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日常の文学シリーズ

もふもふとにんげん

日常の文学シリーズ⑤(なろうラジオ大賞 投稿作品)

そこの猫。

どうしてお前は媚びるのだ。

貴様は全く警戒しない。

尻尾を振って寄って来る。

身体を摺り寄せうずくまる。

頭をなでてもうろたえない。

もふもふしても怒らない。

上手に小首をかしげている。

自分の魅力を知っている。

かわいい角度を知っている。

尻尾をゆらゆらさせながら、優雅に光を浴びている。

そうして餌をねだってる。

貴様はそうして生きてきた。

だけど私は聞いてみたい。

浅ましいとは思わんか?

かわいさだけで生きている。

皆に愛想を振りまいて、おこぼれもらって生きている。

可愛いだけが生命線。

人間でいえばもう初老。

一生そうして生きるのか?

ニャーと鳴いて生きるのか?

赤ちゃん言葉で生きるのか?

悔しくなったりしないのか?

あそこの野良を見るがいい。

私が寄れば腰を下げ、うなりをあげて距離をとる。

研ぎ澄まされた感覚で、わずかな気配も逃さない。

あれこそ野生の猫だろう。猫のあるべき姿だろう。

恥ずかしいとは思わんか?ああなりたいとは思わんか?お前は本当にこれでいいのか?

伝わるはずないと思いながらもそっと尋ねると、猫はこういったように見えた。


そこの人間。

どうして服を着てるのだ。

今日はこんなに暑いのに、お前の服は暑そうだ。

ネクタイなどをするからだ。

スーツなんかを着るからだ。

黒いカバンを持ちながら、虚ろな目をして歩いてる。

そんなに会社が嫌なのか?

じゃなんで仕事に向かうのか?

貴様は飼われて生きている。

無理を抑えて我慢して、言われた通りにやっている。

皆に愛想を振りまいて、おこぼれもらって生きている。

貴様はそうして生きてきた。

だけど私は聞いてみたい。

それで本当に満足か?

やりたいことをしないまま、お前は人生終わるのか?

やりたいことに気づかずに、お前は人生終わるのか?

自分の力で立たんのか?

あそこの野良を見るがいい。

魚屋で盗んだ好物を、自分の口で食っている。

捕まりゃ最期、死ぬだろう。

見るも無残に、死ぬだろう。

それでもあいつは人生を、自由だったと思うだろう。

あれこそ自由な生だろう。人のあるべき姿だろう。

恥ずかしいとは思わんか?ああなりたいとは思わんか?お前は本当にこれでいいのか?

伝わるはずないと思いながらもそっと尋ねると、人間はこういったように見えた。


「これしかやり方を知らねえんだよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間と猫の対比。 多くの点で共通し合い、あらゆる点で相反し合う要素の妙ですね。 猫だからこそふてぶてしく、もし主題が犬であったなら180度異なる視点で描かれていたでしょうね。
[良い点] 猫にも人間にもそれぞれ言い分があって、やっぱり飼い主に似ている?というのが面白い感じしました。しょせん同じ穴の狢、という発想が猫愛に繋がるのだと思います。猫には私もいつも同じことを感じます…
2019/07/06 04:26 退会済み
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