15話 盗賊ギルド
美味しいものを食べてフィムが幸せになった次の日。
時刻は朝8時頃。フィムが宿の食事だけでは満足できず、朝からタクが作る羽目になった。
「じゃあ行ってくる。お前はここから出ずにじっとしていろよ」
「……ん」
「まあ鍵はお前が持ってるから無理やり入ってくる奴もいないだろうけどな。それでも一応用心だけはしておけ」
「……ん」
「よし」
最後にフィムの頭をポムポムしてからタクは部屋から出て行った。
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「さて、と……まずは盗賊ギルドだな。次に娼館ギルドか」
盗賊ギルドとは、街の裏側をある程度抑制している組合だ。職業としては『探偵』が一番近い。この世界でも窃盗や殺人は犯罪なので、このギルドではそういう案件は扱っていない。
娼館ギルドとは、その名の通り街にある娼館を纏める組合で、ギルド自体は娼館ではなく人材を派遣するのみだ。元々は商業ギルドの一部だったのだが、ある理由から双方ともに危険だということで分離した。タクはそのある理由を求めてこれから行くのだが。
(ここが盗賊ギルドか。ここは排他的らしいからな。最初に実力を見せて無理やり納得させればいいだろ。どうせこの街には長くても10日間しか滞在しないんだし)
タクが急ぐ理由の最たるものは、あの黒装束みたいな追手が来てしまうことだ。タク1人だけなら気にならないレベルなのだが、今は違う。フィムを守りながら戦うのはかなり厳しいので、出来れば避けたいというのが本音だ。
「(お邪魔します…っと。そこまで戦闘ギルドとの差はなさそうだな……よし)……すいません」
「ふぇ!?」
「「「っ!?」」」
「登録をお願いしたいのですが」
「いや、あれ? えぇ? いつ入ったんですか?」
「先ほど普通に入り口から入りましたけど?」
嘘は吐いていない。ただ、正面の入り口ではなかっただけだ。
ギルドの中にいた男女10名ほどは驚きながらも事の成り行きを見守っている。
「気付かないわけが……いや、でも……うーん……失礼ですが、お名前は?」
「クツキ・タチバナです」
「! 貴方があの!」
「……? 俺のことを知っているんですか?」
「ええ、当たり前です! ハイ・オーガを仕留めた人物として話題になっていますよ! しかもアンクラウト辺境伯様に認められた迷い人! ……あの、握手とかしてもらってもいいですか?」
「は? いや、まあいいですけど……」
戸惑いつつも握手をするタク。どう見ても排他的ではないこの受付嬢はアルバイトか何かなのだろうか? と、珍しく困惑していたりする。
だが逆に、さすが盗賊ギルドだな。と思っていたりもする。情報収集は十八番なのだろう。
「ありがとうございました。用件は新規登録ですか?」
「…はい。いきなり登録とか可能なんですか? 排他的だと聞いていたのですが」
「それは違います。隠密技能を習得している人が少ないので、弾かれる人が必然的に多くなってしまっているだけです」
「あー…なるほど。納得しました」
急に空気が変わった受付嬢に困惑しつつも話を進めて酷く納得してしまうタク。同僚の中でも暗殺に必須の“隠密”はタクにしか習得出来なかったのだ。たしかに待ち伏せや斥候に必要なレベルならいくらでもいるのだが、タクほどの技量を持つ人間は世界でも10人もいないだろう。その代わりに色々と出来ないことも多いのだが。
結局は何が言いたいのかと言うと、実力者相手に追跡したり、盗み聞きしたり、家屋に潜入するレベルの隠密技能を身に付けるには並々ならぬ努力と、それ相応の才能が必要であり、習得できる人間は限られている、ということだ。
「ですが貴方は十分ですね。偶然、確認することも出来ましたし」
「そうですか、それはよかった。運が良かったですね」
「……では登録の為に必要事項を記入してもらいます。文字は書けますか?」
どうやら受付嬢はタクの面の皮の分厚さに敗北を認めたらしい。まぁ微塵も揺るがない顔面を見たら誰だって諦めるだろう。
その後、戦闘ギルドと同じような羊皮紙に書き込んでから、1枚のカードを受け取る。実はこのカード、戦闘ギルドでも貰ったものだ。違うギルドなので貰わないと困るだろうが。
書いてある内容は、名前と現在受けている依頼内容、さらに達成した依頼内容の過去10件分だけだ。ギルドランクはカード自体の色が表している。
ストーン(灰色) < ブロンズ(茶色) < アイアン(鈍色) < シルバー(銀色) < ゴールド(金色) < プラチナ(白金色) < ???
こんな感じになっている。上がれば上がるほどカードがキラキラしていくので、タクは上げたくないと思っているのだが、今は関係ないだろう。
「……これで終了です。何か質問はありますか?」
「いえ、特にはありません。ありがとうございました」
「はい。ではまたの機会に」
この態度が正解だよなぁ……なんて考えつつ、盗賊ギルドを出て、そのまま娼館ギルドの向かうタク。場所は意外にも歓楽街ではなかった。というかタクには普通のオフィス的なものにしか見えなかった。リノリウムやコンクリートは無いので現代のものとは全く違うが。
(ここも正攻法ではダメっぽいんだよな……ま、予定通りギルドマスターに直接会ってみよう)
そしてタクは躊躇いなく不法侵入を実行した。