51話 別れ
12/09 前半部分に少しだけ会話を付け加えました。ご注意を。
ゴブリンの巣に乗り込み、やはりと言うべきか簡単に殲滅して地上に戻って来たタク達一行は、あることについて話し合っていた。
「だから! 長の言うことは絶対です! それに逆らえばどうなるかなど貴方も知っているでしょう!?」
「その風習自体が間違っているんだっ! 無理やり差し出されて……まるで生贄のようじゃないか!」
いや、話し合いというよりは口喧嘩の方が近いかもしれない。
最初はお互い静かに話し合っていたのだが、如何せんどちらも譲れないものがあり議論が白熱してしまうのは自明の理であった。
「たとえ間違っているとしても! それをどうやって正すのですか!?」
「オレがやってみせるさ! オレ達は長の道具でも、操り人形でもないんだ!」
龍瑠と紅蓮が叫び合っているのは、緋煉の処遇についてだ。龍瑠としては里に戻したくはないし、紅蓮としては何が何でも連れ帰りたい。どちらにも正しい言い分があるので余計に手に負えない状態となっていた。
「緋煉」
「なんだ?」
「お前はどうしたいんだ? さっきも里帰りがしたいとか言っていたし、帰りたいとは思っているのか?」
「んー……まぁ、帰りたくないと言ったら嘘になるかなー。別に主のことが嫌いってわけじゃないんだけど……」
「なら帰ればいい」
「いいのか?」
「俺は問題ない」
たしかに緋煉は村長の家で里帰りの権利が欲しいと言っていた。それを踏まえるなら緋煉は里に帰りたいということになる。
「それともなんだ、紅蓮のことが嫌いなのか?」
「ん? んー……アレとは幼馴染だけど、弟みたいなものだからなー……」
「あ、そう。まぁ結婚云々はともかく、帰りたいなら帰ればいい。お前の好きにしろ」
タクにそう言われて、少しの間悩む緋煉。しかしすぐに答えが出たようだ。
「アタシは、帰りたい……かな」
「だとよ。良かったな紅蓮」
「お、おう」
「母様にも会いたいしな!」
「紅蓮、残念だったな」
「オレをオチに使うんじゃねぇ! チクショウ!」
結局のところ緋煉としては帰りたいが、その理由に紅蓮は全く絡んでいないらしい。
タクには雑に扱われ、婚約者には弟だと言われ、紅蓮はもうボロボロだ。まぁ赤髪の大柄な男が涙目になったところで可愛くもなんともないのだが。
「龍瑠、緋煉が帰ると何か問題があるのか?」
「ありまくりです。長の命でタク様の元に来た妾達が出戻りなど許されるはずが無いですし、良くて里を追放、悪ければ処刑されるかもしれません」
「……ふむ、それは、俺とのパイプが欲しいからか?」
「………………はい。率直に言えば、そういうことです」
(龍瑠は初めに“今代最強の勇者様”とか言っていたしな。『聖女』が何を吹き込んだのか知らないが……俺は亜人達にとって有益な存在だということか)
「だったら俺が手紙でも書けば丸く収まるんじゃないか?」
「それは……どうでしょう? 妾にも分かりません」
「ふぅ…なら、紅蓮」
「……んだよ」
「俺が色々と書いてやるから、後のことはお前でどうにかしろ」
タクは竜の里のことを知らない。故に何も解決は出来ない……が、目的が自分ならある程度は誘導することが出来る。
一緒に居たのは2日間だけだが、タクの中では何故か“仲間”として認識されている緋煉。タクはその仲間のためになら、まぁ少しは動いてやってもいいかなと思ったのだ。
「それでいいな?」
「……タク様がそう言うなら……」
「主……ありがとう」
「お前、意外といい奴だな」
「……マスターは優しい」
「じゃあとりあえず村に戻るぞ。紙なんて持ってないし」
「……ん」
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「――というわけだ」
「俄かには信じがたいですな……あ、いえ、貴方様を疑っているわけではなくてですね」
「別に。心配なら狩人にでも監視させればいい」
「は、はい。そうさせてもらいます……」
帰ってきた村長宅。そこで一行は事のあらましと、推定ではあるが処分したゴブリンの数を報告していた。
まずクイーンが居たこと。これはタクがその首を持って来たのですぐに認められた。しかしあの決して広くは無い洞穴の中に600匹に迫る大量のゴブリンが居たことは、さすがにすぐには信じてもらえなかった。
実は最奥部から帰る途中にタクがゴブリンの大群に気付いたのだ。それは分かれ道の逆方向で、そちらにもそこそこ広い空間があった。そしてやはり同じような数が居た。
