エピローグ-3 ノエル
さて結論から言おう。どうやら僕は異世界とやらに来てしまったらしい。
突拍子もない話なのは分かるけれど、これはもう認めるしかない。
まずは僕をネコ科の厳つい彼から助けてくれた金髪の少女、名前はノエル=フレイルだそうだ。彼女の特徴を言うなら、耳が尖っている。それはもうすごく。ゲームとかでよく見かけるエルフみたいだな〜とか思っていたら、なんと本当にエルフだというのだ。
「なに言ってる?君、痛い子なの?」
うん、真顔で言っちゃったよね。そしたらもう大変、ノエルが僕に向けて手をかざしなにか呪文のようなものを呟くと、僕の足元から間欠泉よろしく、勢いの良い水が噴き出し、僕を数メートル吹き飛ばしてくれた。
これは魔法の一種らしい。そう、魔法だ。
認めたくないけれどこれはもう認めるしかない。一般人は水を何もない空間から出現させたりはしないしできない。追い打ちをかけるなら、ここはそもそも地球ではないらしい。なぜ断言できるのか?それはノエル達「こちら側」の住人たちは地球の存在を知っているそうだ。といっても干渉はできないらしいけどね。ここが地球で無いという判断材料とするならさっきの三つ目の化け物や、今こうして森の中を歩いていても見たことのない生物たちが平然と闊歩している。さすがに見上げるのも億劫になるような大木が、自分の根っこを足のようにして歩いているのを見た時は腰が抜けそうになった。ハリウッド映画もびっくりだ。
あ、なんで僕がこっち側の世界、マナファードにいるのかはノエルにも分からないらしい。首筋に小さな魔法陣が浮かび上がってることから、召喚されたことは分かるけど、ならなんであんな場所に一人で放置されていたのかがわからないそうだ。今いるこの森は相当な危険区域で普通の人間は立ち入ることはないらしい。まあ僕のことについては保留としよう。
逆にマナファードから地球に行く方法はあるらしい。主に罪人を地球に送りつける「異界流し」でしか使われないらしいが。例えるなら島流しだが、この島流しは一方通行でマナファードに帰る方法はない。こっちの世界で地球といえば野蛮な地と同意語だそうで。地球出身の僕から言わせてもらうなら、それで間違いないんだけれどね。とにかく、異界流しは資材よりも重たい刑で、どんな極悪人でも泣いて許しを乞うレベルらしい。
ここまでがノエルに「とりあえず着いてきて」と言われ舗装されていない森の中を歩いている間に得た情報だ。純のいない世界に興味がなかったし、さっさと死ねばよかったんだけど気が変わった。なぜならこの世界には魔法がある。ということは、だ。
もしかしたら純を蘇らせることができるかもしれない。それならばまだ僕が生きる意味もある。なかったら死ねばいい、それだけだ。
「そういえばノエル」
「なに〜?」
わざわざ立ち止まり、こちらに振り向いてくれるノエル。振り向くのに連動して背中まであるサラサラの金髪が揺れる。
「なんで僕が一瞬で地球出身だってわかったの?」
「え〜?だって召喚印あるし〜、どんな田舎者でも魔法を知らないわけないし〜、魔力がないし〜…あ、この世界の人はね、魔法が使えない人はたーくさんいるけどそれでも微弱に魔力は持ってるんだよ〜。それに…」
それまで笑顔で僕の質問に応えてくれていたノエルはここで一旦うつむいて、また笑顔を取り繕う。見ているこっちが悲しくなるような、無理をしているのがバレバレな笑顔で続けた。
「エルフを見ても怖がらない人間なんて…いないから」
ちょっと説明詰め込みました感がありますね…