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反乱地帯




皇国歴1021年3月23日

第11帝国 キリアナス植民地 バクー村

キリアナス植民地軍 第307師団 第551歩兵連隊

第4歩兵大隊 第2歩兵中隊 第5小銃小隊




 草むらに身を隠して、村を見る。

 周囲では、第5小銃小隊の全員が身を隠しているのが気配で察知できる。

村は一見、どこにでもあるようなごく普通の農村のように見える。だが、俺たちは反乱軍の負傷兵を追って、この地へとやってきた。負傷兵たちがこの村に入り、村人たちがその負傷兵を迎え入れるさま。

その様子を俺たちは目撃した。この村の連中が反乱軍を手引きしていることについて、疑いの余地はない。


と、彼が思考していると、ヒュンヒュンと言う風切り音が頭上から聞こえてくる。風切り音は村へと到着すると、爆発。火炎と土煙、それに無数の金属片を撒き散らす。村にいくつか建てられていた粗末な木造家屋は、瞬時のうちに倒壊するか、さもなければ炎に包まれる。

それが、迫撃砲小隊による、準備砲撃であることは明らかだ。


ドドドドドドドドドドドド!


 二十発ほどの迫撃砲弾が連続して村で爆発。破壊と殺戮の限りを尽くす一方で、腹に応える重低音が聞こえてくる。

機関銃小隊が、迫撃砲小隊に負けてはいられないとばかりに、村へと向かって連続射撃を開始したのだ。

第5小銃小隊の軽機関銃分隊も同時に発砲を開始。村への掃射を行う。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」


「ひっ!」


「いやああああああああああああああ!」


「ぐげっ!」


村からは反逆者たちの断末魔の悲鳴が聞こえてくる。ある者は機銃掃射をあびて左腕を吹き飛ばされ、ある者は倒れてきた家屋の下敷きになってペチャンコ。またある者は、迫撃砲弾の直撃でバラバラの肉片へと変貌する。

いい気味だ!

帝国に逆らう愚か者どもめ!


「殺せっ! 殺せっ! 皆殺しにしろっ!」


 命令というには、余りにも大雑把な命令。だが、既に準備砲撃は終了。機関銃部隊も射撃を中断している。中隊長の意図するところは明らかだ。


「第5小隊! 総員前進!」


 自分の小隊に命令を出す。


「おおおおおおお!!」


 掛け声とともに一斉に飛び出す小隊員たち。

 俺は命令と同時に、自分自身の足を動かし、草むらから飛び出す。


 と、炎に包まれた村の中から、右腕を失いフラフラとした女が姿を現す。


俺は自分の握る小銃の引き金を引く。乾いた発砲音。他に人影は見当たらないのに、似たような発砲音がそこら中から聞こえる。どうやら、何人かが一斉にその女を狙ったようだ。

命中。命中。命中。

反逆者の女の脳天に穴が開き、胴体にも赤い花が二つ。女は地に倒れる。


「キャシー!!」


 物陰から飛び出してきた男が一人、倒れた女に向かって駆け寄る。男はあれだけの準備攻撃にもかかわらず、ほとんど無傷のようだ。余程運が良かったらしい。

 だが、それもこれまで。

次弾装填。

引金を引いて、新たな銃弾を男に叩き込む。


「ぎゃ!」


 銃弾は男の胸部中央に命中。短い悲鳴を残して、そいつは絶命する。


「次」


次の獲物を探して周囲を見回す。


 いた。

 建物の陰に隠れて一人の男-たぶん10歳ぐらい-が震えながらこちらを見ている。素早く次弾を装填すると、その少年の頭部に向けて発射。


「ひぎゃ!」


 外れた。男は物陰から飛び出すと全力で村の外れ、森の中へと飛び出していく。跳弾か何かが少年に当たったらしい。少年の足からは出血し、若干ふらついていた。


「反逆者だ! あそこにいるぞ!」


 少年を見つけた兵隊が、その人影を指さして叫ぶ。


 パアン! パアン!

