23 天に罵倒を投げつけても
ぴろぴろぴろ、と電話のベルが鳴る。何度も鳴る。ひどくうるさい。
ひどく。
ああ鳴っているんだ。電話なんだ。
その日待っていた電話は既に来てしまったから、もう次の電話なんてどうでも良かった。放って置こうか、とも思った。身体が重い。腕を伸ばすのも、重い。面倒だった。
だがベルはぴろぴろぴろ、としつこく鳴り響く。ああ鬱陶しい。
仕方なく私は受話器を取り、もしもし、と低い声で答える。
『あれ、美咲さん… だよね?』
知っている、よく響く声が私の耳に飛び込んできた。背後もひどくうるさいのだが、その声だったから、ちゃんと耳に入る。
「…カナイ君?」
『うんそう俺。ねえ美咲さん、今ひまー?』
「…君酔ってるでしょ…」
『酔ってないよーん。俺まだ二十歳前だしー』
嘘ばっか。スタッフもスタッフだ。
「…でどうしたの?」
『やーだーねー、今日ツアー最終でさー、戻ってきたから、ライヴ来てって前々から言ってたじゃないー』
そういえば、そうだった。メジャーデビューして一年少し。確か今回のツアーは二月の終わりから始まった長くて細かくて…結構鬼のような日程だった、と記憶している。
その最終が、今日だった。ACID―JAMの十倍は人が入りそうなライヴハウス。ホールじゃないか、という人数だけどスタンディングの。そこが今回のツアーファイナルなんだ、と聞いていた。そしてその後に、打ち上げがあるから、と。
『ライヴはまあ、美咲さん仕事忙しかったら仕方ないけどさあ、今うちに居るってことは、身体空いてるんでしょ? 明日土曜日だし。ねえおいでよ。ごはん美味しいし。あのひとも連れて来ればいいじゃない。一緒に住んでる…』
「…今日は居ないの」
『だったら暇でしょ。美咲さんだけでも来てよ』
「カナイ君何か寂しいの?」
少しの間が空いた。
『俺待ってるからねー。場所はねー。渋谷の…』
そして電話は一方的に切れた。時計を見る。十時を少し過ぎた所だ。行けない程ではない。
そう確かに行くと約束していた。断る理由も無い。そして今部屋にサラダが居ない。居ないのだ。
私は上着を取り、のそのそと動き出した。頭の中が妙にクリアになっていた。人ごとのようだ。そういえば、前にもこんな感じで身体を動かしていたことがあった。確かあれは、のよりさんが出て行った後だ。毎日毎日を、とにかく動かずにじっとしている訳にはいかないから、のよりさんのことを考えてる頭と、日常のことをする頭をとりあえず切り離していた。何とかなった。そのかわり、所々がおかしくはなっていた。それをサラダが見ていてくれて、目を覚まさせてくれた。
なのにそのサラダが居ない。
居ないのだ。
*
打ち上げ会場になっていたのは、結構広い、個室が幾つかある、中華料理の店だった。そこで彼らメンバーと、スタッフと、事務所の人達が入り交じって、食事なのか飲み会なのか判らない様相を呈していた。
私は入り口で名前を言うと、その会場になっている部屋に通された。
「あれ、お前今来たの?」
へ、と私はその姿を見て、思わず唖然とした。
「兄貴… その頭」
「あ、これ? あ、お前今日ライヴ来なかったろ。あれだけ来い来いって言ったのに」
「いや用事があったから… それより兄貴…それ」
何年も何年も、トレードマークの様になっていた長い金髪が、無くなっていた。
