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8 第二の逃亡者のよりさんの告白

 だから兄貴のバンドのライヴに久しぶりに行ったのは、そんな日々の憂さ晴らしもあった。ここに来る人々を見ると安心する自分が居る。これは新たな発見だった。

 もしかしたら、自分はこっち側に近いのかもしれない。

 最近の会社の生活の違和感を覚える自分がついそうつぶやく。

 でも決して兄貴の前ではそんな顔をしない。

 RINGERの他のメンバーにもだ。私は「ケンショーの出来のいい妹」だそうだ。

 冗談じゃない。私がどんな気持ちを奴に持っているのか知らないくせに。

 出来のいい妹は、兄貴のような譲れないものが一つもなくて、困ってるんだよ。兄貴というなら一度くらい気付いてみろというものだ。


 いつものように、フロアより一段高いカウンタテーブルに陣取ってドリンクを口にする。ぼんやりと待っている間、観客の子達の様子をうかがうのはなかなか面白い。

 床にべたっと座り込んで待つようになったのはいつからだろうか? 

 まあ確かにそれが一番疲れないんだけどね。結構この「待つ」時間ってのは長いし。

 頬づえついて、オレンジソーダをすする。そう言えば、あら、という顔でカウンタの女の人がコップを手渡してくれた。知り合いという訳ではないんだが?

 それにしても、待っているにしても、色々だ。前の方で座り込んでいるのはだいたい若い子だ。そして始まると、最初に潰されて、後でひーこらしているのも若い子だ。

 大人達はも少し賢くなってしまっているので、私のような後ろで出番を待ち、始まって、それからその気になったら突っ込む、という形を取るのが多い。で、私はその人々の背中を見ている訳で。

 それで。


「…そう言えば、こないだ、ケンショーとのよりが一緒なの見たよお」


 そういう会話がつい耳につく。私はこっそり耳をダンボにする。

 ちら、とその方向に目だけ向けると、白地に赤い文字がでかでかと書かれたチビTシャツをつけた、ややはち切れそうな身体をした高校生くらいの女の子が居た。会話の相手は、オレンジ地に、袖と首だけグリーンのラインの入ったTシャツを着ている。


「何なに、何処で?」

「ミスド」

「えーっ」

「何かさー、ツレがバイトしてるんだけどさー、何かバンドやってる男が良く来るって言ってたんで、面白そうだからって行ったらさー」

「できすぎじゃん。でもそーだよねー。確かケンショーのウチの近くにミスドあったもんねー」


 何でそんなもの知ってるんだ。私は思わず息をつく。

 時々こういう「ファン」の子達の情報収集能力には怖いようなものがある。一種のネットワークとでも言うものが、彼女達にはある。…つまり、中には私が関係者だ、ということを知ってる人も居たりして。

 だいたい私はいつも不機嫌そうに後ろで呑んでたりするので、近づいてこないのかもしれないけれど、確かにそれらしい視線と指さしはあるのだ。間違いなく。「妹」とまでは掴んでいないかもしれないけれど、「ケンショーと関係ある人物」、ということで。


「…あーでもさあ、こないだのはちっと、深刻だったぜえ」


 何? ぴくん、と私は耳の後ろに手を当てる。


「シンコク?」

「だってさー、のよりが何かいきなり怒りだして、先にミスド出ちまったって言うしー」


 へ?

