糸瓜の種とグローリィ
瞼を開くと光が差した、それだけでここが外ではない事が分かる。グローリィが故障して躓いて―――その先は覚えていないものの簡易的な治療の跡、そして今自分がいる場所が建造物の中であることから誰かに助けられた…と考えるのが自然だろう。
最も、鉄格子が視界に入らなければの話だが。
「お、目が覚めた?ちょっと待っててね」
薄暗くて良く見えていなかったが鉄格子の向こうには青年がいたようだ。声から柔和な印象を受ける彼は小走りで少し離れ、「おーい!目が覚めたよー!」と呼びかけている。
「ごめんごめん、ちょっと待ってね」
「あの、待つのは構わないんですが…俺の持ち物って無事ですか?」
怪我の具合からしてかなり派手に転んだのだろう。もう一つのグローリィも破損していてもおかしくはない。
「あぁ、その事なんだけど…あ!来た来たこっちこっち!」
彼が手招きをした先からはそれぞれ二人づつの男女が歩いてくる。
「まずは君から見て左側のローガンから紹介を…」
「おいルクシナ、まずはやる事があるだろう」ガチャ
ローガンと呼ばれた髭面の堅物そうな男が青年の発言を遮ると、おもむろエイルに銃を向けた。
「こいつを生かして仲間に加えるか、ここで殺すか。多数決だ、俺は殺すに一票」
男は冷淡に告げる。
「?!ふざけるな!どういう事か説明をしろ!」
「まずはルクシナから」
エイルの発言には聞く耳を持たないようだ。
「こうなったらローガンは止まらないからなぁ…ごめんね、これもルールなんだ。僕は生かした方がいいと思う。」
(クソッ、グローリィがない以上どうしようも出来ない…とにかく殺されないよう祈るしか無い…!)
「次、アリア」
「殺しましょ、面倒事は少ない方が良いわ。」
(これで殺す方に二票…!)
「それじゃあ次はサラ」
「私は生かす方に賛成よ?だってこの子…可愛い顔してるんだもの〜〜」
(なんでもいいがこれで二対二!次の奴…頼む!)
「二対二か…それじゃあ最後、おいヘチマ!」
「んえ?あぁ、やっと僕の番か…それじゃあ……」
そう言うと白衣が特徴的なヘチマと呼ばれた男はこちらに近寄ってきて
「君は生きたいかい?もし生きたいのなら…この興味深い装置について知っていることを話してもらいたいな」
そう言ってファージはエイルのグローリィを見せつけてくる。断れば死が待つ以上エイルに拒否権は無いも同然の問いだ。
「……分かった、知っていることは全て話す…がそれは早急に返してもらいたい。それが無いと少しまずい事になる。」
「OK、交渉成立だ。僕は生かす方に賛成さ」
(最後のヘチマとかいう奴と変な約束をしてしまったが、何とか助かった…)
「チッ…それじゃあ多数決の結果こいつを仲間として迎え入れる。あとは自己紹介なりなんなり好きにしろ」
そう言い残して男は銃を下ろし、来た方へと去っていった。
「はぁぁぁ……」
思わず大きなため息がこぼれる。
「はぁ、お疲れ様。なんとかなって良かったよ。それじゃあ改めて「反HARO勢力 EARTH」にようこそ!歓迎するよ。」
「ちょっと待て!そのヘチマって奴に協力するとは言ったがそのアースとやらに加わるなんて一言も言ってないぞ!」
そう言うとルクシナは顔を近づけ小声で
「加わらないとローガンに殺されちゃうよ」
と苦笑いしながら囁き、ごめんねと手を合わせた。
「そうか…ならしょうがない。俺はエイルだ、よろしくな」
「僕はルクシナ!困ったことがあったらなんでも聞いてね。次、アリア」
「え…あぁ。アリアです、よろしく」
ひどく無愛想な印象を与える少女だ、先程も殺す方に投票していた一人という事もあり、仲良くは出来なさそうだと感じた。
ルクシナに次、と促され口を開いたのは
「サラで〜す、ヨロシクねカワイイ坊や」
(うぅ、さっきは張り詰めた空気のせいで気にしなかったがこの人もちょっと苦手かもな)
「それじゃあ最後は僕だね?僕の事はヘチマって呼んでくれればいいよ。兵器研究とか薬品知識なら僕に任せてくれ。きっと君の力になれると思うよ。」
重要な役割のようだが――――
「あ、気づいてるだろうけどヘチマっていうのは本名じゃないからね、どうも彼記憶が一部飛んでるみたいで…僕らが見つけた時何故か持ってた糸瓜の種から取ってヘチマって呼んでるんだ。」
ルクシナの見事なフォローが入り最大の疑問が解消された所で
「それじゃあ私部屋に戻るわ、また明日」
と言ってアリアが上へ上がっていき、それにつられてほかのメンツも去っていく。
「あ、君の部屋も用意しておくから共有スペースで休んでいて。ほらヘチマも手伝って」
文句も言わずに頷くヘチマの笑顔がどこか不気味だったのは、きっと疲れが溜まっているのだろう。