがわかった。



 ――そういえば、なんだかのどが渇いてきたな。


 ゆっくり階段を下りて冷蔵庫を開けると、ドアポケットに牛乳の紙パックが入っていた。

 それを手に取ると、

「あれ……」

 空っぽだ。


 今日はなんだか牛乳を口に含みたくてしょうがない。

「牛乳が飲みたい……牛乳が飲みたい……牛乳が飲みたい……」


 俺は冷蔵庫の中をあさった。

「ないないないないないないないないない……」


 すると、俺の頭の中に良い考えが浮かんだ。

「あッ! あそこに残っているかもしれない」


 俺は駆け足で浴室に向かった。

 浴室のドアを開けると、浴槽にまだ昨日の水が残っている。

 その水は牛乳のように真っ白だった。


「……こんなに牛乳が残ってるじゃん」


 両手で浴槽の縁をつかみ、俺はそこに頭をぶち込んだ。

 そして無我夢中でその水を飲んだ――。



「……亮! 亮! 起きなさい!」

「……うぅん」

 母さんの声が聞こえる。

 俺は目をゆっくり開けた。


「浴室で倒れていたんだよ。何があったんだい?」

「うっ……」

 頭が痛いし、くらくらする。めまいもひどい。

 俺は気持ち悪くてうつむいた。

 

「母さん……ごめん……。俺もどうしてこんなところで倒れていたのか、よく覚えていないんだ」

「亮、病院行くかい?」

「ううん、もう大丈夫。落ち着いてきたよ」


 俺は母さんに少しでも心配かけないように、笑顔を見せようと顔を上げた。

 母さんの顔は相変わらず真っ白だ。

 そして俺の視線を母さんの目、つまり黒い瞳まですーっと動かしていったときだった……。


「アッ……アッ……」

 俺は言葉にならないものを口から発した。



 ……母さんの黒い瞳がなかった。

 俺の世界から唯一の黒色が消えてしまった。


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