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SS 懲罰戦争2 キルデビルの戦い




皇国歴1021年4月2日 午前11時10分

神聖森林王国 王都アリアーゼ 沖合3km

第2帝国 防空巡洋艦〈悪魔殺し(キルデビル)



「通信長。艦隊司令部に外交団が襲撃されていると報告しろ」


 戦闘指揮所に入った艦長はそう命令を出す。


「既に報告済みです。本国からは、偶発的な事故の可能性もあるため、しばらくは様子を見るようにとのことですが……」


 それは妥当な判断だな、と艦長は考えた。


 文化や風習が違うと、日常的に行っている何気ない行動がとんでもない侮辱的な行動に見られたりする。前世界でも、しばしばそれが原因で偶発的な戦闘が発生している。


 艦長はそう冷静に思考を進める。

 だが、


「搭載艇4号より報告! 『敵は沿岸砲台よりこちらを砲撃する意図の模様。支援砲撃を要請する』とのことです」


 通信士がそう報告するのを聞いて、艦長は絶句する。

 普通に考えて、単なる偶発戦であるならば、一旦事故が起こったとしても、上の人間が一旦仲裁に入るはずだ。それなのに、現場の担当者のみならず、沿岸砲台まで動き出すということは、つまり……。


「……単なる事故ではなさそうですね。沿岸砲台まで動くとなると」


 そんな砲雷長の呟きを無視して、艦長は命令を発する。


「主砲、撃ち方よーい。目標は敵沿岸砲」


 微かな駆動音が艦首方面より聞こえる。艦載砲が旋回しているのだ。


「測距及び測位よし。誘導砲弾への緒元入力よろし」


 訓練通りの手順により、砲手が報告する。

 それを受け、艦長は命令を発する。


「撃ち方はじめ」


「うちーかた、はじめ」


 砲手の復唱と同時。

5in(127mm)砲の発射音が連続して響く。〈悪魔殺し〉を含む、〈熾天使〉級防空巡洋艦が搭載するのは1年式5in砲。従来の83年式5in砲が速射性能を重視しすぎて機械的信頼性が低下していたため、発射速度を抑えて動作不良を抑えているのが特徴の最新式艦載砲だ。

 その独特の重音と共に、5秒間隔で撃ちだされる砲弾。それらは全天球測位衛星からの信号を元に自身の位置を割り出しながら、目標―沿岸砲台―へと進んで行く。


「命中。敵沿岸砲1番を無力化。続いて2番に命中、3番は外した。……4番命中」


 報告が続く。


「艦橋より報告。敵沿岸砲に発射煙! 搭載艇を狙っています!」


 報告が届く。


「被害状況は?」


「敵砲の命中精度は劣悪です。今のところ被害はありません」


 戦闘指揮所内に設置された液晶画面の一つに、外部カメラがとらえた搭載艇の様子が表示される。

 搭載艇は最大速力を出しているのだろう。波飛沫を上げながら海上を疾走する。時折、その周囲に水柱が上がるものの、その位置は搭載艇からはかなり離れている。敵砲が、搭載艇の高速と回避運動に対応できていないのは明白だ。


「報告! 船影あり。約十隻。単縦陣を組んでこちらに接近しつつある。距離2700。方位240、敵速10」


レーダー手がそう報告する。


「バカモン! ちゃんと見張っていたのか!」


 砲雷長が叱責するが、


「無理です。船団は島影から出てきました!」


レーダー手は抗弁する。


 そんなやり取りを余所に、艦長は自問する。


 敵だろうか?


 この艦は神聖森林王国で使用されている帆船よりも遥かに巨大で、しかも帆がない。このため、この位置に停泊している間、物珍しげに近くを通り過ぎる船は結構な数に上った。あいてが単縦陣を組んでいるとはいっても、商船団もまた似たような隊形で航海していることが時々あった。そのことを考えれば、もしかしたら民間船かもしれない。


 だが、艦長は頭を振ると、そんな疑念を振り払う。


 戦闘中の船に不用意に近付く民間船が、一体どこの世界にいるというのか? あれは戦闘艦に違いない。もし仮に民間船だったとしても、そんなことは知ったことではない!


