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崑崙山への軌跡2

「はぁはぁ…」


そこは王宮に存在する訓練用に拓けた場所として作られた庭園。

そこで二人の人物が対峙していた。


一方は白く輝く美麗な剣を構えた青年。

濃い茶色の髪を揺らし、ほどよく引き締まった肉体を持ち、その額には、この東源郷三大種族・仙人と呼ばれる種族に存在する仙眼と呼ばれる第三目の存在していた。


もう一方の人物は金の髪に黒をベースとした衣装を着て、手には獲物となる禍々しい槍を携えていた。

見た目だけなら普通の人間と何ら変わらない特徴であったが、唯一普通の人間と異なる部分を指摘するなら、本来人の瞳において白目とされる強膜がその人物に限っては白ではなく黒であること

そして対峙するだけで感じる他者を圧倒する威圧感と禍々しさ。

並の人間であっても一目対峙するだけで十分に理解出来る。この者は“人ではないと”。


「……どうした、洵玲。いつまでも突っ立てても訓練にならねぇんじゃねぇか」


すでに対峙して数分以上経過しているのか退屈そうに金の髪の男が呟く。

それに答えるように洵玲と呼ばれた男が剣を構えなおす。


「なら、遠慮なく行かせてもらうぞ、フェイ!」


そう宣言すると同時に洵玲と呼ばれた男の姿が消えた。

瞬時に間合いを詰め、フェイの眼前にて神速の域の横薙が放たれた。

達人であっても何が起こったのか理解できぬまま首が吹き飛んでいたであろうその動きに、目の前の人物――フェイと呼ばれた男――はそれを避けるでもなくあしらうように槍の柄でその一閃を弾く。


その衝撃により剣を放った洵玲の体勢が崩れたところへ目掛け、槍の尖端を突き出す。

体勢を崩した状態にも関わらず、その洵玲は器用に身をひねり

突きの一撃を躱しながら、今度は相手の右手突きによる右半身の硬直と隙を狙い、そこに再び先ほど以上の神速の太刀を持った抜刀による一撃を放つ。

そこは相手にとっての死角でもあり、今度はまさに反応すら許されぬ場所であった。


勝負あった。

そう思った次の瞬間、後ろに大きく吹き飛んだのは洵玲であった。


「が……ッ!はッ!」


「……ったく、馬鹿が。単純な手に引っ掛かってるんじゃねぇよ。

お前がそこに移動するように誘導した事くらい気づけよ」


そう、本来フェイの死角であったはずその場所にあえてフェイが誘い込むように攻撃を行い、洵玲はまんまとそこに飛び込んだのである。

たとえ死角であっても来るとわかっている場所に攻撃を合わせることなど造作もない。

フェイが放った槍の柄による一撃が洵玲の胸に直撃し、そのまま彼は後方に吹き飛んだのである。


「ったく、今日はやめだ。いつにも増して動きがトロすぎるんだよ、阿呆が」


そう先ほどの常人であれば目に移ることすらない洵玲の動きを評価する。

それに慌てたように洵玲が立ち上がり制止を行う。


「ま、待ってくれフェイ。まだ訓練は途中のはずだ……!俺はまだ十分やれる……」


「まだ気づいてないのかよ、馬鹿が。今のてめぇじゃいくら訓練しても根本的に強くなんかなれねぇーんだよ。自分の道もまだハッキリと定まってない奴が、自分自身の強さを磨けるわけないだろう」


