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小笠原事件














キリスト暦2015年4月2日 午前12時00分

日本国 東京 小笠原諸島 父島



「何でよ! 何で! 私が何をしたっていうのよ!」


 まだ幼さの残る若い女性が悪態をつきながら走っていた。

 走る方向は山の中。海から遠いところだ。

人間の手が入っていないそこは、草が生い茂っている。ミニスカートを穿き、生足を露出している彼女の足には草木があたり、次々と切り傷が出来ている。だが、彼女はそんなことはお構いなしに走り続ける。


普段まったく運動などしない彼女がわき目もふらず、怪我をするのも恐れずに全力疾走する理由は単純。


死への恐怖だ。

彼女が先程までいた場所、海岸では、多数の異世界人が上陸。次々と観光客や地元住民を殺していた。


「来るんじゃなかった! こんなところ!」


 その台詞の通り、彼女はこの島の住民ではない。彼女の住所地と通学先はどちらも埼玉県にある。

女性の名前は大佐古おおさこ実花みか。年齢は18歳で、ピチピチの女子大生。10人いれば8人は振り返ると評される美貌の持ち主だ。


 そんな彼女がこんなところで何をしているかと言うと、観光だ。日本列島が異世界に飛ばされたという可笑しな発表があった後に、父島から見えるところに謎の島が出現したということで、友人たちと共に見物に来ていたのだ。



結衣ゆい! 美咲みさき! 待ってよ!」


 彼女の前方、50mほどの距離には二人の女性がいた。

だが、実花の必死の懇願にもかかわらず、二人は止まる気配が無い


 彼女たち二人が、実花とともにこの島に来た友人だ。

ちなみに、あと一人、登美枝とみえという名前の友人もいたのだが、彼女は運悪く飛んできた弓矢に首を貫かれ絶命していた。


「いや! お願い! 待ってよ!」



ドドドドドドドドドドドド!


 後ろから響く蹄の音。


 その音源を確認しようと実花が背後を振り返ると、そこにいたのは騎士。それも三騎。その背後には槍を持った男達が10人程も続いている。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 実花は疲労も限界も無視して必死に逃げようとするが、所詮は女の足。馬の俊足に敵うはずもなくすぐに追いつかれる。


「とうっ!」


 実花と並走した騎士が何かを投げる。それは見事に彼女の足に当たり、


「ひぎゃっ!」


悲鳴と共に転倒する実花。


 それを確認した騎士たちはそのまま通り過ぎていき、先行する二人の友人のもとに向かう。



 実花は背後から迫る兵士たちの姿に急いで起き上がって走り出そうとするも、先程までの全力疾走の影響で、足が動かない。


「ひぎ!」


 一歩も踏み出すことが出来ないまま無様に転倒する。

 そうしてまったく動けないでいる間に、異世界人達が追い付き、周囲を取り囲む。


「ひゃっはあああああああああああああああああああああああああ!!」


「上玉だぜええええええ!」


 兵士たちは、歓声を上げる。

そのギラついた瞳を見た実花は、自分がこれからどうなるのかを理解し、必死に助けを請う。


「いやあああ! やめて! 乱暴しないで!」


 だが、そんなものが受け入れられるはずもない。


「見ろよ! あのスカート! 俺たちを誘ってやがる! パンツを丸出しにして!」


「へへへへへへへ。男に飢えてるんだろうよ!」


 兵士たちはそうはやし立てる。


「いや! 見ないで!」


 転んだ拍子に下着が丸見えになっていることに気付いた実花は、慌ててスカートの裾をおろして上から手で押さえる。


「おいおい!」


「そりゃないぜ!」


「やらせろよ! 優しくしてやるからさ!」


「優しくってお前……。そう言ってこの間、オッパイを食い千切ってたじゃんか!」


「そうっすよ! 先輩はもうちょっと優しさってもんを身に着けるべきっす!!」


「ギャハハハハ! こりゃ一本取られたな!」


 何よ……こいつら。

 正気じゃない。


「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイ」


 兵士たちの異常な様子に限界を超えて晒された実花の太ももを、生暖かい液体がつたう。


「へいへい! この女! おしっこ漏らしてるぞ!」


「うけけけけけけけ! お前らが脅かしすぎなんだよ」


「違うっす!! 悪いのは先輩の悪人面っす!!」


「うっせー! これは元からだ!!」


「で、どうする? やるか!」


「やるっしょ! もちろん!」


 兵士たちは、手際よく実花の四肢を縄で結び拘束。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! やめてええええええええええええ!!」


