6 偽るほどに遠ざかる
「探偵くんと、寿くんと……もう一人は初め会う子だね?」
黒い甲冑姿の大柄な騎士の案内で通された部屋には、ソファに座る一人の女性と、その背後に控える白銀の甲冑姿の騎士がいた。騎士は二人ともマントを着用している。
その騎士が仕えるのは、見た目だけの年齢なら知世と変わらないほどの若い女性だ。肩を少し越す長さの髪。閉じられた両目は、まぶたにくっきりと傷痕が残っている。ラフなトレーナー姿は利便性を考えた結果だろう。ソファの肘掛けには杖が立て掛けられているのが見えた。
リラ国の化身、ラセット・リラは盲目だ。大戦時代にリーズベルグとの戦いで両目を失い、以降は騎士の助けを借りながら隠居に近い生活を送っているらしい。応接間には余計な物がなく、テーブルを挟んでソファが向かい合わせに配置されているだけの、やや殺風景な印象だ。物が多いと危ないからだろう。
「風音静來です。初めまして」
「初めまして。……うん、生真面目でしっかりした声だ。三人とも、どうぞ座って」
静來と探偵は言われるがまま、リラの正面のソファに腰掛けた。静來が寿を膝の上に乗せていると、リラは静來たちを案内した黒い甲冑の騎士に呼びかける。
「仁、紅茶を淹れてくれるかな」
「はっ。承知いたしました」
仁と呼ばれた黒い騎士は一礼すると、背中のマントを翻して去って行く。騎士はすぐに戻って来た。リラに言われてから淹れたのではなく、来客が確認された時点で飲み物は用意されていたのだろう。甲冑姿でお茶を持ってくる姿はなかなかアンバランスだ。
「ありがとう、仁。助かるよ」
「もったいなきお言葉」
騎士は再び頭を下げる。ややドスの利いた低い声だが、威圧的なのではなく、単純にそういう声質なのだろう。この場の二人に限らず、リラで見かけた騎士たちの中には今の彼のように甲冑姿で歩いている者が多くいたが、この仁と呼ばれた騎士はその中でもそれなりに歳を重ねている壮年の男だろうことが予想できた。
「そこにいるのが誰なのか、よくわかりますね?」
静來の問いに、リラは少し笑う。
「音でわかるよ。私は人より少し耳が良くてね。目がこうなってからはとくに、聴覚で周りを見るようになった。そうせざるを得ないと言うべきかな。仁は騎士団で一番足音が重いから、とくにわかりやすいんだよ」
「素朴な疑問なんですが、仁さん……というより、他の騎士のみなさんと、そちらの騎士とで鎧の色味が違うのは、なにか意味があるんですか?」
「色? そうか、音で色まではわからないから知らなかったよ。仁」
「そこに控える白銀の騎士、蘇芳は、我がモナルク騎士団の副団長であり、リラ様の腹心にございます」
仁の紹介に、蘇芳と呼ばれた白銀の騎士が頭を下げる。寡黙だ。
「他の騎士たちとは立場が違うから、色で差別化を図っているということですか」
「左様」
「お二人が着けているようなマントは、他の騎士たちにはないようですが」
「仁はモナルク騎士団の団長なんだ。甲冑のデザインはみんな同じだから、団長と副団長はわかりやすいようにマントを着用しているんだよ」
「団長さんだったんですか。どうりで貫禄のある佇まいだと思いました」
「恐縮にございます」
「リラ、この国ではずいぶんと前から殺人鬼が野放しにされているようだが、貴様はどう考える」
探偵がリラに問う。リラは膝の上で指を組み、息をついた。
「……そうだね。一刻も早く解決すべきおぞましい事件だ。騎士団でも警備態勢の強化はもちろん、警備隊とも連携しながら懸命に捜査を進めている。騎士団は問題解決に尽力しているよ。……それでも傍から見て進展がないのは事実。それについて言い訳するつもりはないな」
「手がかりは?」
