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崑崙山への軌跡4

「眠れないのですか」


一人庭園にて空を眺めていた洵玲の前にそう声をかけながら招來が現れる。


「ああ」


「何を考えていたのですか」


「かつて、太帝様が俺に仰って下さった言葉だ」


言って洵玲はその時の事を思い返すように呟く。


「己が進むべき道を定めよ、太帝様はそう仰った。俺はあの方が亡くなって以来、ずっとこの言葉が胸の内に引っかかったまま行動をしてきた」


洵玲は手に持った太帝の形見でもある白帝剣を握り締めながら、かつてのその背中を思い出す。

雄大で誰よりも世界のことを想い、それゆえに修羅の選択をしたこの国の王の姿を。


「俺はあの方の意志を継ぎ、あの方が残されたこの国を守り抜くことが自分の使命だと思っていた。

いや、そう言い聞かせていた。だが、今にして思えばそれはやはり俺自身の選択ではなかった」


「…………」


「俺はあの方が残されたこの国を守ることであの方に尽くそうとしていただけだ。

明の将軍としてこの国と民を魔星から守ること。だが、それは俺が本当にしたいことではなかった」


洵玲はあの時、五国大戦において自分が感じていた本心、それがなんであったのかを語り始める。


「俺がするべきこと、それは魔星を打ち倒すことだ。そして、その先にいる伏魔を滅ぼすこと。

そうでなければこの東源郷の地を真に平和にすることなど出来ない。

守ってばかりで守勢に回っているばかりでは何も解決はしないとわかっていたんだ。

だが、それでも俺がこの地を離れることでその間に太帝様が残されたこの国が魔星達に蹂躙されればと、その考えから動くことが出来ず守るという考えに縛られ、俺は自分の足を止めていた」


洵玲のその一言一言を受けながら将來はただ静かに彼を見守るように耳を傾ける。

彼の内にあった誰にも吐き出したことのなかった本心を受け止めるように。


「だが、そんな今の俺がこの地に残ってそれで魔星の侵攻を止められるのか?

いいや、自分自身に迷いを持って太刀筋にすらそれが現れている奴にそんなことができるわけがない。

だから俺は決断しなくてはならない。何かを選ぶなら何かを犠牲にすること。

太帝様が持っていたその強さ、あの時フェイが見せた決断の強さ。俺もそれに習う時が来た」


何かを選ぶにはもうひとつの選択を犠牲にするということ。

太帝の決断は確かに戦で多くの命を失うこととなったが、その結果として伏魔達の主神である桓因は封じられたままであり、伏魔の中でも最も攻勢に適した力を有するとされる蚩尤も封じられたまま。

