SS 懲罰戦争1 終焉への道
皇国歴1021年4月2日 午前11時00分
神聖森林王国 王都アリアーゼ 沖合3km
第2帝国 防空巡洋艦〈キルデビル〉
日本が異世界に飛ばされたのと時を同じくして、第2帝国もまた異世界に飛ばされていた。第2帝国が飛ばされたのは、日本から見て惑星の反対側。
日本と違い、第2帝国は多くの資源を自給できる。このうえに、宗主国や植民地、同盟国群と共に異世界へと移転していたため、早急に資源等の確保に取り組む必要はなかった。
しかしながら、勿論、経済その他の理由から、周辺諸国群とまったく交流を持たないという訳にはいかなかった。このため、第2帝国政府は周辺諸国へと使節団を送っていた。
だが、それらの外交官のほとんどは大した成果を上げていなかった。これは、当然と言えば当然である。いきなり現れたどこの馬の骨ともわからない国家。それも送ってくる外交官は貴族でもなんでもなく、平民。しかも、図々しいことに、新興国の分際で対等の条件で交渉しようとする、まったく外交儀礼をわきまえていない蛮国。そんな国とどこが交流しようというのか?
そんな訳で成果が上がっていない国の一つ、それが神聖森林王国だ。各国に送った通商外交団から上がってきていた限定的な報告によると、神聖森林王国は世界五大列強国の一つ。
列強国との交渉は非常に重要な任務であり、第2帝国政府は神聖森林王国への外交団のために最新鋭巡洋艦を用意していた。
その巡洋艦の艦橋にて、
「艦長。コーヒーでもいかがですか?」
その呼びかけに釣られて艦長が振り返ると、そこにはコーヒーカップを両手に抱えた航海長が立っていた。
「ああ。もらおう。わざわざ済まないね」
艦長は自分の席から立ち上がると、コーヒーを受け取る。
「礼には及びませんよ、艦長。私も丁度コーヒーが飲みたかっただけですので」
「そうかね?」
そう言って、窓へと近づいた艦長は、王都方面を眺める。
「いつまで押し問答が続くんでしょうね? あれ」
艦長に続いて、窓へと歩み寄った航海長がそう愚痴をこぼす。
彼らが見つめる先。そこには、搭載艇に乗って上陸した後、港湾職員と押し問 答を続ける外交団の姿があった。
無線での報告によると、どうやらこの神聖森林王国という国は、エルフ族はヒト族よりも優れた種族であるというエルフ至上主義に凝り固まっているらしい。
下等種族であるヒト族が神聖なる王都の港湾施設を利用しようなど、無礼であると主張しているらしい。
「さてね?」
航海長の問いに、艦長は投げやりに応じる。
「一旦帰った後に出直すとかになるんじゃないですかね? この分だと」
「あり得る話だ。何せ、何の進展もないからな。先方の外務相に会うどころか、港に上陸する時点で躓くとはな……」
そう答えた艦長は視線を少し動かす。その先にいるのは、第5帝国の外交団。第2帝国と第5帝国は隣国関係にあり、さらにその両国は、まとめて今回の転移現象に巻き込まれていた。
周辺地域への航空偵察の結果、周囲には未知の陸地が多数発見され、それらの陸地には都市などが確認されたため、両国は手当たり次第に外交団を派遣していた。ところが、未知の地域に外交団を派遣するのに、客船では不安が大きい。かといって、周辺情勢が不明なのに、多数の軍艦を外交使節派遣の為に使用してしまうと、国防体勢に穴が開きかねない。
この為、効率優先のために、第2帝国、第5帝国は共同で外交団を派遣する事を決定。それに則り、この防空巡洋艦〈悪魔殺し〉は第2帝国と第5帝国両国の外交団をまとめて輸送する任務を帯びていたわけだが……こちらと同様、第5帝国外交団も成果を上げていなかいようだった。
「それにしても、エルフにドワーフにドラゴン。報告書を見ましたか? 何なんでしょうね? この世界? まるで御伽話ですよ」
航海長が務めて明るい声で、問いかける。任務失敗への不安をあえて誤魔化すようなその質問に、艦長が応じる。
「さてな? そのうち魔王とかが出てくるかもしれんぞ?」
「ははは。とすると、我々はさしずめ勇者ですかね? 魔王退治のために召喚された」