「私が聞いた限りでは、現場にはほとんどなにも残っていない。被害者の遺体が目をくり抜かれた状態で発見されていること以外、共通点らしいものもない。すべてが同一犯によるものと断定していいのかすら。それほどまでに、あまりにも、なにもなさすぎる」
「なにもなさすぎる。……それもまた、ひとつの手がかりだ」
「君にしてみれば、そうなるのかな」
「ところで、最近この国で行方不明者が出たという話はあるか」
「行方不明? ……いや、私は知らないな。仁」
「は。現状、そのような報告はございません」
「そうか。いやなに、気にするな。こちらの話だ」
「探偵くん、君は目潰し殺人について捜査しているのか?」
「いいや、我々の任務はそことは別にある。ただ、その件と関係している可能性が高いので、並行して調べているだけだ。もし我々の任務と無関係なら、私は別段そちらの事件に興味はない」
「……君たちの任務と、この事件の関係性。もっと率直に、君はどう思う?」
「私は真実を語る者だ。不確定要素を含む話は当然、不自然な段階で理を明かすつもりはない」
「相変わらず口が堅いな」
「貴様が私を試したがる癖も相変わらずだ。知的好奇心は結構だが、あまり私に聞きすぎるなよ。無知は罪とはよく言うものの、逆もまた同じことだと知れ。知りすぎては戻れなくなる」
「どうも君という存在に興味が尽きなくてね。君がなにをどこまで知っているのか。どこから来て、どこへ向かうのか。真実とはなにか。つい気になってしまう。伏せられればなおのこと、知りたくなってしまわないか?」
「やめておけ。事の次第によっては、両目の次は正気を失うことになるぞ。目を潰されてまだ懲りないのか」
「探偵殿、今の発言は我が君への冒涜と受け取ってよろしいか」
探偵に鋭い声を向ける仁。蘇芳も探偵を見ていた。静來の膝の上で、寿が威嚇するように歯を見せてうなる。
「仁、口を慎め」
「寿、噛むな」
当然ながら探偵に動じた様子はなく、彼は肘掛けに腕を置いて長い足を組んだ。
「騎士団長よ、今のは貴様が私の言葉を主君への侮辱と捉えて警告を下したのと同じだ。牽制にすぎん。ラセット・リラ。もう一度言う。私に、聞きすぎるな。とくに貴様は見えない分、聞こえすぎてしまうのだからな。余計な音まで拾わぬよう、せいぜい気を付けることだ」
「忠告、痛み入る。それとは別に、もし事件のことでなにかわかったら、教えてもらえると助かるな」
「私も取引の相手は選ぶ性質だ。ゆえに確約はできん。貴様が我々に腹を割って話すつもりがないのと同じようにな」
「……おや。これは、手厳しい」
「そもそも、私がここに来たのは情報交換のためではない。貴様を案じたロア・ヴェスヘリーに様子を見に行くように言われていたからだ。どうせ既にギルドから連絡があっただろう。私も組織に身を置いている以上、たまには上官の顔を立ててやらんとな」
「君にもそういうことを考えるだけの協調性があったんだね」
「言ってくれるではないか。一番の理由として、事件ひとつ解明するのにいつまでもグズグズしている貴様らを見下しに来てやっただけだ。このままでは、私がうっかり横から解いてしまうぞ。いっそのこと、全員その重そうな鎧を脱いでしまえば、もっと身軽に動けるのではないのかね?」
「ちょっと探偵、そのへんにしてくださいよ。騎士団に喧嘩を売りに来たんですか?」
「ある意味そうとも言える。そこの黒いデカブツが私の助手に向かって、あまりにもじろじろと不躾な目線を送っているもので、少々言いすぎた。顔が隠れているからバレないとでも思っているのなら、認識を改めるべきだ。……それと、これは単なる助言だが、私の前では剣に手を触れないほうがいい。私の助手が勘違いして、うっかりその甲冑を噛み砕くやもしれん」
「言いすぎたって言いながら、さらに言葉を重ねてどうするんですか……」