その台詞に洵玲はまるで胸の内を見抜かれた感覚を覚え、引きとめようとした腕をおろし立ち尽くした。


そうして二人の訓練が終わったのを見計らい淡い桃色の髪をした可憐な少女と

緑の長髪をなびかせる眼鏡を掛けた美男子と呼ぶべき男がそれぞれフェイと洵玲の傍に駆け寄る。


「フェイ様、お疲れ様です!これ汗を拭く為の布と水です!よければどうぞ!」


「あ?あんくらいの運動で汗なんか流すかよ。あとそうやってイチイチ俺に構うのはやめろって言っただろうが小明ショウメイ。…ったくうざってー」


「そ、そんな言い方されると、ちょっとへこみます」


渡された布と水筒を無視され、素通りするフェイに対し軽く俯く小明。

しばらくの沈黙の後、変わらず下を向いている小明の額に軽くデコピンをし、水筒を受け取るフェイ。


「あいたっ!」


「ったく何やってんだか。さっさと行くぞ、小明」


「あ、ま、待ってください!フェイ様ー!」


慌てて自分の先を歩くフェイの後を小走りで追っていく小明を見ながら

洵玲の隣に立つ男が呟く。


「相変わらずのようですね、フェイさんは。あれで小明さんの事を気に入っているみたいですから、意外とツンデレという奴かもしれませんね」


「……どうだろうかな。それはそうと招來」


そう言いながらもあのふたりの関係を微笑ましく思い、わずかに顔を緩める洵玲であったが、すぐ様、何かに気づき顔をしかめ、自分の隣に立つ男の名を呼ぶ。


「はい、なんですか?洵玲」


「今すぐに俺の尻に置いているその手をどけろ」


いつの間にか自らの腰の下あたり、丁度お尻に位置する場所を触れようとしていた招來の手をすかさず掴み、腕をへし折るかの勢いで握り締め、怒気を内に込め静かに呟く。


「おや、単なる冗談でしたのに、そんなに怒らないでくださいよ」


「お前のその手の冗談は洒落にならんからやめろと何度も言っているだろう」


そう、今この洵玲の隣に立つ男は雲招來うんしょうらいとは、この明国の将軍のひとりであった。

征右将軍として軍事戦略や計略を巡らせる知将としての役割を兼ね備えた人物であるが、このように妙な噂が漂う人物であり、そのせいで洵玲にまで被害が及んでいるとか。


「ま~た、アンタはそうやってはセクハラやってるの、このホ○眼鏡」


その瞬間、二人の後ろから少女の声がかかる。

振り向くとそこには白い鎧に身を包んだ高貴な立ち振る舞いのオサキ(九尾)の少女がいた。


「おや、香蘭ですか。貴方こそ自主訓練はもう終わったのですか」


香蘭と呼ばれたその少女はツインテールの髪をなびかせながら「ふふん」と上機嫌に鼻を鳴らす。


「当然よ。崖から飛び降りての訓練、森の中に仕掛けた罠に自ら飛び込み、四方八方から攻撃を受けながら進み、待機させていた術師隊からの遠距離攻撃にも真っ向から飛び込みねじ伏せた。今日もわたくしの磨きぬかれた肉体と精神があらゆる苦難を凌駕いたしましたわよ!

まあ、本音を言えば後半の術師隊がちょっと手加減していたみたいでイマイチ体の芯まで攻撃が響かなかったのが残念ですわね」


「それは手加減していたのではなく、単に嬉々として迫る貴方の変態っぷりに引いていただけですよ、このドM」


「なによ!そういうアンタこそなにしてたのよ!このセクハラホ○眼鏡!

わたくしは三将軍の一人として常に自分を高める訓練を怠わないだけよ!」


香蘭と呼ばれた人物が自慢気に話すその訓練内容に対し、招來はアッサリと呆れるように切り捨て、それに食ってかかるように二人の口論が始まる。

それを呆れた様子で見ていた洵玲がため息を漏らす。


そう、この少女、明香蘭めいこうらんもまたこの明に存在する将軍の一人であり“征左将軍”として戦場では常に殿を守る要であり、彼女の常に敵の攻撃を受けながらも立ち上がる不死身の能力は

敵味方共に震えさせるほどの武勇を語る。

もっとも単にドMだから死なないと、一部の人物たちは語っているが。


「……それにしても俺もまだまだな」


先ほどのフェイとの戦いを思いだし、未だ自分が未熟であり同時に魔星に対して

決定的な力を振るえない存在であることに歯がゆさを感じていた。


すでに五国大戦から一月、魔星達との戦いは戦端が開かれていた。

各地で襲撃される魔星の驚異に対し未だ人類側は決定的な守りや対抗手段を置くことが出来ず、その戦力差はもはや戦い以前に一方的な虐殺と言っても良かった。


このままでは五国だけでなく、東源郷を含める全ての世界が破壊し尽くされる。

そうなるまえに何かを手を打たなければ。

そう考えながらも、自らが成長するための足がかり、それに戸惑いながら日々訓練でそれを誤魔化そうとしていた洵玲に、この日、ある転機が訪れることとなった。

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