地上戦
聖光暦1855年4月2日
オガサワラショトウ沿岸部
新領土鎮定軍 カリバラス歩兵団 第5大隊
「中隊長。また怪鳥です。今度は三匹。今までの奴とはちょっと様子が違います。編隊を組んで低空を飛行しています」
大体が中隊ごとに分散して休息をとっている中、周辺警戒の任務に当たっていた少年兵がそのような報告を上げる。
「そんなこと一々報告するな。鳥がなんだっていうんだ? 何もしてこないだろう?」
中隊長と呼ばれた大男がそう言ってあしらう。
「それはそうですが……。もっとよく見て下さい。今までのとは毛色が違いますよ。濃緑色です。それに形状も結構違っています」
「だから、そんなことはどうでも良いだろう。単に別種の鳥なんだろうよ」
「中隊長! そんな顔しないでやる気を出してください! これがカリバラス歩兵団の初陣なんですよ!! ビシッと戦果を挙げて王国全土に名前を広げないと!!」
「戦果なんてあげる必要はないだろ。っていうか、お前。人の話を聞いてなかったのか?
二ホンには軍が存在しないから、今回の遠征は戦い何て起こんないんだって。そう説明し
ただろ?」
そんな中隊長の台詞に、
「え? あれ? え~と、そんなことも言っていてような。そういえば」
少年兵はしどろもどろになる。
「言っていたようなじゃねえっ! お前! 聞けよ! 人の話を!」
そんな様子の兵士に中隊長が怒鳴り声を上げる。
「キースの奴また怒られてやんの!」
「ヒャハハハハハ!」
「こいつ全然聞かないんですぜ! 俺たちの話を!」
「おやかたー。親方からもこいつにビシッと言ってやって下せえ!」
そう言って、キースと呼ばれた少年兵を次々とはやし立てる兵士たち。
「お・ま・え・ら・も・だー!! 親方じゃねえ!! 中隊長と呼べ!!」
そんな兵士たちを見て、親方と呼ばれた大男が額に青筋を浮かべながら一喝する。
「わははははは!!」
「親方が怒ったぞー」
「へへへへへへへ!!」
「わははははは! 怒られてやんの!」
「うっせー!! お前らも一緒だろうが! 怒られてんのは!」
「わははははは!」
「お! ま! え! ら! 聞けよ! 人の話を!」
と、作戦行動中とは思えないほどに和気あいあいとした雰囲気。それもそうである。彼らはここまで何の障害にも直面していない。軍隊のない島から奴隷をひっとらえて、めぼしい財宝を略奪するだけ。簡単な仕事だ。
「って、親方! あの怪鳥、中に人が乗ってやがるっすよー!!」
そんな中、兵士の一人が驚きの声を上げる。その声に釣られて、他の兵士たちもまた怪鳥へと視線を向け、次々と驚きの声を上げる。
「なに?!」
「マジだ!!」
「人が乗ってやがる!!」
「どこのモンだ?」
「どうやって手なずけたんだ?」
「こんど俺たちも乗せて貰おうぜ!!」
兵士の一人がそんな提案をする。
「おお!!」
「そりゃ名案だ!!」
その提案に周りの兵士たちもまた乗り気になる。
「無理だろ! お前ら!! 常識で考えろよ! あんなのに乗れるのは貴族様だけさ」
だが、兵士の一人が冷静な突っ込みを入れる。
「やれやれ。夢の無い奴だな」
「そうだぞ。そんなんだから禿げるんだぞ」
「な?! ハゲは関係ないだろ!!」
ハゲと呼ばれた兵士が顔を真っ赤にして怒鳴りる。だが、そんな様子を見た周りの兵士たちはますますはやし立てる。
「タコになってやがる!」
「やーい! 墨を吐くぞ!」
「わはははははははは!」
と、大笑いしている兵士たちに、
「静かにしやがれ!! お前ら!!」
中隊長が冷や水を浴びせる。
「味方じゃないぞ! ありゃ!」
「え!!」
「じゃあ! 敵か!?」
「おお!! そうに違いねえ!!」
「合戦だ!! 武器を取れ!! 手前ら!!」
「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
兵士たちは休息の為、海岸線に放置していた甲冑や武器をとり戦の準備を始める。
だが、兵士たちのその行動はほとんど無意味だった。UH-60のドアガンが猛然と火を噴き、多数の閃光を発射。光弾は凄まじい猛速で兵士たちへと迫る。そうして、光弾の列が兵士たちを通り過ぎるたび、その後には地獄絵図が広がる。
ある兵士は腕を吹き飛ばされる。またある者は腹部を銃弾が貫通。内臓を周囲にまきちらしながら、助けを求めて呻き声を上げる。その一方、その横にいた兵士は幸いだった。彼の頭部には5.56mm弾が直撃。痛みを感じる間もなく、瞬時に絶命したのだから。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「いだいyp!! だれかぁ!!」
「ぎゃ!!」
「ブレス攻撃だ! 総員散開! 固まるんじゃねぇ!! 狙い撃ちされギャ!」
部隊の惨状を見て取った中隊長は退避命令を出そうとするが、銃弾が頭部に直撃。脳漿を周囲にぶちまける。
「おやかたああ!!」
「うわああああああああああ!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!」
指揮官を失い、恐慌状態に陥る兵士たちがバラバラに逃げ出す。だが、彼らが遮蔽物の陰に隠れるよりも、味方が倒れる速度の方が早い。
「にげろ!! にげろー!」
「gゲッ!」
次々と兵士たちが地に倒れて行く中、大雑把に地上の兵隊を排除したUH-60からはロープが下される。それを伝い次々と緑色の迷彩服を着た自衛官が降下。混乱し衝撃から立ち直っていないカリバラス歩兵団の残存兵を掃討していく。
「いあや! いあや! しにだぐ……」
頭を抱えて蹲る兵士の頭を銃弾が破裂させ、脳漿を撒き散らす。
「ぎぎぎぎ!!」
ある兵士長の腹部には銃弾が貫通。腸がこぼれ出る。
こうして、海岸部に陣を張っていたカリバラス歩兵団 第5大隊は、戦闘力を喪失した。彼らには衝撃から立ち直る暇もなかった。
海岸には死体と、捕虜になった歩兵団の生き残りと、自衛官が残された。