「悔しければ成果を出してから文句をつけにくることだな。さて、果たすべき義理は果たし、言うべきことは言った。……行くぞ」
「あっ、ち、ちょっと!」
リラの屋敷から出たとき、静來は探偵のあとを追いながら一度だけ建物を振り返った。
「探偵、よかったんですか? やりようによっては、騎士団からもっと情報を得られたんじゃ……」
「やつらは我々と協力するつもりなどなかろう。だからどうというほどのことでもない。ただ、まあ、あれでもっとやる気を出せばいいが。よそから来たぽっと出の探偵に、自分たちの事件を掻っ攫われては騎士団の名折れだろうからな」
「……まさか彼らの対抗意識を煽って士気を上げるために、あんなことを?」
「は? なぜ私がそこまでしてやらねばならんのだ。やつらの名誉も誇りも私には関係ない。私より先に大手を打てないのであれば、それまでよ」
「いつ騎士団長が斬りかかって来るか、肝が冷えましたよ。もう……」
ほっとため息をつく静來だが、当の探偵はまるで悪びれずに話を変える。
「ところで、私に報告するべきことがあるのだろう?」
「あ、そうでした。報告というか、少し気になることがありまして。あの……気のせいかとも思ったんですけど」
「言ってみるがいい」
「……浅葱さん、覚えていますか? 新しくお屋敷に来たっていう、新人の」
「地図を持ってきた男だな」
「あの人、はっきり言って不審です」
「ほう、その心は?」
「午前中に廊下で少し話したんです。彼は、まだ一度も名乗っていないはずの私の名前を知っていました。私たちは岳さんと雅日さん、そして知世の前では最初の挨拶で名前を明かしましたが、浅葱さんの前では一度も名乗っていないし、名前を呼び合ってもいません。一度は紹介を受けた岳さんですら、私を見ても名前が出てこないようでした。私たちのことは昼食のときに、他の使用人のみなさんにも紹介されましたが、それ以前の段階で彼が私の名前を知っているのはおかしいです」
探偵はにやりと笑った。なんだか満足そうだ。
「ふふ、やはりそうか。私も貴様にひとつ伝えておくべきことがある」
「……なんですか?」
「私の部屋には盗聴器が仕掛けられている。あの浅葱という男は我々の名前だけでなく、我々の任務についても聞いていたはずだ」
「と、盗聴器? いつからですか」
「朝のブリーフィングからだ。地図を届けに来たとき、あの男はわざと地図を落としてベッドの下に手を入れて、盗聴器を設置した。我々が見ている目の前でだ。大胆かつ不自然なく、危うく見逃しそうなほどの手際のよさ。只者ではないな」
「……浅葱さんにはこちらの情報が筒抜けということですか」
「我々の動向を探りたいと言うのであれば、気が済むまで探らせてやるといい。今は気付いていないふりをしろ。適度に隙を作り、しかし決定的な発言は聞かせない。知られては困る情報以外は教えてやればいい」
「私たちが盗聴器に気付いていることを浅葱さんは知らない。なら、立場としてはこちらのほうが優位ということですか」
「一般人が相手ならまだしも、我々を相手にするには少し詰めが甘かったようだな」
「……まさかとは思いますが、私たちを尾行していたのって」
「それは矢野瀬來亜が確認するだろう。そのために屋敷に残してきたのだ。帰るころにははっきりしているはずだ」
「でも、浅葱さんの目的はいったい……」
「そうまで警戒するほどの相手でもない。……風音静來、私がお前と闇祢零羅に渡してある情報が、他の者に渡している情報と若干の差異があることには当然、既に気が付いているだろう。それがどういう意味を持つかは、わかっているな?」
緊張をごまかすように、静來は無理矢理笑った。
「ずいぶんとプレッシャーをかけてきますね? ……ったく、わかりましたよ。ええ、期待に沿えるかはわかりませんが、私にできる限りのことはします」
