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異端の勇者に終末を  作者: Edamame
第一章 死せる少年は異世界へ
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第4話 軋み

「ごちそうさまでした」


 エートは、食べ終えた皿を重ねるとキッチンまでそれを運ぶ。


「ナターシャさん、ごちそうさまでした」


 メイドはキッチンでイスプの皿を洗っているようだった。


「申し訳ありません。本来なら私が取りにいかなくてはいけないのに…」

「いえ、いいんですよ。僕は暇なので…」

「…………」


ナターシャは作業を止めてエートを見つめる。


「…ナターシャさん?どうかしましたか?」

「いえ、ただ……」

「エート様は明るくなったな…と思いまして」


 この屋敷に来たとき"英人"は消え入りそうなほどに弱々しく、まるで他人を、目に写るすべてに怯えているようだった。

 だが、今の"エート"は、以前よりも社交性を手に入れつつあり、前よりも明るくなっていた。


「ナターシャさんと、イスプさんのおかげですよ」

「私には勿体ないお言葉です」

「いやいや、そんなことは……」


 エートは、ナターシャに軽く手を振るようにして否定する。


「ふふふふ…」

「…まだ、仕事が残っておりますので」


ナターシャは笑顔を見せると皿洗いを再開した。


「お邪魔して、すいません」

「いえ、こちらこそ立場をわきまえずに申し訳ありません」


 エートは、ナターシャの邪魔にならないようにキッチンを出ると、自室へと向かった。

 部屋に入るとエートは食事の前に読んでいたページから、再び本を読み始める。

 こちらの文字を読めるようになってから読んだ本は、5日間で31冊にもなっていた。

 エートが読んだ本は、いずれもこの世界における常識が記されている本だったが、エートにとっては目を疑うような内容ばかりだった。

 まず、エートを驚かせたのは『魔法』の存在。

 この世界での魔法というものは、傷を癒す魔法や物を生み出す魔法。さらには対象の生命を滅ぼすに至る物など多種多様な物が存在する、いわば便利な技術なのだ。

 しかし、誰もがそのような魔法を行使で出来る訳ではない。

 魔法の発動にはある程度の知識や理解、さらにはセンスなどが関係してくるらしい。

 その為、魔法を使える人間のほとんどは魔法技術を活かした職業に就く。

 魔法は未だに開発中のものもあり、魔法の研究者までいるという。

 『魔法』という単語を本の中から見つけた時、エートは驚愕し、しばらくその一文を凝視して、何かの間違いではないかとも考えた。

 だが、そんなエートに追撃を仕掛けたのが『魔物』であった。

 『魔物』とは、通常の動物とは異質な、尚且つ奇怪な生命、又は活動体のこと。

 『魔物』は人間を襲い、日々たくさんの被害を人間達に与えている。

 『魔物』は俗名で、この世界での生物学的な名称は『魔生物体』というらしい。

『魔物』には以下のランクがつけられている。

ランクの低い魔物が"下等魔生物体"

比較的ランクの高い魔物が"中等魔生物体"

ランクの高い物魔物が"高等魔生物体"

ランクの高い魔物ほど異常な性質を示したり高等な知能を保有していたりするという。

 そして、そんな魔物を生み出し、人間に混沌(カオス)を撒き散らしているのが


『魔王』だ。


 『魔王』とは異界、一般的には魔界と呼ばれる世界の王で、度々地上へと降臨する。

 今まで、降臨した魔王を倒そうとする試みは幾度となくあったが、本によると成功した例は無いようだ。魔王は世界を破滅に導く為に魔物を生み出し、世界中で魔物達による破壊と略奪を繰り返しているという。………


 エートは本の魔王の記述を見たとき、閃いた。

魔王は魔界とよばれる世界……ある種の"異世界"からこの世界へとやって来ると本にはあった。

つまり、魔王がこの世界へと移転するその原理さえ解明することが出来れば、自分のいた元の世界へと戻れるのではないか?

……だが、その一方では


自分の世界に本当に戻りたいのか?


 そんな、細やかだが闇を孕んだ重い疑問がエートの頭を包みこんだ。





エートは本を読み終えるとベッドに寝転んだ。


「………戻り…たい…のかな…?」


 エートはベッドの軋む音と共に自分の心が軋む音も聞こえた気がした。

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