 その声に釣られて、少年を見つけた何人かの兵士が発砲。

 命中。少年は頭部から血をまき散らしながら倒れ伏す。


「チッ!」


 俺が先に見付けたのに。先を越された苛立ちに、思わず舌打ちする。


他に敵はいないかと、辺りを見渡す。


すると、視界の中に、銃剣を片手に少女と相対しているターナー上等兵の姿が目に入る。少女は既に負傷しているらしく、右腕から先が無い。ターナーは一瞬で間合いを詰めて、少女の腹部へと銃剣を突き刺す。


「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 少女が絶叫を上げる。何が面白いのか? ナイフを突き刺したターナーはニヤニヤ笑いながら、ぐりぐりとナイフを回転させる。


「あぎゃ!!」


「ふへへへへへへへへへへへへ」


「ひぐう!」


そうして、ナイフが腹の中で回転するたびに少女の身体は痙攣し、無様な悲鳴を上げる。


こいつは何をやっているんだ?


「ターナー上等兵!」


 俺はそうターナーに声を掛けると、二人へと接近。狼狽するターナーを無視して、素早く銃剣を少女の頸動脈へと叩き込む。


「さっさと殺せ! 遊びは後だ!」


 一瞬、呆気にとられたターナーは次の瞬間には気を付けの姿勢を取る。


「はっ!」


 敬礼と共に、ターナーは掃討戦へもどる。

 よろしい。

帝国軍人(厳密には、俺たちは植民地軍だが)たるもの、任務の達成を優先する。これが正しい姿だ。


さて。

まだ殺していない反逆者はいるのだろうか?


 いた。

 両足を切断された老人が、両腕で必死に地面をかきながら、ほうほうの体で村から逃げ出そうとしている。


「反逆者めが!」


 銃を構えると、発砲。

 命中。老人は力なく倒れる。俺は老人の死亡を確認するため近づいて行く。


 うむ。

頸動脈を抑えると、脈が無いことが分かる。

間違いなく死んでいるな。


次の獲物を探して、周りを見渡す。

だが、残念なことに。友軍部隊は残敵を掃討し終えたようだ。全く敵の姿が無い。近くの藪の中や物陰などを捜索していた部隊も、敵を発見できなかったのか村に集結しつつある。


「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「やめてええええええええええええええええええええええええ!!」


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 と、女の悲鳴。何人かの若い女が生き残っている。だが、そいつらは既に服を脱がされて完全に武装解除された状態にあって、兵士たちと交尾中だ。

幸いにも、そんな阿保なことをやっているのは、俺の小隊員ではなかった。あの連中の小隊長は何をしているんだ? 命令は反逆者の殲滅なのに! もしあれが俺の部下ならば、鉄拳制裁をくらわしているところだ。

 遊んでないで、さっさと殺せ! それが命令だろうが!


 だが、自分の部下でもない兵隊にあれこれ命令すると、余計な軋轢を生む。それは、軍の指揮系統に不和を招き、結果として反逆者共をのさばらせる結果になりかねない。従って、重大な軍規違反でもないのに、直接の上官を飛び越えて命令を出すような真似は出来ない。


「チ!」


 面白くない。

 もう一度周囲を見渡すがやはり敵影は見えない。

 もう敵はいないのか? いっそのこと、階級を傘にあの女達を兵隊たちから奪って、銃弾を叩き込むか?

 いや。それは出来ない。彼らは俺の部下でも無い。

それに、そんなことをしては、兵士たちの士気にかかわる。前線の兵隊は娯楽に飢えているのだ。少しぐらい女で遊んでいるからと言って,目こぼししておくべきだろう。彼らから娯楽を奪うべきではない。


 それにどの道、あの女たちにしても最後には殺されるのだ。

 俺が殺してやれないのが残念でならないが。



「第5小銃小隊! 総員整列!」


 号令をかける。気分転換に周辺索敵でもやろう。これで反逆者を見つけられれば良し。見つけられなくても、少なくとも気は紛れる。




 中隊長は、周辺索敵に関する俺の要望を直ぐに受け入れた。

 幸いと言うべきか何と言うべきか、周辺警戒を担当していた小隊までもが村に入り、捕虜にした若い女達で遊び始めたからだ。


 このような状況下にあって、自ら進んで索敵任務に志願する小隊がいることは、中隊長にとって行幸だったのだ。


「弛んでる! これが栄えある帝国軍のすることか!?」


「少尉殿。我々は植民地軍です。帝国軍とは指揮系統が異なります」


発言主をじろりと見やる。その顔に浮かんだ表情は、少し迷惑そうだ。

俺は他の小隊員の表情を盗み見る。半分ほどはその瞳をギラつかせている。だが、ダルそうな物や、やる気の無さそうな者もちらほら。


「チッ!」


府抜けどもめ!