 悲鳴を上げる彼女を無視して、服をはぎ取っていく。

 ついでに、何人かの兵士がズボンを脱ぎ下半身を露出させると、実花へと迫る。


「ひいいいいいいいいいいいいいいい!! やめてええええええええええええ!! やめてええええええええええええ!! こんなのいやあああああああああああああああああああああ!!」


 兵士たちの一物が、実花のもとへと迫っていき……。



~~ 以下省略 ~~



「ギャハハハハ!」


「こいつ処女だったみたいだぜ!」


「娼婦だと思ったんだがなぁ。生足出してたから……」


「そんなぁ……そんなぁ……」


 ことが終わり、嗚咽する実花。

 だが、兵士たちは、誰も気にしたりはしない。むしろ、そんな女の様子を楽しんでいる。

 戦場ではよくある光景だ。



 と、


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「やめてええええええええええええ!!」


女の悲鳴が聞こえてくる。結衣と美咲の声だ。


 実花は虚ろな瞳で考える。

 どうやら、彼女たちも同じ目に遭っているようだ。

 よかった。私だけじゃなくて。


 それは暗いよろこびだった。





そう、彼女だけではなかった。

 小笠原諸島のありとあらゆるところで、同様の光景が広がっていた。


 否。


 むしろ、彼女たちは殺されなかっただけ、マシの部類に入りすらする。





 そこは海岸の砂浜。

 そこには裸にされた沢山の日本人が整列させられていた。


 その中の一人の名前を青森あおもり志緒里しおりという。

 彼女がなぜ小笠原諸島にいるのか? ここには、彼女の自宅があるからでもなければ、職場があるわけでもない。勿論、観光などと言う能天気な目的でもない。ここには彼女の実家があり、今年70歳になる母親が住んでいるからだ。

 当然、それだけではここにいる理由にはなりえない。小笠原諸島には渡航手段が限られていて、そう簡単にはわたることが出来ない僻地だからだ。

 実際彼女にしても、普段は職場の都合もあることから長期休暇を取ることが出来ず、数年に一回ぐらいの間隔でしかこちらに来たことはない。


 だが、今回は滅多に取れない長期休暇が取得できた。いや、それでは説明が不足している。転移の影響で経済が混乱し、彼女の職場も仕事の受注量が急速に低下。その結果、彼女の会社は一時的に、社員の何割かに無期限の長期休暇を与えていたのだ。


 その長期休暇を奇貨ととった彼女は、実家へと帰省していたのだが……その選択は明らかな間違いとなっていた。



「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 志緒里は、というよりもその周辺にいた人々は悲鳴を上げる。

 なぜ、彼女が悲鳴を上げたのか? それは彼女たちのすぐ目の前で、人が二人も殺されたから。

 その内の一人は髪の毛を茶色く染めた若い女性。元々ブツブツとうわ言を繰り返していたその女は、こともあろうに突如として奇声を上げると周辺を巡回している兵士たちの一人に飛び掛かり、武器を奪おうとしていたのだ。このような状況でそんなことをすれば殺されてしまうのは明白だ。だから、体勢を立て直した兵士によって、彼女が殺されたことにそこまでの衝撃は無い。むしろ、今までの殺戮風景によって麻痺してきていた彼女の感覚的には、『ああ、また人が殺された』といった程度だ。


 だけど、問題なのはもう一人。

 もう一人は7歳くらいの男の子で、裸にされて泣いていただけ。


 そんな! そんな!

 あの子は何もしなかったのにどうして。


 志緒里のそんな疑問は、親切な侵略者の兵隊によって解き明かされる。


「いいか! お前たちよく聞け! 逃げようとするやつは殺す! 抵抗する奴も殺す!」


 そこで兵隊は大きく息を吸う。


「さらに! 抵抗する奴の近くにいた奴も無作為に殺す! 分かったか! 奴隷ども!」


 そう宣言した兵隊は持っていた剣を振り上げる。その兵隊が見ている先、それは志緒里だ。


「え?」


 死ぬの? わたし?


 そんな志緒里の内心など知らぬとばかりに、兵士は剣を振り下ろす。そうして切り落とされた志緒里の首は、コロコロと砂浜を転がった。



 それは衝撃的な光景だった。抵抗すると、近くにいるものもまとめて殺される。こんな理不尽な状況に恐怖した日本人たちは、自分が死にたくない一心に、お互いにお互いを監視し合う。

 そうして奴隷たちは、これ以後、一切の抵抗を示さないようになる。





以前、この話のあとがきに、「あんまり受けが良くないようなら、削除する予定。」と書いていたんですが……削除するとシステムに負荷がかかるみたいでして、このまま掲載しておきます。

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