それだけでない。色も黒になっているし、その短さときたら、何処の中学生だ、というくらいになっていて…
およそ、私の知る兄貴の姿ではなかった。
いや違う。この姿の兄貴は、中学くらいまで知っていた。ただその下の顔は、確実に時間が積み重なっている。だから妙にアンバランスなのだ。
「似合うっしょー」
けけけ、と笑いながらカナイ君はそんな兄貴の頭を背後から襲う。
「何するんだが!」
「むぼーびなんだもんなー、あんたのこのこーとーぶ」
けたけたけたけたけたけたけた、と際限なくカナイ君は笑う。こんなに彼は笑い上戸だったのだろうか。
「とにかく美咲さんも呑んでー。食べてー」
「…ごはんは済ませてきちゃったのよね」
「じゃあ俺、何かカクテル取ってくるね。何がいい?」
「こいつは何でも飲めるぞ」
と兄貴が付け足した。はいよーっ、とカナイ君はぱたぱたと会場を走り出した。転びそうになっては、マキノ君に何やってんだこのボケ、と怒鳴られたりして。
その様子が、何処か遠くにあることのように感じられて、仕方がなかった。
「…髪だけどな」
肩をすくめて、兄貴は弁明のように言う。
「もともと、あれは、決意表明のようなものだったからな」
「決意表明?」
私は彼の斜め前に腰掛けた。はい飲み物、とカナイ君が私の前にどん、とストローの入ったグラスを置く。
「おいカナイ」
ひらひら、と兄貴は彼に手を振る。何、と彼は顔を寄せる。
「いい子だから、しばらくあっち行ってろ!」
「何だよー」
「おーい、サンノウさーん」
兄貴はスタッフの一人を呼ぶと、カナイ君を押しつけて、しばらく来させないでくれ、というジャスチュアをした。
「何かつれないわね」
「まあいいさ。酔っぱらいの戯言はほっとけ」
「いいの?」
「いーさ。酔っぱらって、つぶれて、がーっと寝てしまえって感じだからな。一番走り回ってたし」
「そう」
「…で、何があった?」
え、と私は顔を上げた。頭の中の焦点が合う。
「何が、って」
「俺はあんだけくどく、ラストには来いって言ったし、バックステージ・パスも送っておいたし、お前の同居人も良ければ来いって言ったし、打ち上げあるから食事は抜いてこい、って何回言ったか覚えてるか?」
「え…」
「しかもカナイが言うには、お前の同居人は留守だって言うし」
「…それは」
「だから、何があった? 何も無いんだったら、それはそれでいい」
「…」
私は少し黙った。それまでここに来るという行動に頭の半分を回しておいたから、考えないようにしていたことが、いきなり押し寄せる。
ぼとん、とテーブルに水滴が落ちた。
あれ。
あれあれあれあれあれあれあれあれ。
頬をだらだら、と流れているものがある。
目が熱い。喉が痛い。何だろこれ。
何だろ。ハンカチハンカチ。
私はバッグを探る。
なのに、なかなか目が上手く開かなくて、ハンカチが見つからない。
「ほら」
兄貴はそこにあったナプキン立てを私に突き出した。数枚、そこから抜き取る。
ああこれそのへんのカフェにあるような奴じゃない。もっと一枚が大きくてふんわりしている上等なものだ。慌ててそれで目を押さえる。言葉が出ない。喉が詰まって、声が出ない。
声を抑えて、私はしばらく泣いた。ここ数日にあった出来事が、一気に頭の中に押し寄せる。
*
こっちに戻って、翌日会社に行ったら、上司にいきなりどやされた。
何だ一昨日は無断で早退して。おまけに昨日は欠勤で、自宅にも電話はつながらないし!