だが一方で、それもそうか、とも思う。

何と言っても、他の小隊が村で休息する中、自分たちだけ小隊長の所為で周辺警戒をやる羽目になったのだから。


「その通りだ。マルトヒ軍曹」








「少尉殿!」


 その報告は、斥候により突然もたらされた。無論、戦場における報告の幾割かは突然やってくるものではある。だが、それは戦場の不確実性を差し引いても奇妙な報告だった。


「この先の洞窟のようになっているところで、少女を発見いたしました」


 少女?

 キリアナス植民地は、全域で反乱が発生しており危険だ。反乱が発生してから既に四半世紀が経過しているにもかかわらず、収束の兆しは一向に見えていない。従って、ほとんどの入植者たちは既にこの植民地を放棄しており、一般人はほとんど存在しない。よって、ここに一般人の少女など存在しない。となると、反逆者共の協力者か?


 女どもときたら、次から次へと反逆者の子供を産んでいくせいで、一向に反乱軍の戦闘員は減少することが無い。それどころか、最近では増加しつつあるとする調査報告書すら存在する。全く、忌々しい反逆者め!


 だが、少女を反逆者の一味と考えるのは不自然だ、

 なぜ、斥候はそんな報告を上げた? そんなもの、ワザワザ報告しなくても、その場で殺してしまえばいい。

ということはつまり、


「その少女の格好は? 明らかに、反逆者共とは異なる風貌をしていたということなのか?」


「は! その通りであります少尉殿! 少女の服装は、明らかに上流階級の物でした! 反逆者共が身に着けているボロキレではありません!」


「ふうむ」


 何かの欺瞞か?

 だが何の?

 欺瞞と言うことにして殺してしまうのは簡単だが、万一そうでなかったら? 俺はたたき上げの少尉に過ぎない。上流階級出身者の不興を買うのは、余りにも危険だ。


「マルトヒ軍曹。どう思う?」


「情報が不足しております。実際に見てみないことには、何とも……」


「そうだな……やむをえん。直接確認する。第二分隊ついてこい! ハルトマン軍曹! 小隊の指揮を執れ!」


「は! ハルトマン軍曹、小隊の指揮を執ります!」






その洞窟にはすぐに着いた、ものの1分ほど。

 俺が洞窟の中をのぞくと、かなり浅い。奥行3メートルほど。洞窟と言うよりもむしろ、崖に出来た横穴のようだ。


 そうして、その中にいたのは、確かに女の子。眠っている。十代中ほどだろうか? 黒い髪をボブカット風にしているようだ。濃紺色のブレザーに、キチンと折り目の付いたプリーツスカート。奇妙なことに、少女の服装には汚れや皺がついていない。ここは森の中であるというのにだ。一体、どうやってこんなところまで来たのだろう?

そんな少女が着ているブレザーの左胸部分には、紋章が付いている。それは片足の黒いドラゴンが紅い剣に巻き付いているというもの。なんだ? どこかで見たことがあるような紋章だ。だがどこで?


 いかんな。これでは埒が明かない。

 軽く深呼吸して意識を切り替える。


 少女の指先を見る。その細い指には、皺もあかぎれもない。反逆者の一味だとすると変だ。こんな綺麗な指をしているのは、ふだん力仕事も水仕事もしない上流階級の令嬢ぐらいのものだろう。


 だが、この髪色と肌色、それに顔立ちは変だ。

 上流階級出身者はほとんど金髪か銀髪だ。黒髪の者など聞いたことが無い。

黒髪と言うのは、反逆者をはじめとした原住人に多く見られるものだ。ただし、反逆者たちの黒髪はちじれている。一方で、少女の髪はさらりと流れている。普通の反逆者とは髪質が異なっている。

それに問題なのは、その肌の色だ。原住民のほとんどは肌が真っ黒である。だが、この少女のそれは透き通るような淡い橙色。明らかに、原住民とは異なっている。


 総合すると、髪が黒色であること以外の情報が、この少女は原住民ではないということを伝えている。


「マルトヒ軍曹。どう思う?」


 先ほどと同じ問。


「不明としか言いようがありません。一旦我々で保護し、後ほど司令部に照会を掛けるしかないでしょう」


「そうだろうな」


 これは明らかに込み入った案件だ。前線の一小隊長には、判断のしようがない。



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