もしも太帝が封印を行っていなければこの二人の伏魔すら完全復活を果たし、その瞬間に東源郷を含める全ての世界、宇宙全土が無へと帰していたであろう。

結果として太帝が行った選択によって、東源郷は現在のように僅かな希望をつなぎ止めていた。

そして、フェイもまた魔星や伏魔と戦うということは文字通りそれによって先の五国大戦以上の犠牲が出ると知って宣言していた。

だが彼に取って重要なのは失われる命の数などではない。自分が欲しいと望んだ所有物を守りぬくこと。

そのためなら何千、何万、何億の犠牲が出ようとも彼は戦いを放棄することはない。

それはまさに魔星であるがゆえの考えであろうが、そうした決して揺るがない意志こそが何かを成し遂げる結果にも繋がる。

そして問題はそこに至るまでの責任を自分自身で背負い込めるかどうか。

並の人間であれば、そのような重大な責任を背負い込めるはずもなく仮に背負ったとしても精神が持つはずもなく、道半ばで放棄するであろう。


洵玲はまさにその責任を背負うことから逃げ、選択肢を放棄し、ただ太帝様が残された国を守るという名目に逃げていただけであった。

それを自覚し、彼は自分自身の選択を行うことを決めた。

たとえそれによって自分がいない間、手に届く範囲にいた人々が失われることになろうとも

その先の多くの人々と未来、なによりもこの世界の存続のため、彼は自身の選択を優先する。


「俺は――崑崙山へと向かう。たとえそこでどれだけの時間が掛かろうとも俺は必ず神仙としての力を身に付け魔星との戦いに赴く。それが俺が自分で選んだ道だ」


今よりももっと強く、魔星と渡り合えるほどの力を手にするため、明の将軍としての地位をここに置き、崑崙山へと向かう。

それが彼が下した決断であった。


「ならば私も同行しましょう。もとより貴方が行かなくてもそのつもりでしたが」


「だろうな。というよりもお前はだいぶ前からそのつもりだったんだろう。俺や香蘭よりもお前は自分を鍛えていたんだな。初めからこの国を守るためではなく魔星を倒すための力を手に入れるために」


それはユーリンと戦った際、招來が見せた雷公鞭の威力を指しながら言っていた。


「まあ、そうですね。おそらく香蘭も貴方と同じ答えでしょう。というよりも彼女は最初から崑崙山目当てで行く気満々のようでしたが」


「はは、まあそうだな。だが俺達三人が不在の間、この国の事のことが心配でないと言えば嘘になるが、その点についてはフェイが任せておけと言っていた。俺はそれを信じて、自分が選んだ道を歩むまでだ」


「貴方も一人前の男になったということですね。今の貴方を見ればきっと太帝様もお喜びになるでしょう」


「ああ、だがその前に一ついいか、招來」


「はい、なんでしょうか」


「今すぐに俺の尻に置いているその手をどけろ」



――翌日、王の間に集った洵玲達三人の表情を見てカルラは納得したように呟く。


「どうやら決心はついたようだな」


「ああ、これより俺達三人は貴方がたと共に崑崙山へ向かい、そこで神仙への修行を積む」


答える洵玲に続くように招來も香蘭も頷く。


「よかろう。では付いてくるがいい。ただし最初に言っておくが我ら崑崙十二神仙への道は果てしなく遠い。だがそこへたどり着くまで今の気持ちを忘れないことだ」


「無論」


「まあ、出来うる限りはやらせて頂きます」


「わたくしもすぐに神仙になって見せますわよ。その時はそこの男女、改めて勝負ですわよ」


「へ、楽しみにしておくぜ」


三者の決意を胸にカルラこの王の間にあって天上から伸びる光の階段を生み出す。

それはまさに次元を飛び越え新たな世界へと続く階段。


「では共に行こう」


先導するように歩くカルラとそれに続くユーリン、黄竜。

洵玲達もそれに続き歩こうとして瞬間、彼の背後から声がかかる。


「おい、洵玲」


「……フェイ」


それは意外な見送りであり他者に興味など持たない魔星であるフェイが王の間の扉に寄りかかっていた。


「次までにはちったぁ使える奴になって来いよ」


その言葉に洵玲は笑みを浮かべ剣を掲げ宣言する。


「ああ、次までにはお前を倒せるほどに成長しておく、楽しみにしておけ」


魔星である自らを前にそう豪語した洵玲にフェイは一瞬呆気にとられるような表情を取るが

すぐさまくつくつと笑いを堪えるように応える。


「ああ、楽しみにしてるぜ」


その言葉を背に洵玲達は新たなる世界、新たなる希望を掴むべく崑崙山へと足を踏み入れる。


それは明に存在した三将軍達の新たなる始まり。


これより後、わずか半年足らずで神仙の位に到達した洵玲、招來、香蘭はそれまで崑崙山において不在であった崑崙十二神仙の三人として選ばれ、それぞれ崑崙山を形成する山々を与えられることとなる。


そうして崑崙山開闢以来、全ての崑崙山を統治する崑崙十二神仙の完成と共に

舞台は新たなる幕を開けていく。


崑崙山にそびえ立つ神仙養育の崑崙学園。

そこへ新たに入学していく七人の神仙候補生達。

彼らとそれを導く崑崙十二神仙の物語。



今ここに百八の魔星とそれを統べる伏魔に挑み、東源郷の希望を勝ち取りし英雄たちの物語が始まりを迎える――。



エスペランサーセイバー「封神伝記」 To Be Continued

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