「対水上戦闘よーい! 主砲標準はこのまま! 敵艦隊には対艦誘導弾を使え」





~~~~    ~~~~





「提督! 沿岸砲台がっ!」


 海佐の報告を聞くまでもない。提督の眼前では、沿岸砲陣地が敵の砲撃を受けて次々と沈黙していく。


「何と言う命中精度だ!」


 提督の見るところ、敵砲は百発百中。揺れる艦船からの砲撃は、接近したところでほとんど命中しないというのが常識だ。にもかかわらず、敵砲は遥か彼方、3000mもの遠距離から砲撃し、これを全弾命中させている。


「外交部の間抜けどもめっ! あんな強国に喧嘩を売る奴があるかっ!」


 幕僚の一人が外交部を罵倒する。それは見逃せない。


「海尉! 減らず口を叩くな!」


 一瞬面食らった幕僚は直立不動の姿勢を取る。


「は! 失礼しました!」


「大変よろしい。任務に戻れ」


「はっ!」


 幕僚が自分の仕事に戻るのを見て取った提督は、思案する。提督は立場上、幕僚を叱責したものの、その発言には全く同感だった。


 あの船は何だ? こちらの戦列艦よりも二倍以上巨大な船を造る? それも、鉄で? あり得んだろうに……。何が野蛮なヒト族だというのか? どう見ても、第2帝国を名乗る国家が神聖森林王国を凌駕する強国なのは明白だったし、現に強大だ。


 提督は悄然としながらも、沿岸砲台へと再び目を向ける。そこでは、難攻不落を誇った王都沿岸砲台、そこに整然と並べられた24kg砲群が、なす術もなく破壊されていた。


 外交部め! 何処をどうすれば、あんな連中に喧嘩を売ろうなどと思うんだ? しかも、ことを始める前に連絡も寄越さないとは! 演習中にいきなり呼びつけられても、こちらにも準備というものがあるのに! 連中は何もわかっていない! 戦列艦は魔法の壺からホイホイ出てくるものでもないんだぞ!



「あれは!? 何か飛んでいます!!」


 幕僚の報告に現実へと意識を戻した提督は、慌てて前方。敵艦へと視線を向ける。


 敵艦が側面から煙を吹き出し、“光る何か”を打ち出していた。その“光る何か”は、灰色の煙を吹きながら急激に加速。進路を変えると、こちらへと急速接近していた。


「あれは!? まさか! 誘導魔法槍か!?」


 提督は絶句する。


 誘導魔法槍は、王国魔導院で以前から研究が進められている次世代兵器だ。しかしながら、誘導に関する技術的な障害が大きく、開発開始から10年以上経過した現在でも、まったく実用化できていない。実戦配備が開始されるのは、早くても20年後と言われている。そんな未来の兵器だ。


 ありえん! 誘導魔法槍まで実用化しているとは!?


 そんな内心の狼狽を余所に、提督は命令を発する。


「対空戦闘! 撃ち落とせ!」


 だが、その命令は余りにも遅すぎた。


 防空巡洋艦が放った4発の対艦ミサイルは、そのすべてが着弾。その内の一発が旗艦を直撃。その木造の船体を、乗組員ごと木っ端微塵に吹き飛ばした。





~~~~    ~~~~





「敵艦隊、左舷回頭。撤退していきます」


 その朗報に艦長は安堵した。

現在彼の艦は、一門しかない主砲を沿岸砲台に向けているのだ。敵砲の命中精度がいくら悪いとは言っても、無力な艦載艇を援護射撃も無しに、敵の射程内に放置しておくわけにはいかない。

 このため、彼の艦は対艦ミサイルのみで敵艦隊に相対していたのだが……。生憎と、彼の艦が搭載する対艦ミサイルは全部で4発。定数一杯を搭載すれば8発まで搭載できるのだが、定数限界まで弾薬を搭載することはまれだし、そもそも、今回の派遣は急きょ決定したもののため、演習で使用したミサイルを補給しないままだったのだ。


 彼の艦は既に対艦ミサイルを打ち尽くしていた。このため、もしも、敵艦隊が損害に構わず突っ込んできていた場合には、主砲で対応する羽目になっていた。


―もっとも、


艦長は考える。


―相手が木造船だったことを考えれば、対舟艇用の25mm機関砲でも十分だったかもしれないな……。



「搭載艇2隻、距離500」


「敵沿岸砲台、砲撃を中止」


 部下からの報告に、艦長は意識を現実へと向ける。

 艦長が外部カメラの映像を見ると、敵砲台には依然として健在な大砲がある。それにも関わらず砲撃を中断したということは……。


「どうやら、敵砲台の有効射程外に出たようだな」


 この艦長の呟きに、砲雷長が軽口で応じる。


「射程外といっても、最初からずっと遠弾ばかりでしたけどね」


「はははは。確かに」


 乗組員たちの間に、微かな笑い声が漏れる。


「艦橋に減速するように伝えよ。搭載艇を収容する」


「はっ!」


 艦橋で操艦指揮をとっている副長に命令が伝達され、艦が減速する。

 それから五分もしない内に、搭載艇の収容が完了したとの報告が、戦闘指揮所に入る。


 だが、


「艦長! 艦橋より報告。これをご覧ください」


 そう言って、慌てた様子の乗組員が液晶画面の表示を操作。外部カメラが首を振り、先程外交団が襲撃された地点を映し出す。


「ばかな……」


「なんてことをっ!」


 液晶画面が表示する光景。それは、巨大な杭に串刺しにされた外交団の面々が、城門上に掲げられている姿だった。


「ありえん」


 艦長は言葉を失う。

そう。それはあり得ない光景だった。いくら外交関係が無いとはいえ、一国の外交官をいきなり殺害し、その死体をこともあろうに串刺しにして展示する? おおよそ彼らにとって、前世界の常識では考えられない事態だった。


「艦長! 報復しましょう! 我々だけでも王都を破壊できます!」


 憤激した砲雷長がそう提案する。


 確かに、彼の艦には核弾頭搭載の対地巡航弾が5発搭載されている。航空偵察の結果推測されるこの王都の人口は、100万人ほど。その都市圏はそれなりに広い。

 だが、戦術核が5発もあれば、この程度の都市を灰燼に帰すことは余りにも容易だ。

 しかしながら、艦長は首を振る。


「駄目だ。司令部に指示を請う」


「しかし!」


 砲雷長は尚も言い募ろうとするが、それをあえて無視。艦橋へと命令を伝える。


「艦長より艦橋」


「はい、こちら艦橋」


 艦橋からすぐに応答がある。


「副長。進路270、巡速。一旦沖合に出る」


「了解。巡航速力で進路270。沖に出ます」


 幸いにも、副長はこの命令に何も言ってこなかった。

 さて……他にもやることがある。


「砲雷長、ここの指揮を任せる」


「は! 戦闘指揮所の指揮をいただきます!」


 砲雷長の復唱を背に戦闘指揮所を出る。

 今回の事件について、通信長が既に簡易的な速報を上げている。だが、艦長として、司令部に報告書を上げない訳にはいかない。


 まずは、外交団の生き残りから話を聞かないといけないな。


 そう考えた艦長は、外交団を収容してある医務室へと向かう。


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