4話 魔力検査
「――ではタク様に戦闘訓練などは必要ないのでしょうか?」
「いや、魔力というものが俺たちの世界にはなかったから、使い方が全くわからない。そこらへんの指導はしてほしいかな」
「あら、そうなのですか? 魔法の使えない世界なんて想像もできませんね」
謁見の間で、タクとウルが親しげに会話を弾ませる。……王を無視して。
それを見て王国サイドも、日本人サイドもあらぬことを想像してしまったのは仕方ないだろう。
もはや謁見の形ではない、というツッコミは受け付けない。
「(なあ、なんであの2人はあんなに親しげなんだ?)」
「(さあ……? 恋愛感情が絡んでいるようには見えませんが……)」
「(私は裏に腹黒いやり取りがあっても驚きませんわ)」
「(私もイリナに一票かなぁ……タクって絶対に頭いいと思うのよね)」
「(全て狙ってやっていたのなら、脱帽ものですわね)」
イリナの言葉に思わず苦笑してしまう3人。まさかこの言葉が的のど真ん中を正確に射ているとは思ってもいないことだろう。
実は、ここまでのタクの行動は全て狙ったものである。先ほどのウルとの会話だって『なら世話しなくてもいいよね?』『呼んだからには少しくらい世話しろよ』『魔法が使えないなんて不憫ね』みたいな会話だと思ってくれていいものだ。ただし、2人ともなまじスペックが高いために、この場の誰1人として裏の意味には気付いていない。
「まあ、こっちではそれ以上に科学が発展しているからな」
「カガク…ですか?」
「ああ。これなんかは発展した兵器の代表例だな」
そう言いつつ懐から実に自然な動作で凶器を取り出す。騎士たちも、兵器とは言うが見たところ片手で持てるサイズの、奇妙な形をだけの物を本気で警戒出来るわけがない。剣などの見た目で分かるような脅威ではないので当然だ。
「……? それは?」
「拳銃っていう武器だ。見えない攻撃が出来るから重宝している」
その言葉にウルが若干動揺する。先ほどは魔法がないのなら大したことないと思っていたのだが、そのカガクとやらは自分たちの想像を超えている可能性が出てきたのだ。まあその動揺もタクにしかわからない、極小のものだったが。
「……それは、ここで実演していただくことは?」
「まあ1回だけ、それに的があればやってもいい」
「ふむ……誰か的を持ってきていただけませんか?」
「はっ! 直ちに運ばせますので少々お待ちを」
しばらくして藁人形っぽい的が運ばれてきた。ご丁寧に少し消耗してはいるが金属鎧も着せてある。
「じゃあ的から離れてくれ。……よし、それくらいでいい」
と、言ったのと同時に抜き手を見せず、しかも宣言すらしないで引き金を引くタク。もちろんこれには訳がある。原理や欠点なんかを見抜かれないために一瞬で済ませてしまおうと考えたのだ。因みに断らなかった理由は、ここで出し渋ると相手に舐められてしまうから。だから貴重な弾丸を消費してでもこの場で力の一端は見せておきたかったのだ。
結果で言えばタクの企みは大成功だった。一から作ったオリジナルの大火力拳銃を相手にして藁人形が耐えられるハズもなく、鎧は見事に割れて弾丸は完全に貫通し壁に突き刺さったのだから。しかもどれだけ深く入ったのか、弾丸が見つからないという都合の良さ。これで見えない攻撃の信憑性も高くなったと、タクが内心でほくそ笑んでいたのは考えるまでもない。
「な……」
「……? この世界の金属ってあんなに脆いものなのか?」
だが結果が良くても納得できないことがあった。それはいくら消耗していたからと言って、金属鎧を簡単に貫いたことだ。正直拳銃にそこまでの威力はないハズなのだ。
「あ、あの鎧は騎士団で正式採用されているものです。多少古い印象はありましたが……」
タクの質問には騎士の1人が答えてくれた。どうやら決して脆いものではないらしい。今度は地球とこの世界とでは根本的に色々と違う可能性が出てきてしまった。1つ解決すると1つ以上の問題が出てくるあたり、前途多難な感じがしなくもない。
「これでよかったか?」
「え、ええ……あの、それに制限などは?」
「? 特に無いが?」
「そう、ですか……いえ、ありがとうございました」
どうやらタクの面の皮は相当に分厚いらしい。弾丸も限られているし、直線にしか攻撃できないなどの制限はある。それを心底不思議そうな顔で“ない”と言い切るタクには後ろの4人も脱帽していたほど。何に関しても突き抜けると感心してしまうものなのだ。
「それより、この後って何かすることはあるのか? 今が何時なのかもわからないんだが」
「あ、そうでしたね。この後は皆さんの魔力に関する事柄を測定させて頂きたいと思っています。因みに今は午前11時です」
「魔力の測定? というか意外と朝だったんだな。俺は深夜に呼ばれたんだけどな」
「そうなのですか? そちらは追々調べていきましょう。魔力の測定については……運びなさい!」
「「「はっ!」」」
ウルの号令とともに騎士が何人か動き出して、色々と怪しげな物を持ってきた。水晶玉だろうが髑髏だろうが怪しいのには違いない。
「……なんか怪しさが爆発してるな」
「ではまずタク様。その水晶に触れてみてくださいな」
「俺かよ……ほら、これでい………………これはなんだ?」
「その数値がタク様の“魔力量”を表しているのですよ」
タクが触れた直後に水晶玉が淡く光り出して、中に数字が浮かび上がった。62000と出ているが、勇者たちはそれがどれくらい凄いのか理解していなかった。だからタクも若干だが引き攣っているウルが不思議でならなかったのだが。
「次にその髑髏に触れてください」
「ああ……全部俺がやるのか……」
そう言いながらも髑髏に手を置く。すると目が(無いのに)ピカッと光って、口というか歯の隙間から一枚の紙が出てきた。異世界意味わかんない……とか思いつつもその紙を受け取って内容を確認してみると、そこには11000と書かれていた。
「……今度はなんだよ」
「それは一度に出せる魔力の量を表しています。つまり出力ですね」
「なるほどな」
もはや誰が見ても分かるくらいに顔を引き攣らせたウルが説明してくれた。
その後もタクだけ怪しすぎるアイテムに触れていき、自らのステータスを調べた。そこで2つ問題が発生する。
「マジか……3ってなんだよ、3って……」
射程距離の数値が3しかなかったのだ。一般的に、数値×10㎝が魔力を操作できる距離と言われている。つまりタクは30㎝しか魔力を操ることができない……というかもはや魔法が使えない。自分から30㎝しか飛ばない火の玉なんて使いにくくて仕方ないだろう。
だがそれ以外は軒並み高い値を出しているのが故に勿体ない。
「それに属性への適性が皆無とか……」
2つ目は属性変化が出来ないことだ。無属性には高い適性が出ているのだが、この世界での無属性の使い道など身体強化くらいだ。そして身体強化は酷く効率が悪く、大抵の人は1分でスタミナが尽きる。
そんな風にタクがぼやいている内に測定を済ませる4人。魔力量も含めて平均は12000程度だったのだが、結局これではタクが異常に高いことしかわからない。
だがそれを聞く前にウルが話を進めてしまう。
「では、これから皆さんには魔力操作の訓練をしてもらいますね」