「あと1つ頼みがある」
「た、頼みですかな?」
「そう身構えるな。紙と何か書くものを貸してくれ」
「あ、は、はい。直ちに」
フィム達から見ても可哀想なくらいにビクビクしている村長はすぐに羊皮紙と羽ペンを持って来た。村長がここまで恐れている理由は、クイーンの首だ。タクが瞬殺してしまったので分かりにくいが、ゴブリン・クイーンはゴールド寄りのシルバー級だ。つまるところかなり強い。
最初からかなりの使い手であるとは分かっていたが、まさか事のついでにクイーンを殺せるような輩だとは思ってもみなかった村長。しかもそのタクの背後に居る龍娘の機嫌が悪いので、村長も居心地が悪かった。村長の家なのに。
「………………っし。これでいいだろ」
「なんて書いたんだ?」
「要約すると『紅蓮はどうでもいいけど緋煉に何かあったら戦争だから』と書いておいた」
「色々言いたいことはあるけど、最悪だな」
「悪夢です」
「主とは戦いたくないぞ……」
「……マスター、戦争するの?」
「さぁ? 相手次第だろ」
なんとも物騒な会話に、村長の顔色が悪くなっていく。
「じゃ、たしかに書いたし渡したぞ」
「あぁ……ありがとな」
「いいからさっさと行け。俺達だって暇じゃない」
「おう。また会おうぜ。その時はボッコボコにしてやるからな!」
「無理だ。諦めろ」
「即答かよ!?」
そうは言いながらも笑顔の紅蓮。まぁタクはいつも通りの無表情であるし、心底鬱陶しそうな雰囲気が滲み出ているが。
「そういや緋煉は飛べるのか?」
「んぁ? あっ……無理かもしれない」
「翼は斬り飛ばしちゃったもんな」
「はぁ!? おま、緋煉に何してんだ!」
「うるせぇ。最初に襲い掛かってきたのは緋煉だぞ。なぁ?」
そのタクの問いかけにうんうんと頷く3人娘。
「ま、そんな事情もあるからお前が背中に乗せるなりしろよ」
「ちっ、分かったよ! まったく……」
「……マスター」
「ん?」
「……治せないの?」
「竜翼の構造なんて知らないからなぁ……」
タクが〔癒〕で治せるのは人間か、それに準ずる生物だけだ。犬や猫なども骨格等は知っているのでいけるかもしれないが……さすがに竜の骨格などはタクでも知らない。
「あ、そうだ、緋煉」
「なんだ?」
「お前、魔法が効きにくいだろ? あれってどうしてだ?」
「なんだそんなことか。アタシの鱗、今は皮膚だけど、それが『反魔物質』なんだ」
「『反魔物質』?」
「そ。魔法を魔力に戻す作用があるんだ」
「……それであれか」
タクは襲撃された時のことを思い出す。あの時、空間障壁が簡単に解除されたことは少なからずタクを驚かしていた。それだけだが、タクの想定を上回るなど滅多にない。
「何なら鱗あげようか?」
「いいのか?」
「主は“いい人”だしな!」
「いや、それはな――なんか既視感が……」
緋煉は早速、腕だけを竜化して、鱗を1枚剥ぎ取ってタクに渡した。村長は緋煉の腕が変化した辺りで気を失ってしまったが誰も気が付かなかった。
「はぁー……これがなぁ……」
「大事にしてな? 結構痛いし」
「分かった。……じゃあな、緋煉」
「うん、さよならだな、主」
2人の側で婚約者である紅蓮が嫉妬しているが、それには気付かない。いや、タクは気付いているが完全に無視した。何故か龍瑠も嫉妬していたがそちらもやはり放置した。
しばらく経って、森のゴブリンは居なくなったことが確認されたので、タク達は解放されることに。さすがに村の中で紅蓮を竜化させるわけにもいかず、西にある小高い丘へと向かいそこで紅蓮に竜化させた。これによってまた村の中が騒がしくなったが今度は全員揃って無視を決め込む。
「ま、あれだ。どうせまた会うだろ」
「はは、主が言うとそう思えるから不思議だな」
緋煉は少しだけ寂しそうだった。それがどうしようもなく紅蓮の心を掻き乱す。
『あー! クッソ! おい勇者! 次は本当にボコボコにしてやるからな!!』
「竜の姿で叫ぶなうるさい」
紅蓮は吠えるだけ吠えて大空へと飛んで行ってしまった。途中で緋煉の文句が聞こえた気がしたが、果たして。
「行ってしまいましたね」
「そうだな」
「……私達も、行く?」
「あぁ、ゆっくりとはしていられない。何が何でも王都に行かなきゃならないしな」
“刀”とか、“『聖女』”とか、“赤の勇者”とか……タクはまた考えるべきことの多さにウンザリとした。