何故そんなことを言われるのか判らなくて、私はきょとんとしていた。確か私はあのボスOLさんに伝えていったはずだ。
そのことを上司に言ったら、聞いていない、と言う。
はあ? とその時私は問い返した。
そしてやってきた彼女に聞くと、自分は話した、という。何処かで話が食い違っていた。
良く判らないままに、とにかく言葉だけでも謝罪した。
無断であるかはともかく、唐突に休んだことには違いない。とりあえず仕事に戻り、たまっていた分を片づけることにした。午前中はそれで手一杯で、他のことを考える余裕も無かった。
だがお昼。後輩OLちゃんと久しぶりに外に食べに行ったのだが、その時彼女が言った。
「**さん、先輩が休む、ってこと伝えてませんよ」
思わず問い返した。
「聞いたんですけど、結局**さん、配置換え無いらしいんですって」
「…ってことは、**さん、昇進とか無いってこと?」
そのようです、と後輩OLちゃんは言った。
「あたしも先輩が休むってことは聞いていなかったけど、一昨日、先輩が何か**さんに言ってから会社三時頃に出てくの、一応見てる訳じゃないですか。だからきっと、そのこと言ったのかな、とか思ったんですけど」
何でまた。さあっ、と全身を風が通り抜けていくような感じがした。嫌な、感じだ。
「…で、そのことは」
「…言えませんよ。すみません…」
それはいいわ、と私は言った。
なるほど。なるほどね。
そして午後。さすがに仕事はずいぶんたまっていたので、残業になった。
兄貴達のライヴがツアーファイナルってこともすっかり忘れていた。
無論バックステージ・パスは家の何処かにあるはずだが、サラダのことでかき回してしまった部屋は乱雑になっていて、何処かに埋まってしまっているかもしれなかったのだ。
そして疲れ果てて帰ってきたら、留守電が入っていた。まりえさんからだ。戻ったら電話ください、とアルトの声が告げていた。
掛け直したら、まりえさんの声はこの間以上に低く感じられた。どうしたんですか、と私は問いかけた。
彼女はこう言った。
『…やっぱり脊髄の方もやられているって』
その言葉の意味を、疲れた頭で必死にたぐりよせた時には、電話は終わっていた。私は何かしらはいはいと返事はしたらしい。いつの間にか。
壁にもたれて、それからしばらくぼうっとしていた。何もする気が起きなかった。
それからカナイ君からの電話が来たのだ。
*
…どのくらいその姿勢で居ただろう。じっとりと濡れたナプキンを目から外した時には、その周りの化粧までそこにはついていた。きっと凄いことになっているとは思うのに、直そうという気も起きない。
「…ごめん、いきなり」
「まあいいさ。ところで髪のことだが」
「…ああ、決意表明って言ってたよね。何のこと」
まだ上手く口が回ろうとしない。
「こう言ったらお前は笑うかもしれんがな。メジャーデビューできるまでは絶対切らない、って願かけてたんだぜ」
「へ」
願とは。
「またずいぶんと古風じゃないの」
「うるさい。それにな、長い髪が視界に入れば、伸ばしている理由が俺にいちいち突きつけられるだろう?」
「突きつけなくちゃいけないものだったの?」
「いや、そんなことは無い」
きっぱりと彼は言う。
「だけどな、わかりやすいだろう? 俺自身に対して、周囲に対しても」
「…それはそうよね」
「メジャーデビューした時点で、すっぱり切る予定だったんだがな」
「何でしなかったの?」
「さすがにメジャー行った途端に切ったら、何かと言われるだろう? それでインディのファンを裏切ったとか何とか。俺にしてみりゃどうでも良かったが、ま、それは周囲の圧力」
「兄貴にしちゃ、珍しいじゃない」
「お前は結構俺を買いかぶってる」
「そお?」
「で、お前のほうは? 今度は泣くなよ」
「泣かないわよ」
私は顔を上げた。醜態だった、と思うのだ。兄貴の前だけは、そういう顔を見せたくなかった。
「…サラダが、事故に遭ったのよ」