 何か、想像ができない。

 私の中で、彼女の印象は未だに「若奥さん」だった。

 何度か、彼女がヴォーカルのライヴも見たことあるのに、だ。どうしても最初の印象というのは消すことができない。


「で、そん時ケンショーはあ?」

「や、ちゃんと注文した中華のセットは食い尽くして出たらしいよ」

「けどさー、あの二人一緒に暮らしてるんじゃないのかしら?」


 別の一人が口をはさむ。短い髪に、白いパフスリーブのコットンのブラウスはまだこの季節には寒いんではないか、と思ったが、彼女達の足元に積まれたバッグとコートの山を見て、納得した。

 一緒に暮らしている。そう、確かにそれは聞いていた。ただし兄貴の口からではなく、オズさんあたりを誘導尋問したのだが。


「えーそうだったあ?」

「別に見た訳じゃないけど」

「あーびっくりしたあ」

「でもおかしくないよねー」


 なるほど、そういう感じで見られているのか、奴は。

 思わず私は耳の上をひっかく。実際そうなんだろうな、と私だって思う。

 ハコザキ君の時にはハコザキ君をしばらくあの狭い部屋に置いていた。と言うか、転がり込んでいた。彼から後でそう聞いた。

 彼はあれから、都内の実家に戻ったと言う。不思議なもので、のよりさんとは別に切れた訳ではないらしい。すごく変だ、と私なんかは思う。

 だってそうだ。自分の恋人が自分の恋人だった人にいきなり惚れて、自分を捨ててそっちに走って、ヴォーカルにまで据えてしまったというのに、何でそこで友達をやっていられるんだ?

 そういう意味のことを本人に聞いたら、彼は少し寂しそうに笑うと、君には判らないと思うよ、と言った。

 確かに判らない。そこまでする程、兄貴は彼や彼女にとつて魅力的なのだろうか。それは私には絶対判らない。もし判ったとしても、それをてこでも認めたくない類のことだ。

 ただ、彼はこう付け加えた。


「でも、長くはないと思うよ」


 それはほとんど確信に近いのだ、と。そういう意味のことを、彼は静かに言った。

 夏から、冬。確かに早い。

 そう考えて、慌てて私はその考えをうち消した。噂話じゃないの。

 やがて流れていた80年代のポップ・ロックが消えて、会場が暗転した。のよりさんが入ってから変わったオープニングのSEは、何故かエルガーの「威風堂々」だった。誰の趣味なんだ、と最初に聞いた時には私は脱力したものだ。

 いや、「威風堂々」は好きだけど… 何でのよりさんでこの曲なんだ…

 その威風堂々なブラス・バンドの音の中、だらだらとメンバーが出て来る。

 女の子達の声は、ケンショーかオズさんあたりに集中していた。

 そして時々彼女を呼ぶ声もする。ただし、前のハコザキ君の時の様に多くはない。彼女もさぞやりにくいだろう。

 そもそもこういうヴォーカル交代に、どういうメリットがあるというのだろう? 確かに兄貴にしてみれば、自分が惚れた声なのだから、自分の曲を歌って欲しい、というのも判るのだが…

 だけど、バンド全体を持っていく戦略としては、全くもってまずいのじゃないか、と思うのだ。

 客層を見てみればいい。大半が女の子だ。男子も居なくはないけれど、女の子には確実に負ける。負けるのは数だけではない。熱意。彼女達が兄貴やオズさん、前のハコザキ君に向ける声は、かなり「恋愛に似たもの」だ。

 それが女の子ヴォーカルになると、やや違ってくる。

 無論紅一点ヴォーカルのバンドだって、女の子ファンが居ない訳ではない。ただ、RINGERは何だかんだ言って、そういうスタンスではない。

 実際、のよりさんに変わったとしても、やっている音楽が大して変わるという訳ではないのだ。

 そのあたりの兄貴の意図がよく分からない。確かに「自分の曲を生かしてくれる」声なのかもしれないけれど、その時そのヴォーカリストの気持ちは何処へ行ってしまうのだろう?

