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1.あなたへの手紙

 生き方のヒントを求めている多くの方々へのささやかなプレゼントとして、このラフなスケッチのような物語を送ります。


  様々な欠点のある文章かと思いますが、そこに少しでも先生の魂が宿っていれば、伝わる人には何かが伝わるのだと信じています。


 読んでくださった方のお幸せを心から祈っています。

 夜空にきらめく星はとても遠くにあるので、その光が地球に届くには何億年、何十億年もの時が必要です。


 ですから、私たちが見ている星の光はずっとずっと昔の光なのです。


 その過去の光が時を越えて今の私たちに方角を示し、宇宙の成り立ちを教えてくれています。


 これからお話しする「時を越えた手紙」も過去から私たちに向けて送られたもので、その手紙の差出人をここでは「先生」と呼ばせてもらいます。


 私は30年ほど前に初めて先生の書かれた本を読みましたが、先生はずいぶん昔に亡くなられていましたし、その本がまさか自分に宛てて出された手紙だとは思いもよりませんでした。


 それから数年経った頃、私は先生がどんな人だったのか知りたくて、千葉県柏市にある先生が残した研究所を訪ねました。


 先生の思いがこもった美しい自然に囲まれた場所を歩いていると、不平や不満で一杯だった私の心も洗われていくようでした。


 記念館で一般の人向けの講話が予定されていましたので、私は席について待ちました。


 現れた講師は、白髪でお年をめされていましたが、親しみやすい柔和なお顔をされていました。


 若い頃、先生に付き添っていて、忘れようにも忘れられない先生との思い出を長年語り続けてこられた方だったのです。


 記念館には先生の直筆の原稿だけでなく、使っておられた生活用品なども残してありましたが、その品々はけっして立派なものではありませんでした。


 先生は自分のためには贅沢をせずに、とても質素な暮らしをしておられたのです。


 その方の体験談が進むにつれて当時の先生の暮らしが、ありありと目に浮かんできました。


 病気のために体温の調節がうまくいかなくなった先生は、夏でも厚着で体じゅうにカイロをつけて温めていました。


 そして、少しでも無理をすると汗が噴き出し体力が奪われて動けなくなるのです。


 そのように苦しい体調の中で、先生は療養のために温泉地を転々としながら、経済的にも苦労をして、たくさんの専門書を買い集め、誰もが幸せになれる生き方を求めて研究し続けました。


 そして、発見した研究結果を自分自身で試して間違いないことを確かめ、さらには多くの人たちを教育し、指導や援助を行いました。


 晩年の先生は布団に寝ていることが多かったのですが、苦しくても休むことなく、付き添いの人に起こしてもらいながら未来の人たちが幸せになるようにと様々な細かい注意を書き残しました。


 私には、「未来の人とは、あなたのことだよ」と先生が言われているように思えてきました。


 先生は亡くなられる直前まで筆を離さずに書き続けました。


 私はそのお姿を思い浮かべて、先生は他人である私のために、何でそこまで苦労をされたのかと申し訳なく思うとともに、ありがたくて涙が止まらなくなりました。


 それは、先生の心を伝えようとした講師が私から自然に引き出してくださった気持ちだったのだと思います。


 そのときから、先生の書かれたものは私への手紙になりました。


 そして、もちろん先生の本はあなた宛ての手紙なのです。

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