*
「來亜、來亜ー? おーい、どこ行ったのー?」
裏口から庭のほうに顔を出しながら、空來は声を投げかける。先ほどまで一緒にいた來亜が見当たらないのだ。二人で使用人たちを手伝いながら屋敷の中を歩きまわって、ひと息ついたとき。空來が他の女性の使用人に声をかけて雑談していた隙に、いつの間にかはぐれていた。
「空來くん、どうかなさいましたか?」
空來の声を聞きつけた雅日がやってくる。
「雅日さん、來亜見なかった? あの銀髪の赤い目の」
「いえ、私はお見掛けしませんでしたが……」
「ちょっと目を離した隙にいなくなっちゃってさ。屋敷の中は見てまわったんだけど」
「でしたら、お庭のほうにいらっしゃるかもしれませんね。私もご一緒します」
「ありがとう、雅日さん」
二人で歩きながらあたりを見回していると、來亜は思いのほかすぐに見つかった。どこかに向かって歩いて行くうしろ姿を見て、空來と雅日は小走りで追いかける。彼は庭の隅にある古い小屋の前でうろうろしていた。
「らあ、あら……」
「おーい、來亜! やっと見つけた。どこ行ってたの?」
「うん」
「いや、うんじゃなくってさ……まあ、見つかったからいいけど。心配するから急にいなくならないでよ」
「広いな。見つからない」
「見つからない? なにか落としたの?」
「ちがう。おれじゃない。それは。見つけ……わから……うー……?」
「ええ? うーん……えーと……」
來亜は伝えるための言葉がわからず、空來は來亜の伝えたいことがわからず、一緒になってうなる。人語が苦手なのだ。雅日も少し困った顔をしていたが、自信なさげに空來に耳打ちする。
「お屋敷が広くて、場所がわからなくなって迷った……と、いうことでしょうか?」
空來は納得したように手を打つ。
「あー。かもしれない。まあ、來亜が見つかってよかったよ」
「みやび、これはなんだ」
來亜が小屋を指さして問う。
「ここは物置小屋です。廃棄する予定の物や、置き場のなくなった物――壊れた家具などの大きな廃棄物が中心ですね。それらをここに一時的に保管しておくのです」
「ああ、秋人たちと勇兄も言ってた気がする。結構古い小屋なんだね」
「そうですね、明るいうちはただの古い物置小屋ですが、夜になると少し不気味で。昔から、お嬢様がおいたをしたときは、旦那様が反省部屋としてこの小屋の地下室をお使いになられていました」
「閉じ込めて反省させるってこと? 僕も小さいころはそういうのあったなあ。知世ちゃんは昔からおてんばだったんだね」
「ええ、明るくて行動力のあるところはお嬢様の長所でもございますが、そのおかげで失敗なさることも多くありました。私やリィスが旦那様に、お嬢様をお許しいただくようお願いに伺うこともしょっちゅうでした」
「懲りないねえ。でも小さいころってそういうものだよね。今でもそういうことはあるの?」
「いえいえ、お嬢様もご成長なさいましたので。ここ二年ほどは、反省部屋に入れられるようなことはありませんよ」
「三年前まではあったんだ……」
「リィス。いつからいた?」
「リィスは彼女が十五歳のころから四年間、ここに勤めていました」
「その子は雅日さんから見て、どんな子だったの?」
「心の優しい子でしたよ。お嬢様のことを常に気にかけて、大変にかわいがっていました。お嬢様が反省部屋行きになったときも、いつも最初に旦那様のもとへ行くのは彼女でした。お嬢様が花瓶を割ってしまったときも、一緒に旦那様に謝りに行ったり、まるで本当の姉妹のようで……」
雅日は昔を懐かしむように、そして少し寂しそうな表情で続ける。
「本当にいい子でした。なのに、こんなことになってしまうなんて……」
「死んだのか」
「え?」
「いなくなった。リィス。わからないだけだ。なぜだ。死んだように言う」
