オレンジの月と森
「どこだ…ここ…?」
思わず呟いてはみたものの、だからと言って何か事態が好転する訳でもなく。
目の前に広がるのは、見たこともない木々が生い茂る森。辺りを見回してみるが、現在地がわかるような標識も建物もない。
ただ、頭上には木々の隙間からオレンジ色の月ときらめく星々が見え隠れしているため、少なくとも今が夜だということはわかった。
月?オレンジ?あれ、月ってこんなに毒々しいオレンジ色だったっけか…?
「落ち着け、焦るな。まずは落ち着いて現状を整理しよう。俺は今、見知らぬ森の中にいて?んで今は夜で?そもそもどうやってここにきた?俺の記憶では自宅リビングでリーシャちゃんの今週の活躍を見ていて…そこまでだ、記憶があるのは。問題は『いつ』『なぜ』『どうやって』こんな場所にいるのかということだな…」
お、なんか今の俺リーシャちゃんばりに推理しようとしてる?リーシャちゃんが降臨しちゃった?
なんて余計な事を考えている場合じゃない。
俺がこんな場所にいる理由とその可能性、それを考えた時に真っ先に浮かんだのが「誘拐」だった。
自慢じゃないが、両親が経営している高級家具屋はありがたい事に業界でも特に有名な店舗で、業績も右肩上がりの不況知らず。他の同業者がやれ事業縮小だ人件費削減だと経営にてんやわんやでもうちだけは不況など関係なくどんどん事業を拡大している。
昔は、それが面白くない同業者からの嫌がらせや誹謗中傷も頻繁にあり、その中にはまだ幼い俺を誘拐するというトンデモない奴らだっていた。
それだけではない、単なる金目当てのバカ共に身代金目的に誘拐される事だってあった。そんな事が続くものだから、両親は俺に専属のボディーガードをつけたり、俺に護身術や武道を習わせたりして、最後に誘拐された小2の夏以降は高2になる今まで誘拐犯のお世話になった事はない。
ただやはり過去の事もあるので、誘拐の線は捨てきれない…と言うか濃厚だと思った。
「でも、まだランドセルを背負ってるガキの頃ならともかく、今の俺を誘拐するなんて考えにくいんだよなあ…」
俺は小2の夏から今までずっとトレーニングを欠かした事はない。
護身術や武道は今でこそやっていないものの、昔からの日課として体にしみついた各トレーニングは、悲しいかなとある理由で引きこもりになった今現在でも俺の体を健康的な細マッチョに保ってくれている。
身体能力だって、並みの高校生よりはかなりいい(と思う)。そんな俺を、セキュリティだらけの敷地内に苦労して忍び込んだうえで誘拐するなんて、身代金目的の誘拐にしてはリスクが高い。
とすると誘拐ではない…?なら他の可能性はなんだ?俺は何故こんな場所にいるんだ?
「…はっ!まさかこれが噂の異世界召喚?!」
って、そんなわけないか流石に。引きこもりすぎて頭ん中アニメゲーム脳になったか俺。
と、その時。
背後から嫌な感じの気配がした。全身をねっとり舐め回すような気持ちの悪い感覚。
そういえば、さっきから感じている妙な空気が一段と濃くなっている気がする。
「な、なんだ…?」
恐る恐る、ゆっくりと振り返ると、身長が3メートルぐらいはありそうな真っ黒い「ナニカ」がぼたぼたとよだれを垂らしながらこちらへ向かって音もなく滑るように近付いてきていた。
やっぱりまだ名前の出てこない主人公、俺。
そろそろ名前出てきます。次ぐらいに。たぶん!
もう少しキャラが出揃ったら挿絵…というかキャライラでも載せようかなあと思ってます。