 のよりさんの歌は、ハコザキ君よりも叫びに近いものがある。彼以上に訓練も何もしていない、カラオケ程度以外に経験の無い彼女がこうやってステージに立っていること自体、結構無茶である。ただ、それだけに、歌には奇妙な程の悲痛さがあるのも確かだ。

 あまり動かないのだが、それが彼女にはよく合っていた。 

 もともと飾り気の無いひとだから、少しメイクしただけでもずいぶん印象が変わる。

 …何と言うか、聞いているのがだんだん辛くなってくるような。



「美咲ちゃん来てたなら来てたって言えば良かったのに」


 オズさんは汗を拭きながら、通路に引っ張り込んだ私にそう言う。


「別に、兄貴に会いに来た訳でもないし。暇だったの」

「そう? まあそれもいいか」

「兄貴にはあたしが居たって言ったの?」

「や、俺がたまたま見つけただけ…じゃなく、ここのナナさんが、美咲ちゃんが居るって言ってくれて」

「ナナさん?」


 そう言えば、カウンターの女性は、意味ありげな視線で私を見ていた。ナナさんと言うのか。前に紹介されたような気もするが、忘れていたのだろうか? 駄目だ。記憶力の低下。テンションが落ちている。


「…ああ」


 曖昧にあいづちを打つ。


「のよりさんは?」

「え?」

「ううん、何か声もしないから」

「…ああ、一足早く帰ったよ」

「へえ」


 それはそれは。


「兄貴も?」

「や、ケンショーはまだ残っているけど… 彼女の家も遠いし」

「あら、兄貴と一緒じゃあないの?」

「美咲ちゃん」


 オズさんは眉を寄せた。


「何か、フロアの客の子達が噂してたわよ。どうなの? あの二人」


 オズさんは黙った。沈黙は雄弁、とはよく言ったものだ。


「別にそれでどうって訳じゃないわよ。兄貴のことだし。今更」

「今更、ねえ」


 彼はくしゃ、と少し伸びかけた髪をかきまわした。


「そういう風に、思えてしまうんだ? 妹としても」

「思わなくちゃ、やって行けないわよ。妹としては」


 そういうものかな、と彼はぼやいた。


「実際、どうなの?」

「良くないね」


 オズさんは短く答えた。

 このひとはこういう困った顔が、よく似合うのだ。ジャニーズ系の顔、と良くバンド仲間にはからかわれているのだが、女の子からしたら、きさくで整っている顔、というところだろう。

 紗里さんが「恋人」と見なされているから彼にはあまり悪い虫もつかないらしいが、それが無ければきっととりまきになりたがる女の子は増えるだろう。


「何で?」

「何でだと、思う?」

「兄貴がまた、別の声を見つけたとか?」

「や、今度は違うんだ」


 今度は、とオズさんは言う。つまりそれは、「いつも」はそうな訳だ。普通の理由ではない、とは思うんだが、彼も私も、それに関して感覚がマヒしているらしい。


「じゃあ何?」


 私は彼にぐい、と迫る。この人は押しに弱い。


「…それが、俺にもよく判らないんだ」

「判らない?」

「のよりちゃんの方が、何か苛立ってるんだよ」

「…のよりさんの方が?」


 それはあの子達が噂していたことと通じる。ご近所ミスドで、先に切れたのはのよりさんの方だった。


「何で?」

「だからそれが俺には判らないんだってば」


 なるほど、と私はうなづく。

 確かに「声」と「音」を間にはさんだとしても、兄貴とのよりさんは一応それ以上の付き合いもある訳だし、そういう関係にある二人のことを部外者の私達があれこれ詮索したところで、結局答えは出ないのだろうけど。