「サラダちゃんが?」
「一昨日、中央本線で事故あったの知ってる?」
「ああ、何か新幹線で名古屋通った時に、そんなこと言ってたかも… って事故ってそれか?」
私はうなづいた。それは、と彼は眉を寄せた。良く見ると、その眉も以前より太くなっている。
「…で、さっき電話があって… 背中打って… 脊髄のほうもやられて…」
喉が詰まる。
「…しばらくは… 立てないって」
「おい!」
ぎゅっ、と私は一度目をつぶる。大丈夫だ。泣かない。
「それで、おかしかったのか」
「うん」
素直にうなづく。それは事実だからだ。
「一緒にいつか店を持とう、って言ってるから… だから一緒に住んでたし… 資金も貯めてたし…」
ああ何を言いたいんだろう。
「しはらく歩けないんだったら、働くのは無理だな」
あっさりと彼は言う。そのあっさりさに、私は一瞬かちん、と来る。
「兄貴!」
「でも本当だろう?」
「だけど!」
ああまた喉が詰まる。言いたいことの半分も言えやしない。
「何の店をしたいんだ?」
「え?」
「だから、ブティックとか雑貨屋とか、喫茶店とか」
「兄貴言い方古いよ… カフェをやろう、って言ってたんだよ、あたし達。あと二年もがんばれば、お金貯まるからって」
「でもな美咲、結構あれはブームも手伝ってるらしいから、急がないとまずいかもしれんぞ」
「そんなこと判ってるわよ!」
思わず声を張り上げる。周囲の目が一瞬こちらを向く。兄貴が手をひらひらと振ると、その視線はそっぽを向いた。
「…ごめん。…でも兄貴、女二人組になんて、銀行も何処もお金を貸してはくれないわよ。それにそういうのは嫌なの。利子とかまた考えなくちゃいけないし」
「幾ら必要なんだ?」
「…五~六百万ってとこかな。あたし達、この一年ですごくすごくすごくがんばって、二人で二百万、貯めたのよ」
「すげーじゃないの」
「そうよすごいのよ、あたし達。だけどそれはあたしだけじゃないのよ。サラダが居たからできたのよ。彼女と一緒にやろうと思ったから、がんばれたのよ。楽しい空間が作れればいいなって思ったのよ」
だけどだめだ。
彼女は入院して、生活費もそっちに取られるだろう。
まりえさんだの実家だのがそのあたりは出してくれるだろうが、シェアしている彼女の部屋代まで手が回らないだろうから、貯金はまたしにくくなる。
ようやく掴みたい、と本当に思ったのに、それが、手の間からすり抜けていく。
冗談じゃない。
天に向かって何度も悪態をついた。馬鹿野郎。
言ったって仕方かないのに、朝の、綺麗な空に向かってまで、そんな言葉を吐き続けた。
「…美咲お前、さっさと店開いちまえ」
「何言ってんのよ、だから資本がね」
「百万だったら俺出せるぞ」
「兄貴? ちょっと待ってよ、あんた達まだそんなに売れてないでしょ」
「それとは別だ。お前俺が貯金してたの、知ってるだろ」
「…うん」
どうしてこの男にそんなことができるのだろう、と思いながら、知っていた。
「それから… おーい、オズ!」
何だよ、と向こう側でマキノ君やサポート・キーボードのフジガワラさんと呑んでいたオズさんは立ち上がってやってくる。相変わらず歳より若く見えるひとだ。
「何? いきなり。あ、美咲ちゃん来てたの」
「お前さ、『スタジオ資金』まだちゃんと安泰か?」
「あ? やぶからぼーに何だよ。安泰だよ。一応、給料はちゃんと出てるし、少ないけど印税入ってきたし」
「ホントに少ないけどな」
へへへ、と二人は顔を見合わせて笑う。オズさんも原曲作りで名前が出ているから、印税は入っているらしい。それにしても。
「『スタジオ資金』?」
「お前それで百万くらいはあるか?」
「百万は無いけど、八十万くらいはある」
「それ、美咲に出資してくれないか?」
「兄貴!」
私はまた声を上げていた。
「無論俺も出す」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
