表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スナッフ

作者: ノロ

「ねえ? 知ってる? 人を殺すムービーのこと」

 結城里沙は目を輝かせて言った。

 友人の松本加奈子と二人、学校帰りに河原の土手をゆっくりと歩きながら里沙は楽しげに笑っている。

「バカらし。嘘でしょそんなの」

 加奈子は友人の楽しげな……内容はとても剣呑な会話を切って捨てた。

 里沙は友人のあきれ顔を意に介さず、相変わらずニコニコと笑っている。

「フィクションじゃないわ。本当に殺すの。2組の涼子ちゃん、それで居なくなったって話よ」

「あれは事故だって……」

「そう。事故よ。彼らに会った。それが事故」

 里沙の言葉に、加奈子は立ち止まった。

「彼ら……?」

「スプートニクの恋人」

「……私、小説は読まないの」

「分かってるじゃない。でも違うわ。スプートニクの恋人は……人を殺すムービー、スナッフムービーの撮影隊のことよ。我ら新陽学園が誇るトップスターたち」

 里沙は両手を広げてくるりと一回転した。演技めいた動きに加奈子は不快感をあらわにした。

「アタマ大丈夫? 色んな意味で。そんなの都市伝説に決まってるじゃない」

「どうして?」

 心底不思議そうに里沙は首をかしげる。

「そんなのが居たら、とっくに逮捕されているってことよ。この国の警察機構を甘く見過ぎだよ」

 加奈子は再び歩き始めた。長い影がゆらゆらと揺れる。

「……分かってないなぁ」

 里沙は加奈子に合わせて歩き始める。

「何がよ」

「確かにこんな噂が堂々と広まったらいかにも都市伝説っぽいわ。もし本当にスプートニクの恋人がいるとしたら、とっくに逮捕されているかもね」

「……そうでしょう?」

「時間の問題なのは間違いない。でも彼らは捕まるのを恐れているわけじゃない。完全犯罪をしたいわけでもなければ、快楽殺人者でもない。ましてや金のためでさえない。彼らが恐れているのはもっと別のこと」

「何が言いたいのか分からないわ」

「あなたが言うところの『とっく』にはまだ到達してないのよ彼らは。見つかるにはいくばくかの猶予があって、今はその過渡期。彼らはその間に目的を遂げようとしている」

「……ずいぶん詳しいのね。よく分からないけど」

「調べたのよ。色々と危ない目にあってね」

「意味があるとは思えないわ」

「そうでもないよ。ふふ」

「あなた、ちょっとおかしいわ。そんなことを調べてどうするの?」

 里沙は笑って加奈子の質問を無視して続けた。

「興味深い話があるの。スプートニクの恋人は外部の人間を決して巻き込まない」

「……」

「彼らの犠牲者たちはみな彼らスプートニクの恋人自身なの。殺された彼らは自らの意志でスプートニクの恋人に入り、志願して殺された」

「そんなこと、ありえないわ」

「それがありえるから、おもしろいんだなぁ」

「馬鹿馬鹿しい。死ぬって意味、分かっている?」

「最近ようやくね。殺された子たちの気持ち、分かるなぁ。スプートニクの恋人は、新陽学園の生徒たちの間で作られた組織なの。学校中の死にたい子を集めて、殺す。そして最後は、全員死ぬの。だから警察も親も学校も、怖くない」

 加奈子はため息をついた。

「おかしな妄想はやめましょうよ。死にたいだなんて」

 加奈子は心配そうに里沙の肩を叩いた。

 里沙は肩を叩く加奈子の手を掴む。

 驚いた加奈子は里沙を見つめる。二人の目が合った。

「ねえ、私を殺してよ。もう生きていたくない」

 里沙は言った。初めて見つめる加奈子の瞳は、里沙の言葉に対して何ら反応しない。

 ひどく冷たい目をしているなと里沙は思った。

 沈黙だけが返ってきた。でもそれが答えのように里沙には思われた。

 河原の土手には二人の他は誰も居ない。

「それが条件なんでしょ? 私を仲間に入れて。役に立つわ。あなたが……スプートニクなんでしょ……?」

 夕日の河原で、二人の影が混じり合った。

「里沙は、ちょっと疲れているよ」

 抱きしめられたと気付いたとき、里沙は泣いていた。

「何かあったの? 私で良ければ……話、聞くよ」

 加奈子は言った。里沙は嗚咽を漏らして、子供のように泣きじゃくっていた。

「もう生きていたくない。学校も家も、みんな嫌だ。死にたいの……」

「大丈夫だよ里沙。里沙は大丈夫。何にも怖くないよ」

 加奈子は里沙の頭をぽんと撫でた。

「……本当に?」

「うん。だから今日は家に帰ってぐっすり寝て、また一緒に学校へ行こう」

 満面の笑顔で加奈子は言った。

 里沙は涙を拭いた。

「……うん。うん! ありがとう。私、疲れてたみたい」

「そうだよ。美味しいものでも食べて、元気出すんだよ」

「……何かお腹空いてきちゃったなぁ」

「そうだねー。マックでシェイクでも食べよっか」

 そのあと、二人の少女はマックへ行き、手を繋いで家に帰った。

 里沙は加奈子と家の前で別れるとき、ずっと手を振っていた。

 日が落ちた。

 

 一人になった加奈子は、夜の公園で誰かと電話をしている。

「うん。次の子決まったから、あとでプロフィール送るね。そう。結城里沙。明日連れてくから。可愛い子だし、いい絵になりそう。プラン?そうねぇ、刃物か電気がいいかなぁ。楽しみだわぁ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