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7話 国外追放

「クツキ・タチバナ様の部屋で発見しました!」



 その騎士の一言を受けて、王がタクを厳しい、敵意すら籠った目で睨み付ける。



「いや、何をだよ」



 だが当の本人はどこ吹く風。仮にも一国の王に睨まれているのにも拘らず、全く動揺していない。むしろ何も教えて貰えずに少し苛立っているくらいだった。

 話は変わるが、タクがあまり感情を表に出さないのには訳がある。まあタクの感情が希薄なのも1つの理由ではあるが、他にも色々とあるのだ。その1つが“無意味に相手を威圧しない”ためにだ。タクほどの存在になると、本能的に鈍い人間でも感じられるほどに『死』の気配を発するようになる。それは怒ったりすると顕著になり、心臓の弱い人に当てるとショック死するレベルの威圧感を出すこともあるほど。

 結局、何が言いたいのかというと、タクを怒らせた場合、死ぬほど怖い目に遭うということだ。



『っ!?』

「何も説明せずに、さらには2時間も待たせた挙句に俺を犯人扱い。さすがに俺だって怒るぞ」

「その説明は私がしましょう」

「ウル? ……ああ、そういうことか」



 だが、心臓を直接掴まれたような苦しさと、首筋に刃を当てられているかのような怖気は、新たに扉から入ってきた人物のおかげで中断された。そこにいた勇者4人と王、騎士は荒い息を吐きながら全身に冷や汗をかく。今まで汗をかくことすら出来なかったのだ。

 そして入ってきた人物とはもちろんウルだ。その手に握られている物を見て、タクは大体のことを察した。



「ご理解が早くて助かります。ですから、この国から出て行ってくれませんか?」

「「「「はぁ!?」」」」



 その突飛な言葉にタク以外の勇者が驚く。いつもは丁寧な話し方の樹や、お嬢様のイリナが言っているあたり、かなりの驚き具合である。



「そうか。国境まで送ってくれるならいいぞ」

「そんなの拒否するに――っておい!?」

「そうですか。ではこちらへ来てください」

「ああ……じゃあな、お前ら」

「待てよ、おい! 離せ……くっ…タク! どういうことだよテメェ!」

「どうもこうもない。俺は窃盗の罪で国外追放されるんだよ」

「「「「……え?」」」」



 勇者4人は新たに入ってきた騎士に押さえられて動けない。タクも両腕を騎士に掴まれているから自由には動けない。王も突然すぎる事態の変化に動けない。そんな中ウルだけが悠々と歩いて、タクに近づき耳元で囁く。同様にタクも囁き返す。



「――――ん。―う――――な―て。―――右―――――に―――ます」

「わ―――――。―し―感―――――。後―――――、―手―――――さ」



 それも一瞬のことで、離れてお互いに敵意の籠った目で睨み合う。



「では、連れて行ってください。もはや1秒でも早くここから叩き出したいのです」

「「はっ!」」

「この屑が。地獄に落ちろ」

「貴様! その口のきき方はなんだ!!」

「あの悪女に敬意なんてあるわけないだろうが」

「貴様ぁ! 二度と我らが王国に入って来るなよ!!」



 その後、連行されたタクは馬車で一週間かけて国境まで運ばれ、無事に(?)隣の『アスカトリア王国』へと引き渡されたのであった。




~~~~~~~~~~




「意外だな。監視が着くと思っていたんだが……というか何故に森の中? ……あ、死んでもいいからか」



 ここはアスカトリア王国と、タクが召喚された国であるクィトス王国との国境にある巨大で広大な森、タークァの森だ。ここに存在する全てが巨大であり、死刑囚や扱いに困る罪人をここに送るのが両国では暗黙の了解として根付いている。



「まあ頼りないけどナイフもあるし、まずはここを――?」



 と、これからの予定を組み立てていたら、タクの人間離れした鋭すぎる聴覚が微かな音を捉えた。



(この気配は……人間か? 他にも居る…とは考えにくいから、俺を確実に処分するための人員かね?)



 そんな結構危険なことを考えていると、タクの前に全身を真っ黒のローブで包んだ人間が現れた。しかも後から出るわ出るわ……結局、合計で20人も居た。配置からして、恐らくは4人班が5つといったところか。



「さて、一応聞こうか。お前らも国外追放されたクチか?」

「我らは貴様を始末す――」

「――なら死んどけ」



 まさに一瞬。実は隠し持っていた投げナイフ(クナイのような型)を正面と左にいた黒装束の目に突き刺した。それに動揺する暇を与えずに、鎖付きのナイフで周囲にいる黒装束の喉を斬り裂く。喉と言っても骨まで達する深い傷であり、食らった全員が即死した。残りは14人だ。



「「「……っ!」」」

「さすがに仲間が死んだ程度じゃあ動揺は薄いか。まあ1人も生きて返す気はないけどなー……とは言っても、この人数はキツイから逃げさせてもらおうか」

「! 逃がすわけが――っ!?」



 黒装束たちが襲い掛かろうとした直前に、異変が起きた。タクが徐々に薄くなり消えてしまったのだ。もちろんこれは黒装束たちの錯覚であり、実際はタクが気配と無意識に魔力を隠しただけだ。

 目の前にいる殺気をばら撒く人間から、音や気配がいきなり消えたら誰だって錯覚する。鋭いならなおさら、視覚以外の感覚が目から入る情報を上回ってしまう。



『プライドを捨てて逃げ帰るか、誇りのために死に晒すか、お前らは果たしてどちらを選ぶのかな……?』



 そんな嘲るような声がどこからともなく聞こえてくる。こう言ってはいるものの、実際は逃げ帰ることなどできないとタクは推測していた。最初の黒装束の態度、話に応じるという致命的なミスを犯したことから相手は相当油断しているはずで、逃がすはずがないと考えていると予想しているからだ。その場合だと帰ったら役立たずとして処分される可能性が非常に高い。故に追って来るはずなのだ。



「くっ……! 各班2人で組み、奴を追うぞ!」

「「「はっ!」」」

(やはりか。それなら俺の本領発揮の時間だ)



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