オズさんは一気に酔いがさめた、という顔になる。
「出資って… 美咲ちゃん、何かやるの?」
「こいつはカフェを出すために、ほんっとうに真剣にここんとこ働いてきたんだと。ところが、あれも出すのにタイミングって奴が要るだろ?」
「…ああ、そうだよね。とりあえずブームがあるうちに、客を掴んでおいたほうがいいってのはあるね」
「だろ。だけどその欲しい資本の今、1/3しか貯まっていないんだと」
「1/3でも凄いよ」
「そう。で、そのすごさに俺は感動してしまったの。…で、俺も虎の子の百万を出そうと思っているんだけど」
「兄貴そのスタジオ資金って」
「あのさ、美咲ちゃん、スタジオでも何でもいいし、どうしても俺達メジャーに引っかからなかったら、その時には自分達で事務所を作れるくらいのことはしておこう、と思ってたわけよ。ほらこのひとももうそろそろ三十路近いし」
「るせー、まだ二十九だ」
「四捨五入すれば一緒でしょ。…でまあ、俺ら結構地道にやってたでしょ。まあ代々のヴォーカルとベースはともかく、俺はずっとこいつとやってこうと思ってたからさ。こいつより少し遅れてだけど、貯金してたって訳」
はあ、と何となくバンドマンとは思えぬ発言にため息をついた。
「…そーだなあ。あとカナイとマキノにも十万くらいづつ出させるか」
「ああそれがいいね。俺はお前がいいって言うならいいよ」
「ってオズさんまでそんな簡単に」
さすがに私も焦った。どうしてそういう展開になるんだ。
「間違えるなよ美咲。俺はお前等に出資しよう、って言った訳で、金をやるって言った訳じゃないぜ?」
「…って」
「だから、お前の持つだろう店を、RINGERの巣にもさせてくれ、って言ってるの」
巣、ですか。
「何がこの先俺達に起こるか判らないからな。無論お前が前に言ったように、俺達はBIGになる予定だが」
「何美咲ちゃん、そんなことこいつに言ったの」
恥ずかしながら、言いました。
「…もし何かあって、RINGERが路頭に迷うようなことがあっても、その時に食うのに困らない店があると、いいと思わないか?」
「おおそれはいい考え」
ぽん、とオズさんは手を叩いた。
「俺はそのセンでオッケーだからね。うん、マキノとカナイにも言って来よう」
そう言ってオズさんは少しわざとらしい程さっと立ち上がった。それ以上のことを自分が言っても何だ、と思ったのだろうか。
それとも。
「俺はな、美咲、お前に何もしてやれたことが無いんだ」
「それは別に、今更」
彼が負い目を感じていることは、知ってはいるけれど。でも今更。
「だからな美咲」
ぐい、と彼は私のほうを向いた。
「お前とっとと店出せ。それでサラダちゃんが座ったままでできる仕事作ってやれ。それでいいじゃないか?」
「座ったままで」
「そういうスタッフに、すればいいじゃないか。店内のディスプレイ? とか結構好き? とか言ってなかったか? 立てなかったら、歩けなかったら、そこに手が届かないとこにはお前が手を出せばいい。だけどそれを考えるのはお前よりサラダちゃんの方が向いてるんだろ?」
「兄貴…」
「カウンタの中を高くして、椅子に座って接客や簡単な調理とかできない訳じゃないだろ?」
探せよ、と彼は言っているのだ。立ち止まっていないで。私がすぐにでもカフェを作れる方法を。サラダがそのカフェで働く方法を。
「俺はこれまでお前に何かしてやったことも無い。いつもお前に迷惑ばかりかけてきたと思う」
「…そんなこといいよ。面と向かって言われると気色悪いし」
しかし彼は構わずに続けた。
「この先お前に何かしてやれるという保証も無い。だけど今だったら、できる。金で解決、という方法しか俺には上手く浮かばないけれど、お前が役立てろ」
「あ」
りがとう、とは言えなかった。
また喉が詰まったのだ。
*
そしてあと百万から二百万が必要だった。
私は土曜日の午後、思い切って新幹線に乗った。




