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SS 懲罰戦争5 無条件降伏



 第22航空師団の任務は終わった。

 彼らは、神聖森林王国の沿岸諸都市に、合計53発(航空師団は合計54発の核爆弾を搭載していた。しかしながら、投弾装置の不調により、投下できなかった核爆弾が一発)もの戦術核爆弾を投下。多数の都市が瓦礫へと姿を変え、犠牲者数は概算で100万人。


 一方、第2帝国側の損害はゼロ。

 《払暁1号》作戦は、第2帝国側の完全無欠なワンサイドゲームに終わった。





~~~~    ~~~~






「なんだ!? 何なのだこれは!?」


 場所は神聖森林王国の王都、王城。その謁見の間だ。

 大臣達や、王都在住の貴族たちが居並ぶ中、玉座から腰を浮かせた国王が絶叫を上げる。


「内務卿! どうなっているのだ!? 都市が滅んだというのかっ!? それも!! 五十以上もっ!?」


 指名された内務卿は一瞬、憤激する国王にたじろぎながらも、一歩前に出て返答する。


「はい、国王陛下。その通りであります」


 その返答を聞いた国王は、手にした被害報告書を乱暴に丸めて、内務卿へと放り投げる。


「この痴れ者めがっ! 高貴なるエルフが殺されたのだぞ! 下等種族風情にっ! 百万もっ!! これを見ろ!!」


 そう言って国王は一枚の紙を乱暴に手に取り、内務卿へと放り投げる。

 それは、第22航空師団が核爆撃と同時に大量に投下したビラの一枚だ。


『即時無条件降伏をしなければ、王国はその歴史に幕を閉じることになるであろう』


 端的に、そこにはそう書かれていた。


「下等種族が舐めた口をききおって!! 報復だ!! 蛮族共に鉄槌をくらわせろっ! 王国軍の総力を挙げるのだ!!」


 その勅令を国王が発した瞬間、場が凍る。


 戦争? 正気か? 龍だぞ? 龍! 数十匹単位と言えば、ワイバーンでも対処不能な数のに……龍種を兵器化しているような奴等とどうやって戦えというんだ?


 そんな居並ぶ諸侯たちの気持ちを代弁すべく、軍務卿が進み出る。 


「国王陛下。はっきり申し上げて……戦争など不可能でございます」


「何だと!? 貴様!! 怖気づいたのかっ!?」


 激怒する国王。


「そうではありません。単純に勝ち目が全くないと申し上げているのです」


「ふざけるなっ! 売国奴めが!! 貴様を大臣に取り立ててやった恩を忘れたのか?!神聖なるエルフが戦に敗れる訳がなかろう!! 我らは神に祝福された高等種族なのだぞっ!!」


「……陛下」


 軍務卿は疲れた顔で諌めようとする。だが、国王はそれを許さなかった。


「衛兵!! この反逆者を捕えよ!!」


「!」


 だが、衛兵は躊躇する。当たり前だ。ここで反戦派を捕えてしまっては、戦争へと向かう。


それでどうなる? 龍! それも天龍クラスを相手にどうやって戦争しろというのか! 勝ち目が無いことくらい赤子にだってわかる。


 そうして、行動をためらう衛兵たちを見て国王はますます憤慨する。


「貴様ら!! どいつもこいつも怖気つきおって!! それでもっ!?」


 国王は最後までその台詞を続けられなかった。

 軍務卿が剣を抜き、その首をはね飛ばしたからだ。


「!?」


「陛下っ!?」


「軍務卿!!」


「いったいなにを!」


 謁見の間は騒然となる。


「おのおの方! 静かになされよ!」


 内務卿が声を張り上げると、一瞬のうちに静寂が戻る。


「王太子殿下。国王陛下は民草の被害に心を痛め、心労の余りこの世を去った。これでよろしいですね?」


 内務卿が王太子へと問う。そんな王太子は怯えた目で、軍務卿がその手に持つ、血の滴る剣を見る。


「むろん! むろんだ! それでよい! そのようにせよ……」


 この返答に居並ぶ諸侯は安堵する。ここで王太子が大逆罪だと返答した場合には、少々問題が起こっていたからだ。ほとんど恫喝のようなやり方なのはいただけないが……彼ら自身、自分の命がかかっているので誰も何も言わなかった。

 そんな諸侯の心の内を知ってか知らずか、王太子は内務卿へと問い返す。


「だが……第2帝国はどうする? 何か手はないのか?」


「残念ながら……ことに至っては……最早選択の余地はございませぬ」





~~~~    ~~~~




皇国歴1021年4月4日 午後8時00分

神聖森林王国 王都アリアーゼ 沖合15km

第2帝国 極東軍 第2艦隊

旗艦 揚陸指揮艦〈エゼキエル〉 戦闘指揮所



 戦闘指揮所へと入室した若い中佐は、一瞬辺りを見渡し、目的の人物を見つけるとそちらへと歩み寄る。


「提督」


 振り向いた提督へと中佐は報告する。


「王城の制圧任務に当たっていた、空中機動強襲第3連隊A中隊より報告が入りました。敵は無条件降伏に同意したとのことです」


 その報告に提督は頬を綻ばせる。


「朗報だな! クルス准将は何と言っている? 敵は完全に無抵抗か?」


「はい、そのようです。現在のところ、揚陸部隊への抵抗は一切確認されておりません。連中、大人しいものです」


「ふむ。核爆弾を50発も撃ちこんだ甲斐があったというものだな」


 中佐が相槌をうつ。


「はい。ゲリラ戦など起こされても後が面倒ですからね」


 だが、喜ばしいことだというのに、提督は少しばかり表情を曇らせる。


「しかし……降伏か……実のところ……一つ問題がある」


 提督は何やら悩んでいるようだ。


「?」


 戦争は終わったのに、まだ何かあっただろうか?

 中佐の表情に困惑の色が浮かぶ。


「何でしょうか? 自分で対応可能なモノなら処理しておきますが?」


「いや……しかし……うむ。……そうだな。そうしてくれ、中佐」


 提督は逡巡しつつも中佐へと任せることにする。


「それで、何をすればいいんでしょう?」


 中佐が質問する。


「……うむ、そんなに難しいことではない。ただちょっと……儂のかわりに降伏文書の調印式に出席してくれるだけで良い」


 そんな提督の答に中佐は、


「はい?」


動きを止める。


「うむ。良い返事だ。では、後のことは頼んだぞ! 中佐!」


 そう言って、そそくさと戦闘指揮所から退出していく提督。


「へ? おかしいよね? これ?」


 茫然として中佐が手近なところにいた同僚、第2艦隊の情報参謀へと問いかける。


「諦めろ」


 そう言って中佐の肩を軽くたたいた情報参謀は、席を立つ。巻き添えになりたくないからだ。


「いや! 冗談だよね!? 提督流のジョークだよね!? こんなの!」


 中佐は思わず声を張り上げるが、誰もが気の毒そうな表情をしながらも、視線を合わせないようにする。

 それも当然のことである。

 中佐が報告した提督。作戦指揮能力よりも、立派な顎鬚で有名になっているその提督は、第2艦隊の司令官である。


 本来なら、神聖森林王国が無条件降伏に応じた場合、第2帝国側の全権代表として提督が降伏文書に調印することになっていたのだ。


 それなのに……提督のかわりに一介の中佐が代理で調印?


「おかしいだろ……こんなの……」


 そんな中佐の呟きを、その場にいた誰もが礼儀正しく無視した。




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