來亜の言うとおり、リィスは行方不明になっただけだ。死亡が確認されたわけではない。たしかに、雅日の言葉ではまるで、リィスがもう帰らぬ人となってしまったかのように聞こえる。雅日は己の失言にはっとした。
「あ、いえ、それは……はい、申し訳ありません。あの子……リィスが行方知れずになってから、もう十日も経って……そう、でしたね。まだ……そうと決まったわけではないのに。私、考えが少々うしろ向きになっていたようです。どうか、忘れてください」
「まあ、十日も帰ってこないんじゃ、そう思えてきちゃうかもね」
「そういうものか」
「なんていうか、心の準備ってやつ? そりゃあ、大丈夫だって信じるのも大事だけど、最悪の状況を想定しておいたほうがさ、もし本当にそうだった場合にショックが少なくて済むじゃない?」
「わからない。見つからないは、どっちでもない」
「うーん……ま、むずかしいよね。ちなみに、雅日さんが最後にリィスと会ったとき、なにか変わったことはなかった?」
「ええ……とくになにも。いつもどおりだったと思います。なにか思い出すことがあれば、すぐにお知らせしますね」
「わかった、そうして。とりあえず、これからどうしよっか。來亜、もう一回お屋敷の中を歩いて来る?」
「中はいい」
「そう? じゃあ……雅日さん、なんか僕たちに手伝えることない?」
「ええと……あ、そういえば、食材の買い出しがまだでした。ご一緒していただけますか?」
「もちろん!」
「では、メモを取ってきますね。玄関前で少々お待ちください」
雅日は買い出しの準備のために一度屋敷の中へ戻っていく。空來と來亜は言われたとおり、玄関の前まで移動した。雅日はすぐに戻ってきた。
「荷車みたいなのは使わないの?」
「食材の買い出しと言っても、今日は調味料の買い付けのみになります。いくらかお店をまわることになりますが、それほど大荷物にはなりませんので……あら?」
話しながら正門の前に辿り着くと、雅日がなにかに気付いた。門の外に目を向けると、浅葱が荷物の乗った小ぶりな荷車を押しながら歩いてくるところだ。
「浅葱くん、午後はしばらくお休みだったはずじゃ……」
「はい、そうなんですが、永さんが少し……調子がよろしくないそうで、代わりに注文していた肥料の受け取りに」
「永さん、どこかお体の具合が?」
雅日が心配そうに問う。浅葱はやや気まずそうな苦笑いを浮かべ、慎重に言葉を選んだ。
「と言いますか、その……主に腰まわりに少々不安が……」
「ああ……」
「あまり言いふらさないようにと注意を受けていますので、できればご内密に……」
「わかりました。でも、言ってくれれば、私が受け取りに行ったのに」
「もともと出かけるつもりでしたし、外でゆっくりした帰りに受け取ってきたので、休憩自体は満喫させていただきました。散歩のついでのようなものですよ。お気遣いありがとうございます」
浅葱は來亜が自分のことをじっと見ていることに気付いた。赤い虹彩の中、縦に細長い瞳孔に見据えられ、浅葱はわずかに首をかしげる。
「あさぎ」
「はい、どうなさいましたか」
「お前はどこにいた」
「あ、そうだね。浅葱さん、どこか出かけてたの?」
來亜の発言の真意をよそに空來が問う。浅葱はそちらを見て頷いた。
「海を見に行っていました。ここから少し南東に歩いたところに海岸があるので、しばらくそこに」
「そっか。リラって海が近いもんね。海好きなの?」
「そうですね。波の音を聞くと心が落ち着きますから、時間があればよく立ち寄ります。雅日さんはこれから買い出しですか?」
「ええ。すぐに戻るから、浅葱くんはゆっくりしていて」
「はい。ではまたのちほど」
浅葱は門をくぐり、庭のほうへと歩いて行く。それを少し見送ってから、空來たちも町へ出発した。