残された希望の種
(よし、とりあえずここまで逃げればしばらくの間見つかる事は無いだろうし一度休めそうな所を見つけて一息つきたい所だな)
HAROの兵士を迎撃し、その場から逃走を始めて15分程度がたった頃エイルはHAROの本社を中心とした支配地域の南西から真南の地点まで移動いていた。
「ここら辺の地域は建物も何も無いのか?逃げる方角を間違えたな、クソっ」
先程から彼が走っているのは見渡す限り崩壊した建物の残骸が広がるまさに世紀末の様な領域。グローリィで視力を強化しなければ何も見えずにまともに歩くことも叶わないだろう。
「HAROがしたことで一番うざったいのは太陽光パネルを敷き詰めたせいで日光が遮られてる事だな…!」
ふつふつと湧き上がる各方面への不満を行動力として休めそうなところを探す。
「そろそろ疲れてきt…ッッッ!?うわあああああぁぁぁぁぁ!!」
生きる気力まで飲み込むような暗闇に情けない悲鳴だけが木霊した。
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「あれ〜アルドラ君なんで縛られてるの?!それに怪我もしてる!早く病院に行かないと死んじゃうよ〜!」
エイルを捕縛しようとした際に見事に返り討ちに合い支柱に縛り付けられた兵士に駆け寄る背丈150cm程度の少女。少女が被る身長に不釣り合いな大きさの帽子にはデカデカと「HARO」の文字が刺繍されている。その帽子も兵士に駆け寄る少女の頭に置いていかれるように宙を舞い、床にパサリと音を立てて埃を巻き上げる。
「ゲッ…よりによってチビババァかよ」
「ババァ?!今先生の事ババァって言ったの?!ちゃんとエリィ先生って呼んでくれないと怒るよ!」
「ハイハイ、ごめんなさいエリィ先生(チビについては触れないのか…)」
「ハイは一回!全く…こんな不良生徒に育てた覚えはないのに…あ、それでアルくんはどうして怪我して縛られてるの?確か今日はEランクの掃討のはずなのに…」
そう言いながらエリィと呼ばれた少女は兵士アルドラの縄を左腕に気を付けながら解いていく。
「それが…EランクNO.40 エイル ロード、こいつを予定通りサクッと殺して次に行こうと思っていたら―――――――という訳なんですけ…ど」
事の始終を語り終えると、アルドラはエリィの様子がおかしい事に気付く。
「……それ本当?もし本当なんだったら私、その子を今すぐにでも追いかけて殺しに行こうと思うんだけど…」
アルドラの背筋に怖気が走る。彼女のこんな表情を見るのは3年間師弟関係として過ごしてきた彼も初めての事で次の言葉がうまく出てこない。
「ま、待てよ先生。一応ボスに報告して指示を仰がないとまずいですって」
その言葉は彼女の耳に届く前にかき消された。彼女がグローリィを取り出し欲望変換を行ったためだ。
「アルくんの敵はちゃんと取ってくるからここで待っててね!」
「え?あっちょっ!」
そう言い残してエリィは南のエイルが逃げた方角へと超スピードで駆けていった。既に発展したGPS技術でエイルの所在は割れている。
「って怪我してる俺は放置なのかよぉぉぉ!!!」
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エイルが持つ二つのグローリィ、その内の一つが故障したとしよう。するとどうなるか?正解は
「………」
気絶
二つのグローリィの内、兵士を撃退するために無理をさせた方のグローリィは負荷に耐えられずに故障し、結果として暗闇を見通すための視力強化が消えた、何も見えなくなっては躓いて瓦礫に叩きつけられるのは必然だろう。むしろ時速50km程の速度で瓦礫に突っ込み気絶で済んだのは身体強化の賜物か。
ザッザッ…ザッ…ザッザッ
血まみれの姿で気絶するエイルに近づく足音が三つ。
「どうする?」
「とりあえず…」
「本部の方に連れていきましょうか」