 そんな矢先、だった。

 のぞき穴の向こう側には、見覚えのある「若奥さん」が居たのだ。慌てて私は扉を開けた。夏じゃないのだ。いつまでも外に待たせてはいけない。

 夜中だった。皆寝静まって、起きるには時間がある明け方より、寝付くかどうか、というこの時間の方が、通路の騒音はよろしくない。


「ど… うしたの?」

「…えと、ごめんなさい。今日だけでいいの、泊めてくれない?」


 そう言って、彼女は笑顔を作ろうとする。だけどとても笑顔には見えなかった。そう口にはしないけれど、それじゃあただ引きつっているだけだ。


「…それはいいけど」


 ありがとう、と言って彼女は上がり込んだ。


「ごめんね唐突に。だけど、川崎まで行くのに、終電が行っちゃって」


 川崎は彼女の実家があるところだ、と以前ハコザキ君から聞いたことがある。


「実家に帰るの?」

「ええ」


 さりげなく、実にさりげなくそう言おうと、したのだろう。だけど駄目だよ、声が震えてる。


「じゃあ朝の方がいいよね。お金は持ってるの?」

「一応」


 そうなんだ、と私はうなづく。そのあたりがハコザキ君とは違う。女の方が、とっさにそういう見通しはたつのかもしれない。


「…本当は、終電も、間に合わない訳じゃあないの」


 私は黙ってうなづく。


「だけど、今帰るのは、すごく寒いから」

「…ああまだ明け方とか寒いし」

「…違うのよ」


 彼女は首を横に振る。髪が揺れる。


「寒いの」


 頬の肉が、ぴく、と動く。顔を上げた彼女は、今までに見たこともない程、大きな目をしていた。


「ケンショーには、判らないのよ、それが」

「兄貴には?」


 問い返した私の言葉に、彼女ははっとして口を閉ざす。余計なことを言ってしまった、という顔だ。

 私は黙ってその場を立った。棚からココアの缶を出すと、二つのマグカップに何杯かの粉を入れた。熱湯を少し入れてねりねりねり。そして冷蔵庫から牛乳を出して、やはり二杯分の牛乳を沸かした。

 鍋の上に手をかざすと、暖かい。やがてぷう、と牛乳が膨れてきたところで火を止めると、手はすっかり暖まっている。


「はいココア」


 彼女は六畳のクッションの上に脱力したように座っている。マグカップを渡すと、ありがとう、と小さく言った。渡す時に、私の手が彼女の手に触れた。


「…美咲ちゃんの手は温かいのね」

「さっき鍋の上にかざしてたから」

「そういうことじゃなくて」


 そのまま彼女は私の手を握った。    

 ちょっと待て。手だけじゃない。そのまま、彼女は私に抱きついてきた。


「の… よりさん」

「ごめん美咲ちゃん、ちょっとだけこうさせて」


 何って力だろう。まるで動けない。いや違う、私の腕に、力が入らないのだ。


「美咲ちゃんは、ケンショーにちょっと似てる」

「…似てないわよ」

「似てるわよ。その強情なとことか、人見知りするとことか」


 ぎく。


「もちろんケンショーほどじゃないけどね。でも似てる。あたしはそういうとこも含めて、好きだったのだけど」

「好きだった?」


 彼女は黙ってうなづいた。


「付き合ってると、彼が何処かやっぱりずれてるの、判るのよね。自分しか見えてないとことか、前しか見てないとことか、一度目的が見えてしまうと、馬車馬のように真っ直ぐしか見られないとか、そういうの、全部、だんだん、見えてくるの。…そしたら、見えちゃったのよ」

「…何が?」

「彼はあたしを見てるんじゃないの」

「そういうの、判るの?」


 回されている腕から、くっついている胸から、じんわりと熱が伝わってくる。ああ、暖かい。


「判るわよ。彼はあたしの声が好きだわ。歌ってる時のあたしが一番綺麗だって、臆面も無く言ったりするわ。だけど、そうでない時のあたしなんて、何も見てない。見えてないのよ」

「近眼だから…」


 ばさばさ、と首筋で髪が動いた。


「そうよ彼は近眼だわ。だけどそれは目だけのことじゃないのよ。気持ちも、近眼なのよ。興味の無いこと以外、彼は自分の中に映そうとはしないの。彼が興味あるあたしは、歌ってる時だけなのよ」