艦長と航海長、その二人の掛け合いに、艦橋内で笑いが巻き起こる。
と、港湾で騒ぎが起こる。
港湾職員に帯同していた騎士風の男達が、突如抜剣。外交団に斬りかかったのだ。
血飛沫が舞い、何人もの外交官が切り伏せられる。
「ばかなっ!?」
絶句する艦長。だが、それも一瞬。すぐに我に返った艦長は命令を下す。
「機関始動! 総員戦闘配置!」
~~~~ ~~~~
「くそっ!」
上陸した外交団の護衛任務に当たっていた大尉が悪態をつく。
位置が悪い。無理にでもついて行くべきだったか。
大尉には、今更考えても栓の無い思考が浮かび上がる。それを強引に頭から追い出した大尉は怒鳴る。
「軍曹! 支援しろ!」
そう命令するやいなや彼は、相手の返事も待たずに桟橋へと跳躍する。
なるべく相手を刺激したくないという大使の意向により、護衛任務の海軍歩兵は全員搭載艇で待機することになっていたのだ。
大尉が外交団へと駆けているあいだに、99年式突撃銃の乾いた発砲音が連続して響き、その度に王国兵が倒れる。
動揺した敵兵がいったん後退し、間隙が出来る。
その間に外交団へと近づいた大尉は、状況を確認する。大使は首が半分取れており、既に絶命していた。他にも事切れている外交官が数人。合計で9名しかいなかった外交団で無傷の者は誰もいない。死んでいない者も、多かれ少なかれ負傷している。
副大使は?
大尉が周囲を見渡すと、右腕を切りつけられ出血している副大使がいた。どうやら致命傷は避けたらしく、その出血量はさほど多くはない。彼は素早く副大使に近づき、肩を貸そうとする。
だが、
「私のは軽傷だ。彼を助けてやってくれ」
そう言って副大使が指さしたのは彼の秘書官だ。秘書官は正面から胴を袈裟切りにされており、その出血量からいって……
「無理です。彼は助かりません。早く脱出を!」
そう、何と言っても時間が無い。外交団を載せた搭載艇に同乗していた海軍歩兵は全部で三人。この内一人は搭載艇を操縦しないといけない為、護衛は実質二人しかいないのだ。
アホウめっ! 二人では少なすぎる!
大尉は護衛計画の立案者に悪態をつく。
と、
「突撃いいぃ!!」
体勢を立て直したらしい王国兵がで迫ってくる。
「くそっ!」
慌てて大尉は突撃銃を構え、横なぎに連射する。
「gぎゃ!」
「いっ!」
「いぎゃああああああああああア!」
「っ!?」
「ひごっ!」
銃弾を浴びた王国兵は次々と無力化される。
だが、海軍歩兵ではフルオート射撃は推奨されていない。弾薬の消耗が激しすぎるからだ。案の定、数秒程度で空になる。
大尉が弾倉を交換する間に、迫ってくる王国兵。素早く弾倉を交換すると、単射に切り替えて発砲。
「ぎゃ!」
眉間に風穴があいた士官風の王国兵が転倒する。
「っ!?」
「アラグノル男爵っ!?」
王国兵の間に広がる狼狽。
「副大使!」
その隙に、大尉は強引に副大使の肩を掴むと、引きずるように搭載艇へと後退する。
搭載艇に帰還するや、大尉は命令を発する。
「だせっ! 撤退する!」
その命令に、操舵主は即座に反応。加速舵を一気に押し倒す。みるみるうちに桟橋が遠ざかっていく。
と、この船とは別のエンジン音。
大尉が視線をそちらに向けると、それは搭載艇3号だ。搭載艇3号には第5帝国の外交団が搭乗し、30m隣に停泊していたのだが……今では5人しか載っていない。
「なんてことだ……」
副大使の茫然とした呟き。
―確かに。
大尉は自嘲する。
―今日は厄日に違いない。
そんな大尉の感想は外れていなかった。
「蛮族を逃がすなあああ! 弓兵隊を呼べええええ! 沿岸砲台にも連絡を取れえええ!」
王国兵指揮官の怒鳴り声が、地上から風に流されて聞こえてくる。思わず、大尉は副大使を見つめると、副大使と視線が交錯する。縋り付くようなその視線に、大尉は肩をすくめることで応じた。
「ありえん。確かに連中は……ヒト族や……貴族でないものが外交官をやるのは……無礼だとは……」
副大使はうわ言のようにつぶやく。




