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8話 魔力の考察

「そっちは?」

「いや、そっちもか?」

「ああ。どこにもいなかった」

「次は――」



 黒装束の片割れが1歩踏み出した瞬間、隠されていた鎖が巻き上げられて首に直撃した……が、それで終わるわけもなく、背後の木にそのまま縛りつけられ、その衝撃で頸椎が砕けて気絶した。



「なっ! どこに――がっ!?」

「後ろに決まってんだろうが。まあ聞こえないだろうけど」



 もう一方も騒ぎ出す前にタクが背後から側頭部を蹴って気絶させた。何故気絶させるのかというと、先ほど他の黒装束を仕留めた時に血の匂いに誘き寄せられたのか、大型の熊みたいな生き物が近づいてきたのだ。死体を囮にして逃げ切ったが、あれはナイフで勝てる相手ではなかった。だから血が出ない方法で仕留めているのが現状なのだ。



「縛っておけばあの熊みたいな奴等が食うだろ。態々わざわざ俺が殺す必要もなかったな」



 かなり物騒なことを呟きつつ、腰に着けているバックルからワイヤーを引っ張り出す。これは防弾チョッキにも使われている強靭な繊維で、生身の人間が切るのは不可能な代物だ。タクはそれで手足を厳重に縛り、ナイフで苦労しながら何とか切って、黒装束が持っている必要最低限の金銭や装備を奪い取ってその場を後にした。




~~~~~~~~~~




「ふぅ……各個撃破は簡単だけど時間がかかるな……」



 初めに黒装束達と遭遇してから5時間。別に拷問する必要もないために、タクは全てを始末し終えていた。今回タクが得た物はローブ3着と暗器多数、結構な量の金と少量の食糧だった。ちなみにローブの一枚は風呂敷代わりになっている。



「森の中で野宿とか最悪だな。あんな化け物みたいな熊がいたら眠れないぞ」



 タクの言うことは尤もで、この森に生息している熊は日本のものとは全く違う。まずデカい。具体的には立つと4mくらいある。それでも見た目はヒグマにそっくりなので、一応は熊と呼んでいるのだ。



「ま、仕方ないか。木の上で寝るのは確定だし、寝る前に魔力操作に関しての訓練もしないといけないしなぁ……」



 そう。タクの今一番の悩みは魔力を扱えないことなのだ。実際、黒装束達を始末するのに時間が掛かったのも、相手が魔力を使って色々としていたからなのだ。まぁそのハンデをものともしないタクもどうかとは思うが。

 するすると木に登って、丁度いい形の太い枝に座り考えに耽る。



(あの黒い奴等もウルも、自然体で魔力を使っていたからな。慣れとかも関係あるんだろうが、どう考えても俺の使い方が間違っているとしか思えない……やっぱり『気』とは違うのか? なんかこの世界に来てから無色透明だった『気』に色が付いたんだけど、魔力とは違う色だしな……)



 余談だが、気や魔力の色が見える人間はかなり希少な存在である。そもそも『気』の存在を知っている者が貴重なのだが、それは置いておく。とにかく、タクには『気』が赤色に、魔力が青色に見えており、違うものなら操作法も違うのでは? と思ったのだ。



(何が違うんだ? ……魔力に関しては何も知らないから、逆説的に考えてみるか。


 『気』は肉体的エネルギー、というか生物的な力だ。自らが作り出す限界を超える力……だったか? そこから考えると魔力は逆の…精神的エネルギーってところか? 非生物的な力……無機物はさすがにないだろうから霊的な力ということか。たしかに似たような表現の小説は読んだことがある。この世界とは関係ないと思っていたが。


 生物はあくまでその個体で完結していて、そのエネルギーは外部に出るものではない……逆に、非生物の霊的な存在は肉体から解放された外部に存在するエネルギーそのもの……と言えるのか? だとすれば、だ。魔力というものは体外で扱うことが前提の力ということになる。俺との相性は最悪だな。なにせ30㎝しか魔法が飛ばせないのだから)



 そこまで考えて、1つだけ重要なことを思い出すタク。



(そういえば、よく身体強化とかが出てきてたな。だけど魔力は内部に作用させることが難しいし……待てよ? それなら外部から強化すればいいだけなんじゃないか? ……いや、違う。俺は『気』で身体強化は出来るんだ。だから魔力は別の用途に……そう、防御や補助に使えばいいんだ。


 なんだよ簡単なことじゃないか。考えてみれば30㎝しか使えないというのも俺個人だけなら困る要素はない。むしろ無駄がなくなると言えるな。……もしも仲間とかが出来たらまたその時に考えればいいだろ。今を生き残らなきゃ仲間とかも夢のまた夢だからな)



 そんなことを考えながらも、体は早速魔力を操作するための訓練を始めている。なんというか、無意識下から戦うことに特化した奴である。ある意味では脳筋とも言える。

 ちなみに、タクは1人で任務を受けたことが数えるほどしかない。あくまでもタクは暗殺・・専門なのであって、潜入技能は必要に駆られて身に付けただけなのだ。裏工作や遠距離からの援護、機械によるバックアップなんていうのは他の人間がやることだった。

 だからタクは常に何人かとチームを組んで活動していて、さすがに年下はいなかったが近い人間と同じチームにされるのはよくあった。だから無表情の冷たい印象とは裏腹に、仲間のことは大事にするし、仲間はいらない! なんてバカげたことも考えない。よくも悪くも戦闘脳なのだ。


 閑話休題それはともかく



(へえ……やっぱり魔力は体外で扱うものだったんだな。これなら色々できそうだ)



 訓練を始めて10分ほどでタクの手に光が宿る。さらにそこから滑らかな動作で体の各所に移動させる。昨日の昼間にヘトヘトになっていたのが嘘のような光景だ。

 だがタクはこんなところで終わらせる気はない。最低でもあの熊っぽい何かを余裕で倒せなくてはいけないのだ。別に今のままでも『気』を使えば瞬殺できるだろう。しかしそれだけに頼って過去に痛い目を見たタクは、それ以外での戦闘力向上をしておきたいのだ。



(まあ、無難なところで厚さ30㎝の鎧か? ……これはちょっと厳しいな。消費が激しすぎる。それなら――)



 こうして森の中の長い夜は更けていった――


 タクの膨大な魔力を恐れて生き物が全て逃げて行ってしまったのは他の話である。




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