 ぴりぴり、とその声が緊張を帯びる。胸が痛くなるような声だ。

 ああでも、確かにそれは判る。私にも確かに、何処か共通するところだ。兄貴ほどではなくとも。


「…それで、ミスドで切れたの?」


 ひょい、と彼女は顔を上げた。


「何処で聞いたの?」

「ファンの子達が、噂してたわ」


 やだやだ、と低い声で彼女はつぶやいた。


「でも仕方ないのよね。前に出ようなんて思ってしまったんだから、そんな目は、仕方ないと思ってたの。思ってるわ。でもケンショーは、あたしが苛立ってることすら、気付かないのよ。だから怒って、先に帰ってしまったの」

「何に苛立ってたの?」


 至近距離の目が、ふっと細められる。


「全部」


 ぜんぶ、と私は繰り返す。そう全部、と彼女は念を押す様に言った。


「一番嫌なのはね、それなのに、あたしがまだ、彼のことが好きだ、ってことなのよ。あたしの声を選んで、これでもかとばかりに誉めて持ち上げて、歌ってる時の姿が綺麗だ綺麗だと誉めて、キスしたり抱いてくれた彼が、腹が立つくらい好きだ、ってことなのよ」

「…どうして?」

「誰かを好きになったこと、無い? 美咲ちゃん」


 私は黙った。好きになったこと。付き合ったひとは居ても、それは好きだったのかどうか、と言えば怪しい。

 これだけは言える。少なくとも、彼女の言うような、そんな「好き」は無い。


「すごく腹が立つのよ。何でそんな奴を、ずっとずっと好きでいなくちゃならないの、って。だけどどうしようもないんだもの。そういうの、無い?」


 ごめんなさい、と私はつぶやいた。判りたくても、そんな気持ちは私には無い。無かったはずだ。

 どうしてこうなんだろう、と時々思うのだ。

 兄貴のような、そんな大事な「何か」を持つ訳でもなく、誰かを強烈に好きになる訳でもなく、私は一体何をしてるんだろう。

 それじゃあ兄貴のような「何か」を探せばいいのか、と言えば、それは探してどうにかなるようなものではないような気がする。

 天から降ってくるようなものだ。私は「それ」はそういうものであって欲しい、と思っている。

 けど、それが違っている、ということなんだろうか?


「謝らなくてもいいわ。ごめんね美咲ちゃん。泣き言よ、所詮。だってそうよ。恋愛は戦争だわ」

「…そんな物騒な」

「だってそうよ。より多く惚れてしまった方が、負けなのよ」


 そしてあたしは負けたの、と彼女はつぶやいた。

 彼女が私の背に回す手に込める力は変わらない。むしろ強くなっているように感じられた。


「…ハコザキ君は」

「何であいつの名が出てくるの?」

「知っていた?」


 唐突に、聞きたくなっていた。


「兄貴が、ハコザキ君ともそういう仲だったこと」

「知ってたわ」


 手が、背中をだんだん上がってくる。


「気付いて、取り返そうと思って、打ち上げの二次会まで、珍しく行ったのよ。そしたら取り返すも何も、ケンショーはあたしの声の方が好きになってしまった。そういう奴なのよ、美咲ちゃんのおにーさんは」

「知ってる」

「それで逃げたハコザキを全く追ったりもしないのよ。可哀相な奴」

「…可哀相?」

「可哀相よ。ハコザキは気付いたから逃げたのよ。ケンショーはそれを聞いたら言ったわ。ああそうまたか、って。そういうことを言ってしまう奴って、すごく可哀相よね」


 可哀相… なのだろうか。


「誰も、彼をずっとずっと長く好きで居続けられるなんてできないわ。ケンショーは、彼を好きになった誰かの何かを、確実に、奪ってく。そして奪われたものは、二度と戻ってこないのよ」


 首筋に、暖かい手が触れた。


「のよりさん」

「やっぱり似てる。ねえ美咲ちゃん、キスしていい?」   

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