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11話 交渉

 あの後、色々あってタクはダレイスの屋敷に呼ばれていた。正直に言うと、こんな面倒な人物とは会いたくなかったし、関わりたくもないと思っていた。

 だがしかし、ここで断るのもちょっとあれだろう。怪しい男(言うまでもなくタクのことだ)を受け入れるように説得してくれたのはダレイスなのだから。



「さて、まずはお礼を言っておこうか。奴を倒してくれてありがとう」

「? 大したことはしていないと思いますが」

「あいつは時々、街を襲いに来るんだ。防壁まで食うから対処に困っていた」

「それでも倒すことくらいは出来るでしょう?」

「いや、ここら一帯での脅威と言えばあれくらいしかないからな。傭兵も冒険者もあまり集まらない」



 冒険者。中々にファンタジーな職業が登場した。まあ住所不定のタクではそれくらいしか就ける職がなさそうなのだが。



「そうですか。それで、あれに値段を付けるならどれくらいになりますかね?」

「はは、そうだな……金貨3枚でどうだ?」

「ふむ……その前に通貨についての説明をお願いできますか? 訳あってこの世界のことを全く知らないのです」


「………………分かった。

 まず、通貨は4国全てで共通になっている。だからこの世界を・・・・・知らなくても一度覚えれば大丈夫だろう。

 銅貨・鉄貨・銀貨・金貨・白金貨があり、全てに“半貨”がある」



 そこまで聞いてタクから油断のない、鋭い空気が流れ出す。

 実はタクは油断していた。王女があれくらいだったのだから辺境伯は余裕だろう、と。だが実際は、おそらくだが勇者だということに気付かれてしまった。『この世界』なんて発言の所為で。



「半貨とは……半銅貨や半鉄貨などと呼ばれている。

 10枚で1つ上の通貨1枚と同じ価値があるんだ。

 例として挙げると……半銅貨10枚で銅貨1枚と同価値だ。他も同様だから特に困ることはないだろう」

「そうですか。ありがとうございます」

「いやいや。しかし君も大変だな。たしか……“迷い人”とか言ったか?」

「迷い人、ですか?」

「ああ。大体10年かそこらに1人の割合で君みたいな人が現れるんだよ。この世界のことを全く知らず、見たこともない衣服を着た人間が」

「へえ……興味深いですね。俺と同じような人がいたんですか」

「その様子だと知らないようだし、後でギルドとかで調べてみると良い」

「はい。重ね重ね、ありがとうございます」



 一度、頭の中を整理してみることにしたタク。

 通貨については問題ないだろう。半銅貨が1円玉で銅貨が10円玉みたいなものだ。問題はその後に出てきた“迷い人”という存在。どう考えても転移してきた異世界人だ。

 だが勇者よりも迷い人という存在が先に出てきたことが気になる。勇者とはそこまで知名度の低いものなのだろうか、と。


 可能性としては3つ。他にもあるが今はこれだけでいいはずだ。

 1つはダレイスが意図的に勇者という単語を伏せている場合。目的は不明だが、無視できるほど低い可能性でもない。

 2つ目はタクが勇者という存在と特徴が一致しない場合。おそらく勇者たちは衣服などが国から与えられるので、見たこともない・・・・・・・衣服という迷い人の条件からは外れる。故にダレイスはタクのことを迷い人と勘違いした。これはかなり高い可能性だろう。

 3つ目はダレイスが勇者を知らない場合。勇者はクィトス王国特有のものであり、他国ではほとんど知られていないのなら一応の辻褄は合う。まあ合うだけで可能性としてはかなり低いものだろうが。根拠は、ある人物から聞いた『勇者の役目』と合致しないからだ。



「では話を戻すとするか。私は金貨3枚で買い取ってもいいと思っているがどうだ?」

「そうですね…俺は相場とか分からないのでそれでいいですよ。当面の資金と荷物の処分が出来れば十分です」

「! そうか、それはよかっ――」

「――まあそれは肉だけの値段ですけどね」



 そう呟いた瞬間、空気が凍った。そしてタクは悟った。あ、こいつ相当足元見ていたな……と。



「そ、それは、どういう意味だ?」

「そのままの意味です。あの大量にある肉は金貨3枚でお譲りしましょう。ですがその他の骨や皮まで欲しいと言うのなら、金貨10枚は払ってください。もし貴方に良心が欠片でも残っているのなら10枚なんてケチるとは思っていませんけどね」

「………………君は本当に相場を知らないのか? その様子だとかなり安く提供していることには気づいているのだろう?」

「100g50円で半銅貨1枚1円でも釣り合いが取れませんからね」

「……?」

「おっと失礼、失言でした」



 タクの言う通りであり、指1本が200㎏以上もある奴の値段が金貨3枚で収まるわけがない。先の言葉で計算しても200㎏あれば100万円分の肉なのだ。金貨1枚が1000万円換算だとしても3枚では6トンしか買えないことになる。だがあの巨人がそんなに軽いなどありえない。

 そして、そこまで分かっていながらこれ以上安くするほどタクは甘くない。まぁ前提条件が間違っていたらそれまでなのだが。



「……分かった。だがあいつの骨や皮はあまり利用価値がないんだ。これは本当のことだ。だから10枚は出せない」

「ふむ……なら金貨8枚で手を打ちましょう。これ以上値切ると言うのなら焼却処分します」

「……ふぅ……分かった。交渉成立だ」



 この8枚の中の割合は肉が5、その他が3である。当然ダレイスもその意図に気付いてはいるのだが燃やされても困る。それにこれでもかなり安い・・のだから、ここで妥協しておくのも悪くはなかった。


 こうしてタクの異世界生活が本格的に幕を開けた。



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